第9話 「お迎え」


親父の命令で、俺は一人で沙織さんを迎えに行くことになっていたのだが、さっきの件もあって少し気が引ける。すると「私も行く」と紗耶香ちゃんもついてきてくれることになった。なんでも高坂駅までの道を完全に覚えたいそうだ。


こうして夜道を紗耶香ちゃんと歩いている。


「恵さん」


「はい」


「どうしてお姉ちゃんに告白したの?それって、再婚を邪魔する為だったの?」


「あっ…どうしてそれを」


「恵さんの友達から聞いた」


「佐久間と本田か。あいつらめ」


「そんなことよりどうして?」


「あ…あれね、実は、あいつらの為なんだって、と言っても信じないよね。実は、あいつらも沙織さんに振られているんだ、だから、ことあるごとに俺に告白しろと言ってていたんだ。多分、あいつらのプライドがそうさせたんだろうけど」


「それが分かっていて、なぜそんなバカなことにしたの」


「んーー。たぶん、友達だからじゃないかな、俺が振られたことで、あいつらほっとしたと思うんだ」


「バカよ」


「え?」


「恵さんはバカでお人よしよ。こんなバカみたことないわ」


「えーと・・・」


「わかったわ。でも、今日はうれしかったわ。本当にありがとう」


さっきまで俺のことを馬鹿呼ばわりしてたかと思うと真面目に頭を下げてきたので、俺の方が戸惑っていまう。しかし、彼女なりに俺に気を使ってくれていたことがうれしい。今日のことと言い沙織さんとは少し確執があるのはわかっている。


俺の行動が悪いんだけど、そんな俺を気遣って、紗耶香ちゃんはついてきてくれたそうだ。ちなみに駅までの道は既に覚えているという。


「あ…おねえちゃんだ…おねぇちゃーん」


こうして、俺たちは沙織さんと合流したのだった。




帰り道、沙織さんと紗耶香ちゃんは話をしている。当然俺は少し距離を開けているのだが、家の前に着いた時だった。沙織さんが振り返って俺をじっと見た。そして、


「私、騙されないんで、けど、紗耶香を守ってくれてありがとうございました」


と軽く一礼をしたかと思うとプイっとおこった感じで家に入っていった。そんな姿を見た紗耶香ちゃんはやや呆れた表情を浮かべていた。


「ま…これからだね」


「そだね」


と思ったら何故か腕を組んできた。


「さ…紗耶香ちゃん」


「えへへ…今日のお礼だよ。さ…家に入ろう。すき焼きが待っているよ」


「そうだ、すき焼きだ」


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