ペンを持つ練習からはじめている
人見知りだが希代のスクロール魔法使い・シルベは、なんか知らんがキツネになってしまった。魔法が使えれば元に戻れるんだが、手がそういう作りになってないんよ。忘れたい事実だが公爵令嬢。王子に拾われて、王城で飼われる生活を送ってるよ。「白いキツネは吉兆」の言い伝えのおかげで前より自由なのでは、と思わなくない。
「言わなくちゃ……今ここで言うんじゃよう」
ディスコミュニケーション恋愛の一幕(全8話)。
(表紙絵)https://kakuyomu.jp/users/green_wood/news/16817330656490591570
(紹介絵)https://kakuyomu.jp/users/green_wood/news/16817330657285317793
この作品は、KAC2023「筋肉」のお題で書いた掌編『城まで抱っこしといてよ』を児童小説コン向けに短編(と長編プロット)にしたものです。
◆作者の思う見どころ
〇人見知りに理由とかない。ぬくぬく育ったハイスペック主人公に覚える親しみと可愛さ。
〇周囲の溺愛に無自覚な主人公がちょっとだけ成長します。
※ネタバレ注意
キャラ設定と長編プロットですので、適当に読み飛ばしをお願いします。
◆キャラクター設定
〇主人公:シルベ・トレガロン
14歳の公爵令嬢にして希代のスクロール魔法使いという完璧なステータス持ちなのに、人見知りのために言いたいことを言えない。立場に見合う務めができないのでトレガロン公には見放されていた。第一王子・アロンの求婚を断ることができずに婚約者になるが、お披露目の場で婚約破棄された上、謎にキツネ化してしまった。性格は内弁慶で人前でなければ強気。視野は狭いけれど自力で古えのスクロール魔法を復活させた努力家ではある(他の使い手がほぼいないので希代のスクロール魔法使いだったりする)。キツネ化したことで口腔の構造的に話せないことで、自分の欠点(人見知り)をすっかり見逃して調子に乗っている。キツネ生活の末、気持ちを伝える大切さを知ることにはなる。誰かの顔をまじまじ見たことがないので人の区別ができないし、審美眼も持ち合わせていないが、実は妖精の国〈アルフヘイム〉の姫ですとか言ったら、アロンを含めてみんな信じるような浮世離れした外見をしている。特に、深い青みの瞳と銀色の髪。キツネ化以前から、かなりの釣り目だが皆と同じだと思っている。下がり眉もそう。
〇第一王子:アロン・ラーデル
シルベと同じ14歳。女神の加護を受け頑健な肉体をもっている。病弱な兄キーレンが王位継承権を譲ったことで第一王子となった経緯から責任感は強い、選ばれた者の孤独。押し切った婚約のためにシルベに矛先が向いてしまったと悔やんでいる(安全を確保の上で疑惑を晴らし婚約を盤石にするつもりだったが、あぶり出すはずの呪い主に先手を打たれた自責の念は深い、ニシャを疑わなかったのは、兄キーレンへの信頼のため)。消えたシルベが妖精の国〈アルフヘイム〉に帰ってしまったのではないかと密かに心配している。黒い髪と瞳。肌は白い。女神の加護があるので鎧なしの軽装、俊敏で力持ち。お姫様だっこしたら大抵惚れられるのを自覚していない。そもそも、ほぼ万人に好かれている。恵まれた者ゆえのゆったりした性格。彼の持つ加護は、一定以上の攻撃を弾くので、キツネ爪の引っ掻きはふつうに痛い。シルベ偏愛者の筆頭。
〇第二王子・キーレン・ラーデル
15歳。元第一王子。長兄であるが弟アロンに継承権を譲った。病弱だけが唯一の欠点。幼い頃にアロンを庇った時にできた背中の傷跡がある。咳込んで窒息する夢を毎夜見ていたが、ニシャの魔法で癒されたことで心を許している。本体は病床にあるが、ぬいぐるみに魂を移して散策しているところをシルベに拾われ(約3年前)、日中はシルベの侍従(ヌイシー)としてふつうに労働していた。余命が長くないと知っているので正体は明かしていない。婚約を破談にしてよう、とシルベに言われたのは直接の理由ではなく、シルベの性格を知っており、先のことを考えれば婚約破棄が好ましいと判断した。ニシャと共謀して呪いの手紙を偽装(作っただけで陛下の弱体化は単なる老衰)。アロンの求婚に応じるにしても拒否するにしてもシルベの気持ち次第だとは思っている。爆発の原因は、シルベのうっかり魔法だと正確に推測。金髪1本三つ編み肩下げ。シルベと同じ深く青い瞳。シルベ偏愛者の一人だが、親とか兄の愛情と思い込もうとしている。
