第11話 「二日目後半」

「お姉ちゃん、私、恵さんと買い物に行ってくるね」


紗耶香ちゃんが朝食の後片づけをしている時に、俺を誘ったところからこの話は始まった。そして、外出前に沙織さんへこのことを伝えて出かけることにした。


「え?昨日、買い物に行ったじゃない」


「だって、駅前にどんなお店があるかわからないし」


「ママには言ったの?」


「ママはとっくに出かけたよ」


「え?」


すると何故か沙織さんの視線が俺に向けられたいる。どう見ても俺から何かを言ってほしいようだが、紗耶香ちゃんが間に入って


「じゃぁ…二人で行ってくるから、あ…お昼も食べてくるから」


俺の手を引っ張ったのだった。



◆◇  ◆◇  ◆◇  ◆◇



「あれでよかったの?」


「なにが」


「沙織さん」


「いいのよ。おねぇちゃんはあれで、だってパパさんもいるんだもの」


こうして、俺たちは駅周辺で時間を過ごしたのだった。そして、帰宅と言っても午後3時、健全な時間帯に帰ることになった。

それは、紗耶香ちゃんから帰ろうと言い出したからだ。その理由は、簡単、沙織さんから電話があったからだった。


「助けて!!紗耶香!!」


スマホ越しに沙織さんの悲痛な声が俺にも届いた。


「紗耶香ちゃん!!早くいかないと」


「はぁ~」


慌てている俺とは対照的に何故かため息をついている。


「お姉ちゃん、今どこにいるの?」


「どこって…」


どこってと俺にも聞こえたけど、その後は聞こえないが、必死に紗耶香ちゃんが沙織さんに語り掛けている。


「だから、どこにいるのよ」


「え?」


どうやら場所が聞けたようだけど、紗耶香ちゃんは固まっている。しばらくして、凄いしり上がりの「はい~?」と叫んだかと思うと「わかったわ。すぐに帰るから」とスマホを切るとため息をついた。


「恵さん、家に帰るわよ」


「わかった。ところで、沙織さんどこにいたの?」


沙織さんが方向音痴なのは既に知っていた。最初、スマホが鳴った時に、紗耶香ちゃんがため息をついたのは、沙織さんが出かけて家に帰れなくなった。つまり、迷子になったと思ったからだそうで、どうしようと考えて話をしていたという。

しかし、事態は違った。沙織さんは家にいた。普通、家から助けてという連絡が入れば、強盗が入ってきていることになるのだが、それでもなかった。


「トイレから出られなくなったって」


「へ?」


思わず鼻水が出そうになったのだが、なぜそうなったのかは紗耶香ちゃんにもわからない。とりあえず、沙織さんは無事でいることは間違いないのだが、一体何が起きたのだろう?


◆◇  ◆◇  ◆◇  ◆◇


トイレの前についた俺たちは、その光景に呆然となった。絶妙な感じでお掃除モップの柄がトイレを塞ぐように立てかけられていたのだった。


「一体どうしたらこんなことになるのよ」


ため息交じりに、呆れた表情の紗耶香ちゃんの声を聞いて


「紗耶香~!!早く出してよ」


「はいはい…」


こうして、沙織さんは無事に救出できたのだが、何故、沙織さんがトイレから出られなくなったのかがよくわからない。そう家には沙織さんしかいなかったのだった。


実は彼女、掃除をしていた時にトイレに行きたくなって、お掃除モップを適当に置いたので、トイレに入った後、見事にトイレを塞ぐように倒れたのだった。理屈が分かれば、なんてことない話なのだが、恥ずかしそうにトイレから出た彼女は、


「紗耶香…ありがとう…ん?」


と言った後、俺を見て逆切れ?を起こした。


「紗耶香!!今、何時だと思っているの?」


「3時半」


「へ?」


「ほれ」


紗耶香ちゃんがスマホの画面を見せつけている。行き場をなくした怒りに震えている沙織さん、横から見ていて吹き出しそうになったのだが、この後


「お姉ちゃん…機嫌悪いね」


「確かに…助けてあげたのに」


「ぐぬぬ…」


やはり機嫌が悪いようだ。そして、その燃え盛る心に紗耶香ちゃんは、大量の水をぶちまけたのだった。


「ひょっとして、昨日パパさんとうまくいなかったのかな?あ…機嫌が悪いってことは、ひょっとして、あれの日?それで!!」


次の瞬間


ゴン!ゴン!


「違います!!」


俺たちの頭に沙織さんの拳骨が落ちてきたのだった。


「なんで俺まで…」


「同罪です!!フン!!」


水蒸気爆発の後、その被害にあった俺たちを置いて、沙織さんは自分の部屋に戻った。


「紗耶香ちゃん。口は災いのもとだよ」


「そうだね」


◆◇  ◆◇  ◆◇  ◆◇


夕食後、部屋で明日の準備をしているとドアをノックする音がした。


「どうぞ」


何故か、パジャマ姿の沙織さんがそこに立っていたのだった。


「入っていい?」


「どうぞ」


すると俺のベットにすとんと座ると


「そう言えば、やけに紗耶香と仲がいいみたいだけど、どういうつもりなの」


「どういうって、せっかく家族になったから、仲良くなろうとしているだけなんだけど」


「ふ~ん。そうなんだ」


しばし無言の時間が続く、緊張感がある一方で、パジャマ姿の沙織さんは、ふろ上がりなのだろう、少し火照っていて顔が赤い。けど、一体何なんだ?この状態は


「あの~沙織さん」


「はい」


「親父と何かあったの?」


「何も…何もないわよ」


「そうですか」


「ところで、恵君、こんなにかわいい子がいるのに何も感じないの」


「ロリコンだから」


俺の回答に両手で口を塞いで、驚いている


「だから、紗耶香を…このヘンタイ!!」


「うそ…」


「へ?」


「信じた?」


「ちょっと…」


「うそだよ」


「だよね~」


「沙織さんは、親父のお嫁さんだ、たとえ、どんなにきれいな人でも、俺の家族になる人、そんな人とは恋愛感情を持てると思わないんだ」


「それは…」


「だから、学校では、これまで通りでお願いね」


「これまで通りって」


「だから、俺は、先週君にフラれた惨めな男の子ということで、よろしく」


「わかったわ」










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