第47話 桜木家
「なぁ頼むよ」
「えぇ〜」
今年、高校に入学したばかりの息子、
むぅ……まさかここまで嫌がるとは思わなかったな。
「そんなに嫌なの?」
「嫌だよ。てか、それ以前に何でお見合いなんてしなくちゃいけないのさ。まずは、その理由を聞かせてよ」
「まぁ話せば長くなるんだけどな」
大学を卒業したその日に音葉と結婚して、その年に第1子である奏多が産まれた。
早くね? って思うかもしれんが、仕方がなかったことなんだ。ちょいとテンションが上がって、音葉とフィーバーし過ぎちまった結果だ。
まぁ色々大変ではあったが、全く後悔はないから良しとしよう。
そして何と驚いたことに、小鞠さんがいつの間にか結婚していて、おまけに奏多と同い年の娘を出産したらしい。めでたいことだ。
で、だ。俺は完全に忘れてたんだが、昔小鞠さんとした約束の話が持ち上がってきた。
そう、お互いの子供を結構させようっていうあれだ。あの時は、冗談だと思って適当に流していたが、どうやら小鞠さんは本気だったようで、つい先日、お見合いをやろうという連絡がきたのだ。
んで、慌てて奏多にお願いをしているってわけだ。
「まぁそういうことだ。頼むぞ、我が息子よ」
「いや、頼むぞじゃねぇよ。クソ親父」
「こらこら奏多君。お口が悪いですよ。そんなんじゃいい大人になれませんよ」
「うっぜぇ……」
ち、本当に口が悪いなこのガキ。いったい誰に似たんだか。
「はぁ……分かったよ。とりあえず、出るだけ出てあげるよ」
「お? いいのか?」
「相手は雪城さんの娘さんなんだよね? 父さんと母さんの立場もあるからねぇ」
おぉ……流石俺の息子だ。その辺、言わなくてもちゃんと分かっていらっしゃる。
今の小鞠さんは、音葉が所属している事務所の社長さんだ。俺も個人的に小鞠さんには、そこそこお世話になってる。だから、断るのは少々都合が悪いんだよな。
まぁ断ったからって、あの人が何かしてくるとは全く思わないけど、それでもまぁ色々あるもんなんだよ。
「ただし、条件が3つある」
「ほう。言ってみろ」
「まず1つ目、お見合いはする。ただ、その後のことは保証しない」
「あぁ、その辺は奏多の好きにしていい」
そのまま、お付き合いして結婚してもいいし、合わなくてこれっきりでも全然構わない。流石にそこまで強要するわけにはいかないからな。
「2つ目、俺欲しいものがいくつかあるんだよねぇ」
「分かった。今回の報酬として買ってやるよ」
「いひひっ、やったぜ!」
まぁこの辺は想定内だ。多少へそくりを使うことになっちまうけどな……。
「3つ目、父さんの秘蔵コレクションから、好きな物5本頂く」
「な、なん……だと……」
こ、こいつ……なぜ、俺の秘蔵コレクションのことを知っている。あれは音葉にも秘密にしているはずなのに。
「ちなみに隠し場所も知ってるから、はぐらかそうとしても無駄だよ」
「お前……どこで秘蔵コレクションの存在を知った?」
「ドラおじから聞いた」
「あ、あの野郎……」
くそっ! 龍の仕業かよ!
