第45話 俺の好きなやつ
「お? あにぃこれ美味しいよ」
「おぉ本当だな。絶品だ」
「あにぃ同じの作れない?」
「流石に無理だなぁ」
「うーん。残念」
クソ親父達が帰った後、俺と風実歌、それと雪城さん達で料理を食っていた。
まぁ残して行くには、少々もったいないくらいには、お高いところだからな。
ちなみに、
まぁ気持ちは分からんでもない。
「それにしても、アラタさんと
「んー、多分普通ですよ。俺らとあのクソ兄貴が特別仲悪いだけなんで」
「なるほど。確かにそうかもしれませんね」
そもそもの話、あのクソ兄貴と仲良くなんて出来るわけがない。あいつ、性格が悪いってより、人として大分終わってるしな。
「あ、でもでも、あにぃは世の中のお兄ちゃんより、ずっといいと思いますよ!」
「こら、妹よ。恥ずかしいからやめなさい」
「えぇ〜、可愛い妹の愛を受け止めてよ」
「あーはいはい。ありがとな。愛してる愛してる」
「えへへぇ〜、私も愛してるよ。あにぃ」
やれやれ……何でうちの妹はこのやり取りがこんなに好きなんだろうねぇ? いい加減付き合うのにも飽きてきたぞ。
「う、う〜ん。やっぱり、仲がいいと思いますけど……色んな意味で」
「あはは……確かに僕の目にも、そう見えるかなぁ」
「気のせいですよ」
そうそう気のせいだ。俺はシスコンじゃないし、風実歌もブラコンじゃない。そこそこ仲がいいどこにでもいる兄妹なのだ。それ以上でもそれ以下でもないのである。
「そうだ。アラタさん、1つお願いがあるのですが」
「ん? なんすか?」
小鞠さんが俺にお願い?
何だろ? 全く想像出来ないな。
「私と結婚しませんか?」
「ぶほはっ!?」
「ちょ、あにぃ汚いよ! ほら、水」
「あ、ありが、と……」
きゅ、急に何言い出すんだこの人!?
食ってた餃子が変なところに入っていっちまったじゃねぇかよ。
「それでどうでしょうか? アラタさん」
「いや、ちょっと待ってくれ。いきなり何言ってんですか?」
「何って、プロポーズですね」
あ、あぁ……うん。まぁそうね。間違ってはないよ?
ただね、俺が聞きたいのはそういうことじゃないんだよなぁ。
「あー……その、なんだ。とりあえず、理由くらいは聞いてもいいですか?」
「もちろんです。まず、アラタさんが優秀だからです。今回のアラタさんの手腕、とても見事でした」
「どうも」
「まぁ、簡単に言ってしまうと、アラタさんのような優秀な人材を手元に置いときたいってわけです」
「なるほど」
こりゃ、随分と高く評価されたもんだな。
ぶっちゃけ、今回のことは突くべきポイントがそれなりにあったのと、何より準備する時間があったから出来たってのが大きい。だから、別にそんなにすごいことではないんだよなぁ。
「あ、勘違いしないで下さいよ」
「勘違い?」
「はい。確かにアラタさんを手元に置きたいという打算もありますが、1番は私はアラタさんに惚れています」
「は?」
「嘘じゃないですよ。先程の堂々とした物言い、それに妹さんを思っての行動。そういった、優しさと男らしさにとても好感が持てました。なによりも、顔がかなり私好みなんですよね。ドストライクとやつです」
「は、はぁ……」
顔が好みって、初めて言われたぞ。しかも、こんな面と向かって言われるなんて、思ってもみなかったな。
なんというか、照れより戸惑いの方がくるな。
「あにぃ。間抜けな顔になってるよ。まじキモイ」
「う、うるせぇ。仕方ねぇだろ!」
「陰キャだなぁ」
「ほっとけ」
俺だって好きで陰キャやってるわけじゃないんだよ。本質的にというか、生まれた時からの陰なんだからどうしよも出来ないんだよ。
