第24話 妹の相談と取引
「ホームズ〜、ただいまぁ〜」
「んにぁ〜」
「風実歌、悪いけどホームズに飯やってくれ。俺は晩飯の用意するから」
「ホームズのご飯はいつも通りでいいんだよね?」
「あぁ。そこの棚に入ってるから適当に頼む」
「あいあ〜い。了解〜」
ホームズの飯は実は結構豪華だったりする。山盛りのカリカリに猫用のツナ缶とチュールがトッピングされた特性飯だ。
ライブが終わって、俺と
音葉達は、他のバンドの人達と打ち上げに行っているから俺らとは別行動だ。
これを朝昼晩の3食きっちり食べるんだから、猫貴族って言っても過言じゃないな。
「それで? 私達のご飯は何?」
「昨日の残りのカレー」
「ふーん」
「何だよ? 不満なのか?」
「いや、あにぃの作るカレーは美味しいから不満はないんだけどさ。何か、ホームズの方がいいの食べてる気がする」
あーやっぱり風実歌も同じこと思ってたかぁ。
「まぁあれだ。ホームズはこの家ではカースト2位だからな」
「家に来てから、たった3日でそれってすごいね」
「そりゃうちの主様が連れてきた子だからな」
「因みにカースト最下位は誰なの?」
「現状だと風実歌だな」
「やっぱりかぁ。となると、私が居なくなるとあにぃが1番下だね」
「そうなるな」
ただ残念なことに、音葉はホームズに懐かれてないんだよねぇ。昨日なんて、音葉がホームズを抱っこしようとしたら、顔面に爪むき出しの猫パンチくらってたもんな。
因みに1番懐かれてるのは、俺でその次が風実歌だ。
「ほい。お待ち」
「お、2日目のカレー待ってました」
「やっぱりさ、カレーは2日目が1番美味しいよね」
「分かる」
個人的には、夜中に食うカップ麺と同じくらい美味い。つまり最強。
「んじゃ、いただきます」
「うい。いただきます」
さてと、ようやく落ち着いて飯も食い始められたところだし、そろそろ本題に入るとしますかな。
「そんで? 話っての何だ?」
「あ、今なんだ」
「落ち着いているんだからいいだろ。それに音葉が帰ってくる前に済ませたいんじゃないか?」
「流石あにぃだね。何でもお見通しか。だったら、内容もだいたい分かるんじゃない?」
「まぁ何となくな。でも、話があるって言ったのは風実歌なんだから自分から言えよ」
「はぁ……あにぃは意地悪だなぁ」
風実歌は、どう切り出せばいいか考えているのか、スプーンでカレールーを意味もなくいじり出す。
「あにぃはさ、どうやってあのクソ親父を説得したの?」
「説得、ねぇ……残念ながら説得は出来てないんだよな……」
「え? でも」
「俺がこうやって、ラノベ作家を目指しながら一人暮らしが出来ているのは、クソ親父とちょっとした取引をしたからだよ」
「どういうこと?」
「教えてもいいけど、誰にも言うなよ」
「分かった」
はぁ……本当は風実歌にも知られたくなかったんだけどなぁ。でも、こうなっちまったら仕方ないか。
まぁ最悪、音葉に知られなければいいしな。
「簡単に言うと、俺がラノベ作家を目指せるのは大学を卒業するまでだ。大学卒業までにラノベ作家になれなかったら、結婚することになってる」
「え? それって……」
「そ、政略結婚だよ」
「……」
今の時代ではかなり珍しいけど、全くないわけじゃない。特にうちのような、古臭い仕来りを大事にしているところだとな。実際、クソ親父もそれで結婚している。
と言っても、まさか自分がするかもしれない事になるとは思ってなかったけどね。
「相手は誰なの?」
「さぁ、分からない。顔も名前も年齢も何もかも知らない人」
「うわぁ……すっごい無茶苦茶だね……」
「あぁ、まったくだよ」
「その取引したのっていつなの?」
「高2の時だったな」
あれは確か、進路希望調査の紙にサインをもらう時だったな。
俺は早く家を出たかったから、就職するつもりだった。そして働きながら、ラノベ作家を目指していこうと思っていた。
だけど、あのクソ親父はそれを絶対に認めないと言ってきた。それで口論になったんだよな。
「でも、何で急にそんなことを言ってきたのかな? 今まであにぃを会社に関わらせようとしてこなかったのに」
