第4話 「引っ越しそば」

沙織さんの決意は固く、結婚には前向きだそうだ。因みに未成年者の結婚ということで、失踪届が受理され、瀬里奈さんの離婚が成立した後に入籍となる予定だそうだ。これには最低3か月はかかるそうだ。つまり来年の月頃に二人は結婚することになる。

立ち退き期日に当たる次の土曜日に彼女たちは引っ越してくることになっている。



―――月曜日

いつものように登校していると沙織さんと里奈さんが俺の前を歩いていた、


「さおりん。機嫌よくない?」


「そうかな?いつも通りだけど」


「でも、先週めっちゃ機嫌悪かったし~なんかあったの」


「なにもないわよ」


「そう?」


すると里奈さんは俺の方をちらりと見た。


「近くにあいついるけど」


「あいつって?」


「先週のあいつ」


「あっそう?それで?」


「あれ?」


「どうしたの?」


「ふーん。そうなんだ」


「もう、終わったことよ」


すると里奈さんは再び俺の方を見た、そして、何ごともなかったように校舎へと向かって行った。。


―――次の週の土曜日


沙織たちが家に引っ越してきた。普段は俺と親父の二人しかいない静かな家が騒がしい。とは言え、張り切っているのは親父だけだった。


「沙織さん…こっち」


親父頑張ってるな~?と思いつつも恵は特に何もすることがない。親父の奴少しでもいいところを見せたいのか、俺に声を掛けてきた。


「恵、お前!!ボッ~としてないで手伝えよ!!」


「へーい」


そう答えたもののある程度の荷物は、引っ越し屋さんが各々の部屋まで持って行ってくれているので、実は、やることはほとんどない。というより、彼女たちが来るまでの一週間の方が、各部屋の掃除とかで大変だったのにと愚痴りたい気持ちを抑えて、キッチンへ向かった。


「あいつ、どこ行った?」


二階から親父の声がしたが、それは無視して、とにかく彼女たちは各々の荷物を片付けるのに忙しいのは事実、ある意味、父の方が邪魔をしているようにも見える。そんな連中はおいて俺はキャベツを切っていた。


もうすぐお昼、どうせ、昼食を作る余裕なんてないに決まっているし、だれも出前を呼ぼうともしない。土曜日の11時過ぎ、クラウンピザは60分待ちになっているに違いない。なので、俺が昼食を作る。といより、ほぼ俺の日課なんだけど


トントントントン・・・


キッチンでキャベツを切っているのを見つけた紗耶香が近づいてきたてm包丁さばきを見て感心している。


「ふーん。うまいもんだ。何か手伝おうか?」


「いいよ。紗耶香ちゃんは自分の部屋を片付けてきなよ」


「へへへ…実は、ほどんど終ったんだけど」


「じゃあ。ダイニングを片付けてきてくれるかな」


「ほーい」


トントントントン  ニンジンを切っている。


トントントントン  豚肉を切っている。


フライパンに油を入れて火をつけた。


フライパンがあったまるまでに、そばを開けて水にさらしてほぐして、軽く水を切る頃には、フライパンからパチパチと油が跳ねる音がしてきた。


(そろそろだな)


じゃ~!!


豚肉を入れて、軽く炒める。そして、ニンジン、キャベツと入れて行った。


そこで、塩コショウを振って、軽く下味をつける。


じゃ~!!


野菜がしんなりとしてきたところにそばを入れた。


じゃじゃじゅじゃわ~!!


そこへおた〇くソースをかける。


じゅわわわじゃわ~!!じゅわ~!!


ソースのいい匂いがキッチンに広がっていった。


ここで隠し味にコチュジャン。これでちょっとピリ辛に


ジャンジャンとかき混ぜて焼きそばの完成!!


すると紗耶香ちゃんが俺のところに戻ってきた。


「ダイニング片付いたよ。あ!!やきそば!!これはおいしそう」


2人で盛り付けをしていると匂いにつられたのか残りのみんながダイニングに集まってきた。


「いい匂い!!」


「あ・・・焼きそばだ!!」


ふふーん。俺は、胸を張ってこう言った。


「今日は引っ越しだろう!!だから、引っ越しそばだよ!!」


「「「・・・」」」


すると、4人の目が点になっている。


「あれ?どうしたの?」


すると親父が


「うっほん!!恵、引っ越しそばは普通のそばを食べることだよ」


「へ?でも…これもそばだよ」


「ぷー!!」


すると瀬里奈さんが噴き出した。


「あははは…恵君、面白過ぎ」


「だから!!恵、そのそばじゃなくて和蕎麦だ。ざるそばとか掛けそばのことだ。わかったか?」


親父の一言に紗耶香ちゃんも笑い出した。しかし、そんな中でも沙織さんに笑顔はなかったような気がしたけど、大恥をかいた俺は思考停止状態に陥っていた。


(大失敗だ)


恵が落ち込んだのを見ていた瀬里奈さんが


「せっかく、作ってくれたんだから食べましょうよ」


「そうだね」


そして、みんなは一口目を食べて


「うまい!!」


「ちょっと甘い所からのピリ辛がいいわ」


味には問題はなかったようだった。



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