「自分で言うのもなんですが、私、結構優良物件だと思うんですよね。正直、顔もスタイルにも、かなり自信があります。何よりも私、こう見えて結構尽くすタイプなんですよ」
まぁ確かに、優良物件なのは間違いないな。
その辺の女性と比べたら、圧倒的に小鞠さんの方が美人だ。それにいやらしい話だけど、家も大きいから金も持ってる。
普通に考えて、断る理由なんて欠片もないな。
だけど――。
「すいません。お断りさせてもらいます」
「あら、まさか断られるとは思いませんでした。しかも、こんなにあっさりと」
「すいません」
「一応、理由を聞いてもいいですか?」
ま、確かに理由くらいは話さないと流石に失礼だよな。
「俺、好きなやつがいるんですよ」
「それはどんな方なんですか?」
「そうですね。まぁ一言で言うと、欠点だらけのやつですね」
そう。とにかく欠点だらけだ。欠点を上げたらキリがないくらいのな。
「まず、ありえないくらい、だらしないんですよ。服は脱いだら脱ぎっぱなしだし、食ったゴミはその辺に捨てるし、風呂に入れば、ろくに体も髪も拭かないで出てくるから、床は水浸しになりますね。それに自分では起きられないし、掃除しようとしたら逆に汚れます。そして、適当で楽観的で面倒くさがり屋で我儘だし、怖がりでビビりのくせに、ホラー映画を見たがったり、お化け屋敷に入りたがるんですよ。わけ分かんないでしょ?」
「は、はぁ……」
「どうでもいいようなことで、すぐキレるし、俺が飼い猫と遊んでると、拗ねて口聞かなくなるし、何も無い日は、ほぼ一日寝て惰眠を貪るし、衝動的に何か欲しくなると、後先考えずに買ってくるし、腹減ったからって、家にあるもん全部食っちまうし、人のパソコンでエロ動画見まくるし、調子に乗ると無駄に偉っそうにしてくるし。ほんとに1人で七つの大罪を網羅してるようなやつです」
「えっと……本当に好きなんですよね?」
「それが好きなんですよねぇ」
いや、まじでこれがガチなんだよね。
今の話だけ聞いてると、なんで好きなの? 本当に好きなの? みたいな反応になるよな。今の小鞠さんや雪城さんみたいにね。何だったら、風実歌も同じ反応してるしな。
「まぁ、とにかく無茶苦茶なやつなんですけどね。一緒にいるとすげぇ楽しいんすよ。あいつとなら、どんなに下らないことでも、2人でバカみたいに大騒ぎ出来るし、しょうもないことでもずっと笑ってられる。何よりも、あいつの隣は、落ち着けるんですよね。安心できて心が休まる。俺にとっての陽だまりなんです」
「そうなんですね」
「はい。だからすいません、小鞠さん。俺はあなたと結婚出来ません」
「そうですか。なら、仕方ありませんね」
ま、正直少しもったいないなと思うけどね。もしも、もう少し早く小鞠さんと出会っていたら、
「それじゃ、お互いに子供が出来たら結婚させるってのはどうですか?」
「ははは、それは悪くないですね。面白いです」
「ふふっ、約束ですよ」
――――
――
「ねぇ、あにぃ?」
「ん? 何だよ?」
食事会を終えた俺達は、小鞠さん達と別れて、2人で帰っていた。
「いつから音葉さんのこと好きだったの?」
「んー分かんない。いつの間にかだな。まぁ気付いたのは最近なんだけどな」
「そっかそっか」
何かこの私分かってましたよ感がちょっとムカつくな。これが妹じゃなかったら、ぶん殴ってやるところだぜ。まぁ嘘なんだけどね。
「あにぃは今日帰るの?」
「その予定だな」
「何時頃?」
「夜だよ。もう新幹線のチケット買ってある」
「そっか。んじゃ音葉さんによろしくね」
「おう」
「それとしっかりやるんだよ」
「あぁ分かってるよ」
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