「業務提携を持ちかけられたんだってよ。まぁ俺も詳しくは知らないけどな」
「そっか。だから、クソ兄貴じゃなくてあにぃなんだね」
「そういうこと」
要は、業務提携をすればプラスにはなる。ただ、そこまでのプラスにはならないから、無理にするほどでもない。そんな所に大事な跡取りである、クソ兄貴を差し出す訳にはいかない。ただやっぱり、プラスには変わりないから、やれるならやっときたい。だから、クソ兄貴の代わりに俺が選ばれたってことだ。
つまり、俺はクソ親父の都合のいい駒にされているってことだな。
「んじゃ、あにぃが大学に通ってるのは」
「面子を立てるためだよ。最低限大学は出てもらわないと困るんだとよ。その代わりに、大学の間は好きにさせてもらう約束になってる。もしデビュー出来たら、あの家とは一切関わらないっていう条件で好きにしろだってさ」
「本当に無茶苦茶だね。因みにその話は断れなかったの?」
「断ったら、その場で勘当されてた」
「相変わらず、卑怯な人だね」
「あぁ……」
バイトもしていないで親のスネをかじって生きているだけの、ただの高校2年生がいきなり勘当されたら野垂れ死ぬだけだ。だから、あの時の俺は、この取引を飲むしかなかった。
「だからまぁ……残念ながら俺はクソ親父を説得出来てないんだよ。悪いな」
「ううん……大丈夫だよ。まさか、あにぃがそんなことになってるなんて知らなかった」
「風実歌が気にすることじゃないさ」
「うん……でもさ、私やっぱり声優になりたい」
あぁ、知ってるよ。
風実歌の言いたいことは分かってる。
「だけど……あのクソ親父が邪魔してくる……ねぇ、あにぃ。私どうすればいいかな……?」
「大丈夫だ。任せろ」
「何か考えがあるの?」
「まぁな。だから、俺に任せろ」
「いいの?」
「妹の願いだ。聞いてやるのが、兄貴の勤めだからな」
「あにぃ……今の超かっちょいいじゃん! もっかい言ってよ!」
「はっはっは。や〜なこった」
何故なら今自分で言ってて、ちょっとキモいって思っちゃったからな。言ったことは本心ではあるけど、恥ずかしいから二度と言わない。
「ま、とりあえずだ。後で俺の方からクソ親父に連絡しとくよ」
「うん。分かった」
「さて、難しい話はこの辺にして、さっさと食っちまおうぜ」
「はーい」
――――
――
『何の用だ?』
「少し話がある」
飯を食い終わり片付けを済ませてから、俺はクソ親父に電話をかけていた。
それにしても、息子からの電話で第一声が何の用だってどうなんだよ?
まぁ今に始まったことじゃないし、気にするだけ無駄か。
『早く言え。俺は暇じゃないんだ』
「んじゃ、単刀直入に。風実歌の邪魔をしないでやってくれ」
『断る』
「何でだよ」
『俺が気に入らないからだ』
ち……またそれかよ。
俺の時と一緒だな。自分の子供の夢を、自分が気に入らないからって邪魔するんじゃねぇよ。
『話は終わりか?』
「まだに決まってるだろ」
『だったら、早く言え』
「俺と取引しよう」
『取引?』
「あぁ。あの時と同じようにな」
やっぱこうなるのか。まぁ、分かってはいたけどさ。そもそも、頼んで素直に聞いてくれたら、こんな事態になってないよな。
『取引か。別に構わんが、お前は俺に何を提示出来るんだ?』
「前にあんたが言ってきた、要望を受けるってのはどうだ?」
『……ほう。俺が提示するのは?』
「風実歌の邪魔をしない。今まで通り風実歌が自立するまでしっかり面倒をみる」
『いいだろう』
「取引成立だな」
『あぁ。詳しい日程は後で連絡する』
「分かった」
ま、予想通り何とかなったな。ただまぁ、クソめんどくせぇことになっちまったけどな。
『そうだ。お前に1つ聞いときたいことがある』
「何だよ?」
『お前、あいつが何になりたいか知ってるのか?』
「声優だろ」
『アダルトゲームのってものか?』
「……ん?」
聞き間違いかな? 今、クソ親父の口からアダルトゲームって聞こえた気がしたんだが。アダルトゲームってあれだよな? エロゲってやつであってるよな?