昔、
「もし、断ったら母さんにチクるよ」
「分かった! それはやめろ!」
「いひひっ、交渉成立だね」
くそが……父親を脅すとか、なんて恐ろしいガキに育ちやがったんだ。
「一応聞いとくが、どんな物をご所望だ?」
「フレッシュメロンちゃんシリーズは確実に押さえときたいね」
「ほほう。いい趣味してるな」
フレッシュメロンちゃんとは、最近デビューした新人だ。フレッシュマンゴーちゃん再来と言われる超期待のAV女優だ。
「後は触手系は1本欲しいところだね」
「お前もそれ系好きなのかよ。龍の影響受け過ぎじゃね?」
「いやいや、触手系最高だぜ。ドラおじはいい趣味してるよ。流石俺の師匠!」
あんにゃろ……人の息子に何教えてやがるんだよ。
「まぁいい。とりあえず、母さんにバレないように、お宝ちゃんの受け渡し夜な」
「分かってるよ」
やれやれ……とんだ出費になっちまったけど、奏多がお見合いを受けてくれてよかったぜ。
「あ、そうだ」
「ん? どした?」
「あのさ、もう1個お願いしていい?」
「何だよ?」
「友達がさ、父さんのファンなんだよ。だからサイン本書いてやってくれない?」
「あぁ全然いいぞ。あ、でも秘密にするように言っとけよ」
「分かってるよ。あ、今度アニメになるやつね」
「はいよー」
念願のラノベ作家としてデビューした俺は、4作品目にして、ようやくアニメ化に漕ぎ着けることが出来た。本当に嬉しい限りだ。
「まぁとりあえず、お見合いは来週だから頼むぞ」
「ん、了解」
「何? おにぃ結婚するの?」
「今起きたのか?
「まぁね。おはよぉ〜」
まだ眠たそうに目を擦りながら入って来たのは、俺の可愛い可愛い娘の詩音ちゃんだ。
「詩音ちゃん。もう中2なんだから、Tシャツ1枚でうろつくのはやめなさい」
「えぇ……いいじゃん家の中なんだから。それにパパも嬉しいでしょ?」
「詩音ちゃんはパパのこと、何だと思ってるのかな?」
「ん〜、詩音のお財布。だからね、パパ。詩音お小遣い欲しいなぁ」
「仕方ないなぁ。1万円だけだぞ」
「おい、クソ親父。いくらなんでも詩音に甘過ぎだぞ」
うるさい黙れ。
マイエンジェル詩音が、お小遣い欲しいって言ってるんだ。あげなかったら、バチが当たるだろ。
「あー眠い……。おにぃ、エナドリ持ってる?」
「冷蔵庫に入ってたはずだぞ。てか、お前また夜遅くまでゲームしてたのか?」
「うん。
風実歌やつ……また俺のマイエンジェルにエロゲ渡しやがったな。詩音ちゃんは、汚れなく育って欲しいから、やめろって言ってるのに。今度会ったら説教してやる。
「んで? どうだったんだ?」
「いやぁ、流石、今をときめくエロゲ声優の風実歌叔母さんだねぇ。今回もいい声で鳴いてたよ」
「ほほう。それ、俺にも貸してくれ」
「いいよ〜」
「なぁ、兄妹間でエロゲの貸し借りはやめな? 性癖バレるぞ」
それと詩音ちゃん。自分の叔母さんのこと、いい声で鳴くとか言うのはやめなさい。
「んで? おにぃ結婚するの?」
「違うよ。ただお見合いするだけだ」
「へぇ〜、誰と?」
「雪城さんのところ娘さんだって」
「おにぃ良かったじゃん。めっちゃ美人だよ」
「は? なにお前知ってんの?」
「うん。友達〜」
パパ初耳だなぁ。
いつの間に繋がってたのかな?
