学園のアイドルと同居することになったのですが…

ろんどんべると

第1話 「おかあさん   1」


「恵 父さん再婚するけどいいか」


「いいよ」


歩道を歩いている母子に猛スピードで迫ってくるダンプカー


「あぶない!!」


母親は、恵を庇って事故で亡くなった。


あれから10年、父から出てきた言葉に恵(めぐみ)はうんと答えるしかなかった。


彼、立原恵(たちはらめぐみ)は、ごく平凡な男子高校生、父親の再婚で目の前に現れたのは、最近、振られたばかりの学園のアイドル水樹沙織だった。


◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆


「ごねんなさい…」


体育祭・小春祭(学園祭)も終り、寒さが沁み始めている小春高校の校舎裏、学校生活ではよくある告白した男子が降られている風景がそこにあった。、そして、惨めな男子高校生の目の前で深々と頭を下げている少女は、水樹沙織、彼女はこの学園のアイドル的な存在で、容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能と絵に描いたようなヒロインである。


そして、頭を下げられ振られている惨めな男子高校生の名前は立原恵、俺である。というかさっきから惨め惨めって、作者が俺を貶しているような、まあ、それはいいとして、決してこのことは俺にとっては惨めなことではない。


振られることはわかっていた。自分で言うのも変だが、何のとりえもない平凡でどちらかというとモブキャラに近い俺は、彼女との接点も全くないのだから、当然と言えば、当然と言える。そして


「やっぱり…そうだよね」


そうつぶやいたら


「やっぱり…?って?」


彼女の声がした途端、頬に衝撃が走った。


パチ―ン!!


驚いて彼女の方を見るとその目に何故か涙がにじんでいた。そんな表情を見て何も言えないでいると、プイっと後ろを向いて、無言のまま歩き去っていった。


◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆



俺がなぜこんなことをしたか言うとこの事件から遡ること数日、俺の周りには成績優秀な佐久間秀人と運動神経抜群な本田大輔、二人のイケメンがそこにいた。こんなハイスペックな二人、学園カーストでハイカーストと言われてもおかしくない二人と平凡な俺、実は同じ中学出身で2年生になってたまたま同じクラスになったのだった。


しかし、こいつらからすれば、俺は単なる引き立て役に過ぎないことは十分にわかっていた。この夏で彼女をゲットすると豪語していた二人だったが、このスペックにもかかわらず何故か現在まで彼女はできていない。


その原因は恐らく、水樹沙織に振られていたせいで、彼らの自尊心をひどく傷つけたに違いない。この中で振られていないのは俺だけだからだ、理由は簡単、告白していないからなのだが、体育祭でも学園祭でも彼女を作ることができなかった二人は、何故か、俺にも水樹さんへ告白するようになってきたのだった。


