退院

退院の日、みんなやってきたんだけど、沙織さんだけ、なぜか、距離を感じてしまった。


「めぐみさん、ごめんなさい」


真っ先に誤って、抱き着いてきたのは紗耶香ちゃんだった。彼女は相当反省したのだろう。俺に抱き着いてしばらく離れようとしなかった。そのことについては、3人の間で暗黙の了解でもあったのか、だれも止めようとはしなかった。ペイペイちゃんも


「めぐみ君。元気になってうれしいわ」


そう言って、背中から抱きしめてきたのだった。つまり、俺は前からは紗耶香ちゃんに後ろからはペイペイちゃんに抱きしめられ、サンドイッチ状態になっていた。この光景を学校の連中が見たらとんでもないことになるに決まっている。それは、沙織さんと偽装結婚しているからなのだが、学園のトップアイドルと結婚しておきながら、沙織さんと同等の扱いをされているペイペイちゃんと沙織さんの妹ということで、すでに、親衛隊までできている紗耶香ちゃんという、現在売り出し中の2大アイドルが俺を抱きしめているなんてことは誰にも言えないことだった。


かと言って、そんな様子に動じる様子もない沙織さんは、


「元気になってよかったわ」


その一言で俺の様子を見ている。状況からして二人にやめなさいというのは人間的にどうかということもあって、静観しているというところなのだろう。


こうして、家に帰った俺なんだけど、実は家に帰ってからが大変なことになった。俺が自分の部屋に入り、とりあえず、くつろいでいると


「いいかしら?」


そう言って紗耶香ちゃんが俺の部屋に入ってきた。そして、


「ごめんね」


そう言って俺に寄り添ってきた。そこへペイペイちゃんもやってきて


「私もいいかしら?」


彼女の登場に顔を曇らす紗耶香ちゃんなのだが、二人して俺の横を離れようとしなかった。


そんな落ち着かない時間も沙織さんの


「いつもまでそんなことをしているつもりなの?」


こうして俺は解放されたのだが、翌朝、俺の横には沙織さんが寝ていたのだった。


「ん?おはよ」


「おはよ・・・」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る