第14話 ゲームをしよう

 俺にはさ、ずっと前から思っていたことがあるんだよ。

 それは、ハンドルを握ると性格が変わるってやつだ。ほら、よく漫画とかアニメで見るだろ? でもさ、そんなこと絶対にありえないって思ってたんだ。

 だってそんなの、意味わかんないし、実際に見たこともなかったもんな。だから、あれは創作の中だけの話だと思ってたんだ。でも、どうやらそれは間違いだったようだ。

 まぁ、今回はハンドルではなくて、ゲームのコントローラーなんだけどね。


「ヒーッ、ヒャッハー!」


 世紀末に轟いてそうな叫びをあげて、激しくコントローラーを操作しているのは佐々木さんだ。

 そう。佐々木さんである。あの佐々木さんが、コントローラーを握った瞬間、人が変わったかのように、ゲームをしているのだ。

 マジでこんなに変わるものか? 普通にドン引きなんだが……


「うにゃー! また負けたー!」

「これで2人合わせて30連敗か……」


 しかも、めちゃくちゃ強い。まるで歯が立たないくらいに。例えるなら、素人とプロゲーマーが試合している感じだ。さっきから、まともに一撃すら入れることが出来ない始末だ。


「おいおい〜まるで手応えがないねぇ。本当に2人揃って、どうしよも無い雑魚だねぇ」

「ぐっ……」

「むぅ……」


 おまけにこの煽り口調だ。人のことをボッコボコにしておいて、イラッとするくらい煽ってくる。そのせいで、俺と東城のストレスはマジで半端ない。


「ねぇ桜木君」

「どうした?」

「私。栞菜をギャフンと言わせたい」

「まぁ、その意見には賛成なんだが、何か手はあるのか? 正直、あれには勝てないぞ」


 可能性は完全にゼロ。このままやり続けても、一方的にボコられて煽られて、ストレスを貯め続けるだけだ。


「こうなったら、仕方ないね。璃亜りあを呼ぶしかない」

「いや、ちょっと待て。それは、佐々木さんとの約束を破ることになるぞ」

「そこはまぁ……後で謝るとして。でも違うよ。璃亜を呼ぶのは、怒ってもらうんじゃなくて、私達の代わりに栞菜を倒してもらうんだよ」

「え? どゆこと?」

「実はさ、璃亜も上手いんだよね。シカロボ」

「マジで?」

「うん、マジ」


 へぇー、それはまた意外だな。まさか、佐々木さんだけじゃなくて、松田さんもシカロボが上手いなんてな。


「まぁ、そういうことだからさ、呼んで倒してもらおうよ」

「いや、でもなぁ……」


 やっぱり、松田さんには内緒にするって約束だったしな。それを俺達の都合で、破るのは気が引けるんだよなぁ。


「ほらほら〜、次はどっちが私の相手になってくれるのかな? ん? まぁ、どっちが来ようと、この私が雑魚共に負けるわけないんだけどねぇ」

「……」

「どうしよっか? 桜木君」

「今すぐ呼ぼう」

「にっひっひ。りょ〜かい」


 とりあえず、佐々木さんには1回痛い目を見てもらう。話はそれからだ。


 ――――

 ――


「で? 栞菜。言い訳くらいは聞いてあげるよ」

「う、裏切り者〜」

「ちょっと。話しているのは、私なんだけど?」

「う、うぅ……」


 東城から事情を聞いた松田さんは、すぐに俺の家に来て、シカロボで無双して、テンションが上がりまくっていた、佐々木さんにお説教をしている。

 しかし、これはなかなか凄い光景だな。あのAGEのまとめ役のような存在である佐々木さんが、今はイタズラがバレた子供のように、なっているんだから。


「まぁまぁ、璃亜。お説教はその辺にしといてあげなよ」

「そうそう。佐々木さんを誘ったのは、俺なんだしさ。そんなに怒んないであげてよ」


 俺と東城も、こんなに松田さんが怒るとは思っていなかった。なんせ、お説教が始まって、もう30分は経っている。その間、佐々木さんはずっと正座だ。流石にちょっと可哀想になってきた。


「はぁ……まぁ、2人がそう言うなら、今回はこの辺で許してあげるとしますか」

「た、助かった……」

「でも! 栞菜はまだしばらくゲーム禁止だからね!」

「そ、そんなぁ〜」

「言っとくけど、栞菜が隠れてゲーセンに行ってるの知ってるんだからね」

「うっ……」


 おいおい……マジかよ、佐々木さん。てか、それを把握している松田さんも怖いな。隠し事出来ないじゃん。

 龍、お前も気をつけろよ。


「それで? さっき、音葉おとはから聞いたんだけど、あんたシカロボで無双してたんだって?」

「ふふん。まぁね。いやぁ、自分の才能が怖いよ」


 おぉ……佐々木さんってば、まだそのテンション続いていたのね。ついさっきまで、あんなにしゅんとしていたのに。


「はんっ。どの口が言ってんのか。栞菜程度の腕前で調子乗り過ぎなんじゃないの?」

「はぁ? 璃亜こそ、いつまで自分の方が上だと思ってるの?」


 え? ちょっと待って。何この流れ? 何でこの2人、こんなに喧嘩腰なの?