〇王宮術士:ニシャ・フォノカ
身体的には15歳。ヌイシ―の仲間を呼び出せないかと試したシルベは、ぬいぐるみの国〈ソフトヘイム〉に封印されていた薄闇の国〈ニブルヘイム〉の皇太子を召還してしまっていた(姿は子猫のぬいぐるみ)。召喚者が術を解除すれば〈ソフトヘイム〉に戻されることをニシャは恐れている。一応は本来の姿に化け、王宮術士として真面目に労働しつつ時機を窺うが、シルベが引きこもりすぎて狙う機会がなかったため、キーレンの策(偽手紙の計画)に従うふりをしてシルベを犯人に仕立て、公の場で殺害を図った。王城爆発とキツネ化の直接の原因はシルベ本人のスクロール魔法の暴走である。殺害の失敗から方向転換して、シルベを身体の中に取り込んで一体化しようと目論んでいる。本作唯一の俺様系とも言える。外見は人と大違なく、垂らした黒髪、赤い瞳、白い肌。術士のローブをまとっている。シルベ偏愛者の一人。
◆長編化した際のプロット
【第1話】王を呪ったという濡れ衣で婚約破棄されるシルベ。王宮術士の攻撃魔法を跳ね返したら謎の爆発が起こる。森の中で眼が覚め、何者かに捕られたと思ったら、自分の姿はキツネとなって王子に抱っこされている。ペンが持てず魔法を使えないので、王子と城に帰ることにした。(短編第1話と同内容)
【第2話】抱っこされて眠りながら見る夢でお披露目の前日を回想する。王子はシルベの瞳と同じ色の額飾りを手渡し、お披露目で身に付けるよう言って、大事なものを全て差し出してもいいと告げる。(短編2話と同内容)
【第3話】ケガが癒えたので外に出ると、「吉兆の白キツネ」としてちやほやされる。姿を利用して国王陛下に謁見。偽の手紙(シルベが弱体化の呪いを仕込んだというもの)を見せてもらおうとするが何ともならない。二人の会話から、王宮術士の攻撃は捕縛に偽装されていたようだと分かる。ペンが持てないので謎(キツネ化した原因)を解き明かすしかないのかと迷う。(短編第3話と同内容)
【第4話】キツネを抱きながら自問する王子。話を聞くと、シルベのことを人世界に迷い込んだ妖精の国(アルフヘイム)人で、本国に帰ってしまったのではないかと心配している。偽の手紙や偽装された攻撃魔法のことを考えると、諸々の犯人は王宮術士だろうと敵を定める。魔法が使えないうちに再び攻撃された時の回避方法として、女神様の加護で頑健な肉体をもち、攻撃を弾く属性を持った王子を盾にすることを思いつく。(短編第4話と同内容)
【第5話】術士が城に戻る前に味方を確保しようと、シルベは別棟から侍従を咥えて連れて来た。侍従のヌイシ―は子熊でぬいぐるみの国(ソフトヘイム)から来た。鳴き声でもヌイシーなら分かるかと思ったが言葉は伝わらなかったが、長い付き合いなので話はおおよそは通じている。居室に戻ってきた王子とヌイシ―はすぐに兄弟のように仲良くなる。キツネの正体がシルベであることは王子に隠した。(短編第5話の爆発手前までと同内容)
【第6話】ソフトヘイムを聞いたことがないという王子に、シルベが彼の地から仲間を召還しようとしたことを話すヌイシ―。召喚した子猫のぬいぐるみは、不穏な魔力を放っており、召喚直後にどこかに脱走したままなので、シルベが元の姿に戻ったら探そうと話す。
【第7話】再会したら何をどう言うか試しに白キツネ様を相手にやってみよ、と王子をけしかけるヌイシ―。謝罪し、安全を確保の上で疑惑を晴らし婚約を盤石にするつもりだったことを語る王子。変わらぬ気持ちに、むにゃむにゃと反応するシルベを察してヌイシ―は怒る。
【第8話】トレガロン公により、侍女の娘が辺境伯に出仕するのに同行して身を潜めるよう手筈が整えられていることを伝えられる。すぐに決められずに迷う。隣国に単身逃げても、人見知りなので、魔法の才を売り込むこともできない。まだ子どもなのだ。人見知りを直せたら一人で生きていけるかと悩む。
