第5話 「引っ越し日の午後の一コマ」
彼女たちが引っ越ししてきたのはとある日の土曜日だった。
恵が用意した焼きそばは、それなりに好評だったんだけど、結局のところ彼のボケのせいもあって笑いのネタにされていた。沙織さんを除いて
―――昼食後
洗い物を済ませた俺は、自分の部屋で来週の買い出しを考えていた。これはお母さんが死んでからの日課になっている。
「えーっと、今日から5人になるんだよな」
パソコンに向かって、今まで2人分だったのを5人分に増やして、今週の献立を考えているとドアをノックする音が聞こえた。
「はーい。どうぞ!!」
開いたドアから沙織さんの姿が見えた。
「入っていい?」
「どうぞ」
そういうと「私もいい?」と言って、沙織さんの後ろに隠れていた紗耶香ちゃんも一緒部屋に入ってきたんだけど、そのことに沙織さんは驚いていた。
「紗耶香!!いつのまに?」
「ひどいな~おねぇちゃん。私、さっきから後ろにいたよ」
「うそ?いつからいたのよ」
「うーんとね。ドアの前でノックするのをためらっていた時から」
「---っ!!」
その言葉を聞いて沙織さんは顔を真っ赤にしている。それを見て笑顔を見せる見せる紗耶香ちゃん。どうやらいけないことをずばりと言ってしまったようだ。
「おねえちゃん。顔赤いよ」
「紗耶香!!」
紗耶香ちゃんに逃げる隙も与えず、ヘッドロックを掛けた。その瞬間、沙織さんのスカートがはらりと捲れたんだけど、そんなことに気付いていない様子でぐりぐりと紗耶香さんの頭を締め付けていた。
「おねぇちゃん!!痛い!!痛い!!」
「あんったって子は」
「痛いってばー」
「そんなこと言って」
バタバタを暴れている彼女たち、午前中とは違い引っ越しの片付けが終わったのか二人とも余所行きの服を着ている。つまり二人ともスカートをはいているんだけど、バタバタと暴れているものだから、時折、ちらちらとスカートの中が見えている。
「ギブアップ!!ギブアップだから」
普段の学園のアイドル的な彼女からは想像できない姿。しかも、妹相手に本気モードで起こっているようだ。一方、紗耶香ちゃんはギブギブと手をパンパンと叩いているのにやめようとしない。必死にもがいている紗耶香ちゃんは俺がいることを沙織さんに告げた。
「めぐみ君が (見ている)」
「えっ?あっ?」
ようやく俺に気付いたというか、最初からいたんだけど、慌てて紗耶香ちゃんを解放して俺の方を向いた途端、うつむいたその顔は真っ赤だった。
かなり気まずい時間が流れた。それを察した紗耶香ちゃんが「もーおねぇちゃん」と話しかけた途端。ぺちっと彼女の頭をはたいた。
「痛い。暴力反対!!」
紗耶香ちゃんの抗議に沙織さんも負けていない。今度は口げんかを始めたのだった。このまま喧嘩をしていても埒があかないので
「あのぉ~。よろしいでしょうか?」
と声をかけるとびくっとなった二人は、恐る恐る俺の方を向いた。
「ところで、何の用でしょうか」
「「あ」」
こうして、二人は何故か俺の前で正座をしている。別に怒鳴ったり怒ったりはしていないんだけど、喧嘩をしたことに対する反省の意味があるのだと思う。そして、最初に話しかけてきたのは沙織さんだった。
「あ?えっと…亮さんから立原君が今日買い出しに行くって聞いたんだけど」
「あ…行くよ」
「私もついて行っていい?」
「あっ。私も行きたいんだけど」
紗耶香ちゃんも行きたいようなんだけど、これは困ったぞ、何故ならこの家から最寄りのスーパーというよりは、ショッピングセンターと言った方がいい。通称パオンショッピングセンター、俺の家からも近い上、小春高校からも近いとあって、結構な確率で小春高生と出くわす場所だった。沙織さんも里奈さんと一緒に歩いていたのを何回か見た記憶もある。
「いいけど…」
「けど…どうしたの?」
「けど…大丈夫?一緒にいるところ見られたらまずいんじゃないの?行先はパオンショッピングセンターなんだけど」
えっ口から言葉にならない吐いた沙織さんが少し考えて手で顔を抑えている。一方で
「行く!!行く!!」とはしゃいでいるのは紗耶香ちゃんだった。そんな彼女を横目で見ている沙織さんも行くと言い出した。
「大丈夫かな?」
「ま…なんとかなるでしょ」
「楽天的だな」
すると紗耶香ちゃんがパソコン画面を見て、マウスを触っている。
「あれ?」
「どうしたの」
「エッチなゲームとかないんだ」
「あのなぁ」
「ま…いいけど、これ何しているの?」
「買い出しの準備だよ。来週のご飯の」
「へ?」
2人して不思議な表情をしている。というよりキモイとか思っているのだろうか
「おねぇちゃん…めぐみ君の主婦力も私たち負けているよ」
「た…確かにそうだけど…こんなことまでしているなんて」
そんなこともあって、俺たちはこれからパオンショッピングセンターへ向かうことになった。
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