第8話 今ここで言うんじゃよう

「くおおんお」


 あれ、顔に手をやると、もふり。

 手を見ると丸い肉球。


 変化へんげが解除されたはずなのに、キツネに戻ってるう。

 全身に付いた血もさっぱり消えて、全き白キツネ様じゃよお。


「くぉ・お・お・ん〈解けろ〉」

「くぉ・お・お・ん〈解けろ〉」


 ダメだあ。靴底の魔力不足じゃあ。


「シロ」


 落ち葉から半身を上げた王子が私を呼ぶ。

 顔には生気が戻りつつある。


 言わなくちゃ……今ここで言うんじゃよう。

 王子が生きてたら、すぐに言うんだ、そう決めてたろ。


「ひひひ、ひひひ、ひひひ」


 王子は私を見つめている。


「ひひひ、額飾りをくれて、あああ、ありがとうざいやっす」


 

 私が鳴くと王子はいつも喜ぶのだ――


 


「今なんか吠えてましたけど、大事なことでしたか?」


 急に現れ、転移魔法の光の粒を身体に残しながらヌイシ―が言った。

 片腕の脇には羊皮紙スクロール――私が作ったものを抱えている。

 ヌイシ―は続けて問う。


「さっきのもういっぺん言ってみてもらえます、よくよく聞いたら意味が分かるかもしれませんので」


 いや、あの……、貰ったものに感謝するのって人として当たり前ですから、むにゃむにゃ。


「それはともかく、シルベ様のとっておきのスクロール魔法――魔力封じを使ってぶち倒しておきました、ほら、このとおり」


 スクロールを持ってない方の手で掴んでいた鳥かご――中には見覚えのある子猫のぬいぐるみが入っているのを見せる。


「見覚えあるね、なんだっけ?」

「昔、私めを仲間に会わせようと、シルベ様がソフトヘイムから召喚したものです」

「ふーん、すぐに逃げちゃったでしょ、子猫のぬいぐるみ」

「どうやら、人の姿に化けていた様子」

「…………」


「これがニシャ?」鳥かごに手を伸ばす王子。

「手を離せえ! ソフトヘイムに戻るのは嫌だああ」

 暴れるがどうしようもない。そもそもぬいぐるみの戦闘力はゼロだ。 


「これでソフトヘイムの存在が証明されましたな、アロン殿下」

「君が兄さまのぬいぐるみでないあかしにはならないね」

「離せよおおお」

「ともかく、スクロールあるんでしょ、私を元に戻して! ヌイシ―」


 くおおおん


 元に戻った歓喜の声が森に響く。


 くおおおん?


 王子がくれた額飾りには「女神の加護」が封じられていたらしい。どういうわけか、不可視領域インベントリの中で「女神の嫉妬」という呪いのアイテムに変わっていることは後日分かった。


 くおおおん!

 

 加護を失っても奴に変わった様子は特にない。

 いや、妖精の国アルフヘイムからまだシルベが戻らないと、ため息をついてるのは変。


 でも私が鳴くと王子はいつも喜ぶのだ――



〈完〉


 

 

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城まで抱っこしといてよ~キツネになったのでスクロール魔法が使えません~ 尚乃 @green_wood

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