【第9話】自分が押し切った婚約のためにシルベに矛先が向いてしまったと悔やむ王子。辺境伯領地での安全確保に必要なものをヌイシ―と話し合う。シルベは行っていいのか迷う。
【第10話】王子に言いたいことがあるような気がすると悩むシルベ。公務をこなす王子は第一王子という役を演技しているようにも見える。言いたいことを言えないのは誰でもそうなのかと悩む。唯一の特技(スクロール魔法)も使えない、ただの人見知りである。
【第11話】変化を解除して(ヌイシ―にスクロールを使ってもらって)、王子に婚約したくないと言おうとするが、対峙の寸前で隠れてキツネの声真似して誤魔化す。
【第12話】辺境行きを止めて、「婚約したくない」と言えるようになるまで練習することに決める。
【第13話】トレガロン公は、シルベが婚約したとしても務めをこなせないので結局は破棄に至ると見込んでおり、反逆者の濡れ衣さえ晴らされれば良いと考えている。迷惑掛けんなってことですねとヌイシ―が笑う。
【第14話】キツネ姿で何を言っても鳴き声にしかならないので、王子に話しかけて練習する。「婚約したくない」と言えるようになる。
【第15話】変化を解除して対面する。歓喜する王子を見て、顎の傷痕が治ってから言おうと怖気づく。安全な場所にいると伝えると、王子は妖精の国に一時的に戻っていると誤解する。
【第16話】ヌイシ―不在の時にキーレン王子が現れてからかわれる。王子たちの会話。日中に出歩けるまで回復したのはニシャのお陰であると知る。
【第17話】大広間の方で再びの爆発。王子を盾にしながら向かうと、大広間は消し飛んでいた。宙に浮かぶ妖しいローブの男はニシャ。信頼していた者の裏切りに落胆する王子たち。加護もちの王子は攻撃を弾くはずが、キツネを庇って血まみれになる。尻尾で壁に古語を記して王子に詠唱させて森へ逃げる。(短編第5話爆発から第6話と同内容)
【第18話】瀕死の王子を助ける者がいない。ニシャが追ってくるのを待つ。掠れて発動するか怪しい樹皮に記した古語を眺めるうち、お披露目の時の爆発もキツネ化も自分のせいだと気付く(踊りの魔法を記した靴底の文字が掠れて暴走した)。不可視なだけで、まだ持っている靴を思い出して変化解除を詠唱(キツネが言える発音で)。王子の血が足りずに自分のを混ぜて治癒魔法を記しながら詠唱。(短編第7話と同内容)
【第19話】王子は回復したが、なぜか自分はキツネに戻っている。でもすぐに言おうと決めていたこと「額飾りをくれてありがとう」を言う。鳴き声を聞いて王子は喜んでいる。スクロールを使って現れたヌイシ―が子猫のぬいぐるみを見せる。ニシャは、かつてシルベが召喚したのだと分かる。変化を解除しようとしても戻らない。「女神の加護」が封じられた額飾りが、呪いのアイテム「女神の嫉妬」に変化していると判明。(短編第8話と同内容)
【第20話】全ての犯行をニシャに押し付けて、王子とシルベが討伐した(過酷な戦いで王子は女神の加護を失った)ことになった。婚約破棄は撤回されたが、城の復旧が続き、婚約の正式な成立は先延ばしになり、シルベは妖精の国へ一時逗留していると正式発表。ぬるいキツネ生活再開、至って平和。
【第21話】王都に魔物が現れる事件が続く。ニシャ(子猫のぬいぐるみ)はソフトヘイムを抜け出したことを偽装していたが、魔力を封じられて偽装も解けたことを明かす。ニシャは薄闇の国〈ニブルヘイム〉の皇太子で、ソフトヘイムに封印されていたと言う。
【第22話】自分をソフトヘイムに封印した第三皇子は人世界〈ミズガルズ〉の召喚者を探しているのだろうと笑うニシャ。被害を止めるためにスクロールを作る必要がある。キツネ手でどうするか迷う。王子はいつもシルベの手を握りがち。加護なしの王子は戦いに参加しようとする馬鹿野郎である。
【第23話】ヌイシ―はずっと姿を見せていない。喋れないまま王子の居室の壁に書いてキツネがシルベであると明かす。
【第24話】尻尾で筆談まじりで会話。キーレンが病弱であることの発端は幼い頃に王子を庇って負ったケガだったことを話す(王子は加護もちなので無駄なケガである)。シルベも自分の弱みを言おうと探すがなく、何不自由なく育った単なる人見知りだ言って、二人は笑い合う。インベントリの中で額飾りが爆発しそうなほど光り輝いている。