これまでは、断り続けていたのだが、この日は違ったと言うか彼らにいいように騙されたと言った方が良かった。


「そう言えば、水樹さん久しぶりに学校に来ていたよな」


昼食後、佐久間が俺に話しかけた一言はがこれなんだけど、なんだかんだ言って、水樹さんの情報に敏感な二人、


「1週間くらい休んでいたよな」


本田もその話に乗ってきたんだけど、俺には全く関係ない話。問い訳で、俺はへらへらした表情をして、この話を流すことにした。


「何があったんだろう」


「インフルかな?」


「ちょっと早くねえか?」


「わかんねぇけど…この時期だったら、あり得るだろう」


「そうだけど…まだ、インフル警報出てないし」


「そうだな」


と二人の話が手詰まりになってきたところで、視線が俺に向かってきた。


「恵、どう思う?」


いきなり俺に振るか?佐久間よと思っているとまじまじと本田も俺を見ているマジだろう?と思っていても二人は俺に何か回答を求めている。んー困った。


「たぶん…風邪だと思う…」


俺の回答に二人はうんうんと頷いているだけど、その二人が悪意のある笑顔を俺に向けけて来た。嫌な予感しかしない。


「佐久間、どう思う?」


「そうだな?どうかな?」


「おいおい、俺を見ても何も出ないぞ」


「恵!!水樹さんに告白してみたらだ?」


「はぁ?どういう流れでそうなった?」


「水樹さんに恵が告白したらOKかもな」


「そんなはずないよ。俺なんて相手にされないって」


「でも、水樹は今まで告白してきた奴、全員、断っているんだぜ、俺たちの中で残っているのは恵、お前だけだ。それに、水樹さんが病み上がりだったら、可能性は高いかもだ」


「ちょっと待て!!人の弱みに付け込むのは俺は」


「やかましい!!これ以上のチャンスはない」


「おい!!勝手に決めるな!!」


「やかましい!!俺たちの中で告白していないのは、お前だけで、お前も確か、水樹さんに気があったよな」


全くないとは言えない。学園のアイドル的な存在の彼女に…と思ってはいるけど


「そんなこと言われても、俺、そんな気ないし」


「そう言わず、当たって砕けろだ!!水樹さん、案外、恵のこと好きなのかも」


「そうなると俺はショックだけど」


「そんなことはないって、絶対に!!」


恵が自信満々に答えると二人は、不敵な笑みを浮かべた。


「じゃぁ…かけてみるか」


「なにを」


「お前が告白して水樹がOKするかどうか」


「そんなの賭けにならないだろ~」


「俺はOKに学食のランチ賭ける」


「俺もOKに学食のランチ賭ける」


何と二人は学食のランチをかけてきたのだった。


「俺は、NOの賭ける」


「よし!!賭けは成立した」


こうして、今に至る。そして、俺がビンタされたことはこの二人にとっては愉快で仕方なかったに違いない。



◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆


――翌日


俺が、佐久間と本田を避けるため、何時もより一本早い電車に乗るとそこには水樹さんとその友達の青木里奈と山下亜里沙が一緒にいた。昨日の今日ということで、気まずいのだが、幸いなことに通勤・通学の時間帯なので、人陰に隠れることにした。


すると彼女たちの声が聞こえてきた。


青木さんが水樹さんに向かって話しかけていた。


「昨日から機嫌わるいね。さおりん」


俺からするといつもの表情の水樹さんにしか見えないのだが


「そうかな?」


と言った途端、一瞬目が合ったような慌てて俺は身を隠したのが、彼女はすっと目を逸らすとそのことに気付いた青木さんが


「どうしたの?」


「なんでもないわよ」


「やっぱ。機嫌ワイルじゃん」


すると何も考えていない山下さんが


「そう言えば、昨日のことなんだけど、さおりんがビンタしたの初めて見たわ」


「ありさ!!ひょっとして覗いていたの?」


すると山下さんがびくっとして、青木さんを見ている


「ひょっとしてリーナも見ていたんでしょ」


「ごめん。ごめん。それは、さおりんが心配だったからなんだけど」


「そう?それなら致し方ないけど」


「けど…傑作だったわ。あの告白した男子が呆然とした姿は」


「そうよ。これで、中途半端な奴が告白しなくなるわね」


「そ…そう?」


そんな会話を聞きながら、早く駅に着くのを祈ったのだった。この後、俺は、佐久間と本田と合流するも、話題は昨日振られたことだった。


「よかったな」


「そうだな。これで2食確保できた」


そのこと気に食わなかったのか、佐久間の奴は俺の頭を軽く叩いた。


「いてぇな」


「このくらい我慢しろ」


「そうだぞ。お前、水樹さんにビンタされたから、親衛隊の連中も特に動かなかったみたいだ」


そう水樹さんには、親衛隊がいるのだ、特に親衛隊長の堀川は、注意が必要だ。噂では、水樹さんに告白後もしつこかった奴を自主退学まで追い込んだとか


「それは良かった」


こうして、俺はこの日を終えたのだった。


そして


晩に親父から運命の人のことを聞くとは思ってもみなかった。




◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆




家に帰るとカレーの匂いがしてきた。まずらしく親父が早く買ってきて、晩御飯を作っていた。晩御飯と言っても作るのはカレーライス。ルーは当然市販品。働いているオ親父も多少は料理をすんだけど、普段は俺が料理をしている。そして、親父がカレーを作る時は何かしら相談がある時だ。


この間は、親父が言ったのは、数か月前だったかな。そう水樹さんのことを教えてくれというものだった。それは親父の職業に関係するのだが、芸能事務所に勤めているのだから、美少女がいると気になるそうだ。


さて、今日はどんなことを聞いてくるのだろうと思っていたら


「なぁ~恵、お父さん再婚してもいいかな」


母を亡くなって10年がたつ、あぶない!!と叫んで、恵の身代わりになって、そのまま帰らぬ人となった母。一瞬の出来事で、アブナイ!!の声と倒れ込んで動かない母の姿しか、恵の記憶には残っていなかった。


(でも、お父さんの為にもいいかな)


「いいよ」


俺がそう言うと、親父は嬉しそうにカレーをほおばった。


「ありがとう…今週の日曜日に紹介するか。これから新しい家族も出来るから、頼んだぞ」


(新しい家族か~、お父さんの話では、昔の知り合いと再婚するとか)


「知り合いって、俺の知っている人?」


「うーん…どうだろう」


その様子から知らない人であると思った。更に話を聞けば、新しい義母以外に二人新しい家族ができるらしい。ま…そのくらいは問題ないと俺は簡単に思っていた。



◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆



―――当日


(緊張する)

待ち合わせのホテルのロビーにいる。礼服はないから学生服できている。初めての人との顔をあわせで、相手は父の結婚相手で義理の母となる人物、それにおまけとして、二人の新しい家族もついて来ると聞いていたのだから、緊張するのは致し方ない。父も緊張しているのか、簡単な一言を告げた。


「恵、鳳凰の間だ」


こうして、親父に導かれ到着した鳳凰の間の入口、どきどきしていると中から楽しそうな声がしてきた。すると親父がその扉を開けると、見覚えのある顔があった。そして、俺に気付くと彼女はじっと俺を見ていた。俺はというとまさかの事態に固まってしまっていた。


「え?…み…水樹さん?なんでここに?」


そこには、先日俺を振った水樹沙織がいたのだった。





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