2章

第18話 おっさんはワンパンする

「死ねええええ!」


 ノウキンは俺に襲いかかってきた。

 銀の指輪をはめた拳が、俺に迫ってくる。


「はっ!」


 俺は後ろに飛んで、ノウキンから距離を取った。

 前髪がハラリと足下に落ちた。あと少しで、顔面に拳が叩き込まれるところだった。


「クソッ……! オッサン、逃げやがったな。次は殺してやる」


 ノウキンは本気で、俺を殺すつもりか。

 これは単なる試験のはず。俺の戦闘力を測ることが目的だ。

 だが、ノウキンは俺に殺意がある。それも、かなり強いものだ。


「おい……ノウキン様、本気だぞ」

「オッサン、殺されるな」

「早く逃げたほうがいい」


 ギャラリーの魔術師たちがざわつく。


 エリシアとシルフィも、俺を心配していた。二人は息を止めて、俺をじっと見ている。

 教え子を不安にさせるのはよくないな……なんとか早く戦闘を終わらせたい。


 俺は指先に意識を集中する。空気中の酸素に魔力を流していく。炎を強くイメージして……


「おらぁ! 死ねえええ!」


 ノウキンの叫び声が聞こえる。


 ——突如、俺の目の前に、知らない景色が映った。

 灰と火の粉が舞う。血の匂いがする。

 倒れている人間たち。

 うっ……頭が痛い。

 ここは……いったいなんだ?

 まるで自分が自分じゃないような。

 俺の手の中に、炎が燻っている——


「先生ー! 逃げて!」


 エリシアの叫び声で、俺は意識が戻った。

 とっさに、指先からファイアーボールを放った。


「ぎゃああああああ!」


 ノウキンは大きく吹っ飛んだ。

 まるで木の葉のように宙をひらひらと舞って、地面に落ちていく。


「ぐはっ……!」


 どすんっと、ノウキンは地上に叩きつけられた。

 ノウキンの胸甲に、穴が空いている。


 まさか死んでしまったのか? 

 俺は人を殺してしまったのか……?

 ノウキンに駆け寄る。


「うぐぐぐ……」


 うめきながら、泡を吹いて倒れていた。

 よかった。生きていた。

 試験官を殺してしまったかと思って、焦ったぜ。


「勝者、アラン・ベルフォート!」


 じいさんの試験官が高らかに宣言した。


「アラン殿、実技試験は合格だ……!」

「俺が……合格した」


「やったのだ! 先生すごいのだ!」

「アラン先生! 大好きです!」


 エリシアとシルフィが、俺に向かって走ってきた。

 しかも全力で。

 そのまま勢いよく、二人は俺にぎゅっと強く抱きつく。


「おうふっ……ありがとう。二人とも」


 

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