【第25話】騎士団によって討伐の知らせ。小物を倒せば大物が出て来るぞと脅すニシャをソフトヘイムに送り戻そうとすると、秘密を話すから止めろと懇願する。陛下への呪いの手紙を作るように命じたのはキーレンだと言う(呪いは発動してはいない、陛下の弱体化は単なる老衰)。
【第26話】現れるヌイシ―。ニシャの言うことは嘘ではないと告げる。人前で話もできないシルベに第一王子の婚約者は務まらない。ともかく一旦は婚約破棄が好ましいと判断したと述べる。アロンの問いに答え、自分がキーレン(昼間はぬいぐるみに魂を移している)と明かす。
【第27話】ソフトヘイムに帰る時が来たと言ってヌイシ―が去る。侍従であり、唯一の友人とも言えるヌイシ―を失う。ニシャは、王宮術士としてキーレンの病弱な身体を癒していたが、寿命を伸ばすことはできないのだと言う。ヌイシ―が死んでしまうのかと怯える。
【第28話】ニシャを封じた第三皇子が現れて王都は半壊する。女神に祈るが無反応。
【第29話】王城に現れた第三皇子、助かりたければ自分に魔力を戻せと囁くニシャ。シルベへの攻撃を庇ってニシャは消失する。
【第30話】尻尾で書いた魔法で第三皇子をソフトヘイムへ封印しようとするが跳ね返されてヌイシーは本当にソフトヘイムへ送られてしまう。
【第31話】キーレン(ヌイシー)を失った二人は呆然とする。インベントリから出した光り輝く額飾。第三皇子は額飾りを壊してシルベの姿を元に戻す。完全な身体で魔法を使ってみよ、と誘う。全力の魔力封じは魔力ごと食われる。舌なめずりして狙う視線を感じて咄嗟に森へ逃げる。
【第32話】気付いたらキツネの姿で森を彷徨っている。人に戻る気力はもうない。アロンとの生活を回想する。
【第33話】キツネの身体は健康で雨に濡れた程度では何ともない。城から血の匂いがする。ニシャに魔力を戻していたら。尻尾で記したソフトヘイム封印を使わなければ。魔力封じにもっと時間があったら。無駄な仮定を繰り返す。アロンとの生活を回想する。
【第34話】獣みたいにウサギをかみ殺すが食べることはできない。ウサギの黒目は釦〈ボタン〉みたい。アロンとの生活を回想する。インベントリから出した額飾りは砕けている。お披露目の時に来ていた(実際には婚約破棄された時の)夜会服と靴。
【第35話】砕けた額飾りがなぜか輝く。嫉妬なのか加護なのか分からぬ光。まだアロンは戦っているのか。アロンは自分を待っているんじゃないかと気付く。一番強い魔法をまだ使っていない。
【第36話】川石に水で記して詠唱して人の姿に戻る。転移を繰り返す。
【第37話】三つの隣国をまわる。砕けた飾りを額に貼り付け、アロンの婚約者を名乗って羊皮紙〈スクロール〉を集める。全てに魔法を記してゆく。
【第38話】王城には第三皇子が巣くっているが、シルベが消えた森へ進もうとするのをアロンと騎士団が女神の加護を使いながら留めていた。なぜ戻ったとか言う王子をキツネに戻って尻尾ではたいた。「私もぶっていいよ」って言ったら抱っこされた。城に残された者を転移させる。
【第39話】風に乗せて大量の羊皮紙〈スクロール〉を空に飛ばす。城を覆うように舞い落ちるスクロール。発動条件は強い掠れ、靴底の踊る魔法の暴走を再現した爆発が幾重に重なって城を包む。城が無くなり、残った第三皇子は暴走魔法で黒キツネになっている。さらにキツネのぬいぐるみに封じて鳥かごに入れる。城の再建までお披露目はなしとなるとかなり遠い先の話、既に婚約者であることは知れ渡っている。
【第40話】エピローグ。キーレン(ヌイシ―)に黙とうを捧げて眼を開くと、同じ姿勢をする子熊のぬいぐるみと子猫のぬいぐるみに気付く。ニシャは消失寸前でソフトヘイムに自力で戻ったらスクロールを持ったキーレン(ヌイシ―)が来たので人世界〈ミズガルズ〉に戻ってきたところだと言う。鳴き声。見たら自分の姿がキツネに戻っている。「女神の嫉妬」が再発動して元の姿に戻れない。婚約成立を認めないキーレン(ヌイシ―)とニシャ。シルベは心をこめて王子に気持ちを伝える(鳴き声)。意味は皆に通じている。