え? 何? 風実歌ってエロゲ声優になりたかったの? 俺はてっきり普通のアニメ声優かと思ってたんだけどな。
いや、まぁ待て。今のは聞き間違いって可能性がある。ここはもう一度しっかり聞き直してから考えよう。
「すまん。もう一度言ってもらえるか。よく聞こえなかった」
『あいつは、アダルトゲームの声優になりたいらしい』
「……」
うん。聞き間違いじゃなかったね。
そっか〜そうなのかぁ。
「その話マジなの?」
『間違いない。俺の前ではっきりと言った』
「あー……うん。オッケー。その辺は俺ので詳しく聞いとく」
『分かった』
「とにかく、取引したからな」
『あぁ。しっかりと守れよ』
「それはこっちのセリフだ」
『ふん』
さて、と……
「風実歌ちゃんー!」
「おぉ? あにぃどうしたの?」
「まぁとりあえず、そこに座りなさいな」
「あいあ〜い」
コタツで寝っ転がりながら漫画を読んでいた、風実歌をソファーに座らせる。
「それでどうしたの?」
「クソ親父と話をつけてきた」
「結果は?」
「風実歌の邪魔をしないことを約束させたよ」
「本当に?」
「あぁ本当だ」
「あにぃ。ありがとう」
「で、だ」
問題はここからなんですよ。
「あのさ、お前エロゲ声優になりたいの?」
「うん、そうだよ。あれ? 言ってなかったっけ?」
「初耳だねぇ。クソ親父から聞かされて、お兄ちゃんビックリだよ」
「ありゃりゃ……こりゃ失礼」
ぜ〜んぜん悪びれてないっすねぇ。もうここまで来ると清々しいっすわ。
「えっと、あにぃは反対なの?」
「いや、全然」
「あ、そうなんだ。今の流れ的に反対なのかと思ったよ」
「んなわけないだろ。普通に応援してるって。ただ、いきなりクソ親父から聞かされたから、ビックリしただけ」
「あー……うん。それは本当にごめん」
いや、ほんとだぜ。今年1ビックリしたよ。だって、あのクソ親父からアダルトゲームって単語が飛び出るんだからな。
「んで、何でまたエロゲ声優? 少し前まで普通にアニメ声優だったよな?」
「いやさ、パト〇シアに恋をしちゃったのよ」
「なるほど。なら仕方ない」
「因みにあにぃは、誰が好きなの?」
「俺は断然、明〇原だな」
「だよねぇ。あにぃはそうだと思った」
ほほう。兄の趣味が分かってるとは、なんて出来た妹なんだろう。お兄ちゃんは嬉しいよ。
とは、流石に思えないなぁ。いくらなんでも、妹に好きなエロゲキャラを把握されてるのは普通に嫌だわ。
てか、今さらなんだけど、何でこの子はエロゲを普通にしているのかな? いやまぁ、やるのは別にいいんだけどさ、どうやってやったんだ? 俺の記憶が正しければ風実歌は、エロゲをやるためのPCを持ってなかったはずだよな。
となると、考えられるのは……
「風実歌。お前もしかして……」
「うん。あにぃのPCでやったよ」
「だよねぇ」
「いやはや。さっすがあにぃだよ。大変いい物を持っていらっしゃる」
「当然だな。この俺が厳選したやつばかりだからな」
と言っても、師匠である
「んで? 何をプレイしたんだ?」
「インストールされてるの全部プレイしたよ」
「マジか」
正確な数字は覚えてないけど、少なくても30本はインストールしてたはずだ。それを全部やったとなると、かなり時間がかかるぞ。
「面白かったからね。夢中でやったんだ。実に楽しいエロゲライフでしたよ」
「楽しんでもらえてよかったよ」
「まぁそんなわけでさ。私はエロゲ声優になるって決めたんだ」
「そっか、事情は理解したよ。頑張れよ」
「うん」
「ただまぁ、面倒だからクソ親父には普通のアニメ声優って言っとけ」
「はーい、了解」
うし。これで一件落着だな。あとは俺が頑張るだけか。つっても、それが1番面倒なんだけど、今さら言っても仕方ないか。
「それでさ、あにぃ?」
「ん?」
「あにぃは、私が出たエロゲ買うの?」
「まぁ買うな」
「おぉ。流石あにぃ。マジかっけぇっす」
「だろ」
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