「おい、東城。説明してくれよ」

「今思い出したんだけど、栞菜と璃亜って師弟関係だったんだよねぇ」

「え? シカロボの?」

「うん。シカロボの」

「意味わかんねぇ……」

「だよねぇ。私もそう思う」


 しかも、何か見るからに仲の悪そうな感じだしなぁ。いや、普段は仲良いんだろうけどね。


「で? どっちが強いの?」

「んー? 分かんない」

「んじゃ、見るしかないか」

「そうだねぇ」


 俺達がそう話している間に、2人はコントローラーを持ってテレビの前に陣取っていた。


「お、始まるっぽいね」

「だなぁ。あ、コーラ飲む?」

「飲む飲む」

「あいよ」


 俺はコーラのペットボトルを東城に渡して、2人でソファーに座って、佐々木さんと松田さんの対決を見守ることにした。


 ――――

 ――


「ねぇ……あれ、いつまで続くの……?」

「さぁな。俺も知りたいわ」


 佐々木さんと松田さんの対決が始まってから、2時間が経過していた。勝敗はお互い1歩も引かない大接戦。勝っては負けての繰り返しを永遠と続けている。


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」


 しかもいつの間にか、佐々木さんは承○郎、松田さんはD○O様になってるし。


「なぁ、あれってコントローラー壊れたりしないよな?」

「多分?」

「そっか……」


 ま、まぁ……今時のゲーム機は結構頑丈だし、多分大丈夫だよな? 多少強めにガシャガシャしたり、負けた時に床に叩きつけたくらいで、壊れたりしないはずだ。うん。


「ところで桜木君?」

「うん?」

「今日の夜ご飯は何にするの?」

「まだ決めてないな。希望はある?」

「んー、そうだねぇ。肉があれば何でもいいかなぁ」

「肉かぁ」


 んー、どうすっかなぁ。そういえば、いつも行っているスーパーで、鶏肉が特売だったよな。


「親子丼とかどう?」

「お、それいいね」

「決まりだな」

「うん!」

「んじゃ、ちょっとスーパーまで鶏肉買ってくるよ」

「あ、私も行こうか?」

「大丈夫。すぐ近くだし、それに俺ら2人居なくなった、佐々木さんと松田さんが気まずくてなるだろ?」

「それもそうだね。分かったよ。じゃ、気をつけて行ってきてね」

「あいよー」


 ――――

 ――


「ただいま」

「お帰り〜。って、どうしたの?」

「いや、急に雨が降ってきてね……」


 降っていたのは一瞬だったけど、かなり強かったんだよなぁ。当然、傘なんて持っていってないからずぶ濡れになった。雨宿りしようにも、タイミング悪く出来るとこがなかったんだよな。


「とりあえず、シャワー浴びてきたら? そのままじゃ、風邪ひいちゃうよ」

「そうする。あれ? 佐々木さんと松田さんは?」

「桜木君が買い物に行ってすぐくらいに帰ったよ」

「そうなの?」

「うん。あの後、璃亜が三連勝して決着がついた」

「なるほどな」


 そっか。松田さんが勝ったのか。

 どうせだったら、決着の瞬間に立ち会いたかったな。

 それにしても、参ったな……。


「ん? どうしたの?」

「いやさ、2人分も買ってきちゃったんだよね」

「あー、やっぱりかぁ。ごめん。私も2人が帰った後に気付いたんだよねぇ」

「別に東城が謝らなくてもいいよ。出かける前に2人に聞かなかったのが悪いんだし」


 それにまぁ、余っても冷凍にしとけば保存も効くから、完全に無駄になった訳じゃないしな。


「ま、とりあえず先にシャワー浴びてくるわ。その後に飯作るよ」

「うん。分かった」


 俺は、買ってきた鶏肉を冷蔵庫に入れてから、風呂場に向かった。


「へっくしっ」


 うぅ……寒っ! 流石に10月の中旬ともなると冷えてくるな。しかも、濡れていると尚更だ。

 こりゃ、ちゃんと温まっておかないと、マジで風邪ひいちまうな。


「へっくしっ」

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