お願いだから、パパの知らないところで彼氏とか作らないでね。パパどうにかなっちゃいそうだから。
「ちなみに詩音ちゃん。小鞠さんの娘さんとは、どういう友達なの?」
「エロゲ友達だよ」
同類かよ……。てか、小鞠さん。お宅の娘さん未成年なのにエロゲやってますよ。ちゃんと教育して下さいね。うちの娘に悪影響ですから。
「おにぃ、仲良くなれるんじゃない?」
「会うのが楽しみになってきたな。名前なんて言うの? あと写真とかあったら見たい」
おい、バカ息子。エロゲーマーって知った瞬間に急に乗り気になるんじゃねぇよ。
「名前は
「ワオ、めっちゃ美人」
「こりゃ完全に小鞠さん似だな」
「どうよ? おにぃ」
「やる気出てきたわ」
まぁ確かに、こんな美人さんとお見合い出来るってなったら、男ならやる気出るわな。
とりあえず、理由はどうであれ、奏多がお見合いに前向きになってくれて良かったぜ。嫌々でやられるのは、相手側にも失礼だしな。
「そういや、母さんはどこ行ったの?」
「この時間なら、ママは2世と散歩に行ってるんじゃない?」
「あーいつもの日課ね」
「そうそう。それそれ」
ホームズ2世。うちの飼い猫でホームズの子供だ。
残念なことに、ホームズは3年前に亡くなっちまったんだよな。流石にあの時は泣いたな。ずっと可愛がっていたし。
ちなみに2世は、音葉にすっげぇ懐いている。1世の時とは大違いだな。
「たっだいま〜」
「お? 噂をすれば帰ってきたな」
「みんな揃ってるんだね」
「まぁな」
「あ、そうだ。アラタ君、奏多君にお見合いの話してくれた?」
「あぁ。受けてくれるってよ」
「そかそか。奏多君、頑張ってね」
「任せてよ。母さん」
こいつ……最初はめっちゃ嫌そうにしてたのに、お見合い相手が美人って分かった瞬間にこれだもんな。ほんとに調子のいいやつだ。
「そういえばさ、ママって今日ライブじゃなかった?」
「うん。そうだよ」
「時間大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫。まだ全然余裕だから」
音葉達AGEは月に1回、古巣のアークエンジェルでライブをしている。音葉曰く、AGEを育ててくれたアークエンジェルに恩返しとのことらしい。それと初心忘るべからずだそうだ。
しかも、チケット代は無料。全額AGE持ちでやってる。
こういうところが、人気バンドである秘訣なんだろうな。
「さてと、んじゃ私はお風呂に入ってくるね。行くよ、2世」
「んにゃ〜」
「あ、詩音ちゃんは、いい加減服着なさいよ。風邪ひくよ〜」
「その時は、おにぃにうつすから大丈夫」
「いや、迷惑だからやめろよ……」
「にひひっ、頑張れお兄ちゃん」
だそうだ。
頑張れよ、お兄ちゃん。
「って、あれ? ねぇパパ。ママのスマホ鳴ってない?」
「ん? 本当だな」
んーっと、胡桃ちゃんから電話だな。急ぎかもしれないし、代わりに出ておくか。
「もしもし」
『ちょっと音葉! あんたどこにいんのよ!』
うわっ、何かめっちゃ怒ってんじゃん。
こりゃ音葉のやつ、また何かやらかしたな。
「待て待て、俺だ。アラタだ」
『アラタ君?』
「そ、アラタ。んで? どうしたの?」
『どうしたもこうしたもないよ! あと1時間でライブ始まるんだって!』
「え? さっき音葉は、全然余裕って言ってたぞ」
『それは全然余裕じゃないの間違いだから。てか、音葉は何してるの?』
「ちょうど風呂に入りに行ったぞ」
『あーもう!』
うん。うちの音葉がまじでごめんね。
『とにかく、アラタ君は音葉を出来るだけ早く連れて来て。栞菜と
「分かった。すぐに連れて行くよ」
『お願いね。それじゃ』
「えっと、ママ呼んでくる?」
「超特急で頼む」
「ん。了解」
「悪いんだけど、奏多は音葉母さんの楽器用意しててくれないか? 俺は車を出してくるから」
「分かったよ」
「頼んだ」
ったく、やれやれ……本当にこういうところは、変わんないなぁ。まぁ音葉らしいっちゃらしいけど。
でもまぁ、やっぱり音葉といると退屈しなくて楽しいよ。
それに今は、可愛い息子と娘もいるしな。
楽しさ倍増で幸せいっぱいってやつだ。
俺とバンド女子のダメ人間契約 宮坂大和 @miyasakayamato
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