第23話 年末ライブ

「次うるさくしたら、ガチで埋めるからな」

「「「すいませんでした……」」」

「ったく……お前らもちゃんと止めろよ」

「にひひ〜、ごめんごめん店長」

「いやぁ、最初は止めようとしたんだけどさ。話が面白くてついね」

「止めるに止められなくて、つい……」

「ついね、じゃないっての……まぁ、とにかくあんまり騒がないこと。分かったか?」

「「「「「「はーい」」」」」」


 騒ぎに騒ぎまくった俺達は、ブチ切れた店長に揃って説教をくらった。

 いや、マジで怖かった。あの人、結構顔がイカついから怒るとめちゃくちゃ怖いんだよなぁ。

 まぁ、悪いのは俺らだから何も言えないんだけどね。


「さてと、私達はそろそろ行こっか」

「だねぇ。それじゃ、アラタ君ちょっと行ってくるね」

「あぁ、何か迷惑かけてごめんな」

「ううん、大丈夫だよ。風実歌ふみかちゃんもライブ楽しんでいってね」

「はい。楽しみにしてます!」


 そう言って音葉達は、控え室に引っ込んで行った。


「そういえば、音葉さん達の出番はいつなの?」

「1番最後だよ。大トリってやつだ」

「おぉ流石だねぇ」

「まぁ、このライブハウスだと1番人気だからな」


 そうなんだよな。

 音葉達のバンドは本当にすごい。ライブの日は、音葉達のファンでフロアがいっぱいになるくらいだ。


「てか、今さらなんだけど、風実歌はどうやってAGEを知ったんだ?」

「あにぃ何言ってんの? 普通にYouTubeに決まってるじゃん」

「え? あがってたの?」

「知らなかったの?」

「初耳だな」

「えぇ……」


 いや、だってしょうがないじゃん。俺がAGEを知ったのは最近だし。それに音葉から教えてもらってないしよ。


「まぁ、あにぃらしいか」

「そうそう。アラタってはこんなやつだよ」

「失礼だな、お前ら……」


 けどまぁ……間違っちゃないから、否定は出来ないんだけどさ。


「それより、ちょっとその辺に座って飲み物でも飲まね?」

「あーそれ賛成」

「だな」


 実は俺も喉がカラカラだ。さっきまで散々大声を出していたからな。

 俺達はドリンクを買って、近くにあるテーブル席に座った。


「それで? 風実歌ちゃんはいつまでこっちにいるの?」

「冬休みの間だけかな。学校もあるし」

「ま、それもそうか。でも大丈夫なの? 友達と遊ぶ予定とか」

「あー……うん。友達、ね。大丈夫だよ……」

「ありゃ……俺もしかして地雷踏んじゃったかも?」


 おっとぉ〜? この反応はまさか。まさかなのか?


「なぁ風実歌」

「な、なに……」

「お前、ぼっちなの?」

「あにぃにはデリカシーというものがないのかな?」

「いや、回りくどく聞くよりは、ストレートに聞いた方がいいかなって思ってさ」

「いや、火の玉ストレート過ぎるわ!」


 痛ってぇ……殴られた……

 しかも、普通にグーだったし。マジさぁ……思うんだけどさ。年頃の女の子がグーパンしちゃダメでしょ。それを実の妹がやったと思うと悲しくなってくるよ。


「で? マジでぼっちなの?」

「ねぇ、あにぃ。また殴られたいの?」

「常にお一人様なのでしょうか?」

「さっきより酷いわ!」


 えぇ……じゃあなんて言えばいいんだよ。


「本当にもう……」

「悪かったよ。んで? 実際のところどうなの?」

「いや……別にぼっちではないよ……? クラスでも……話しかけてくれる人は居るしね……」

「はい、風実歌ちゃん質問」

「何?」

「それって休み時間とかですか?」

「じゅ、授業のグループワークとか……」

「「あー……」」


 つまり、それ以外は基本的に誰とも喋らないってことね。

 うん、なるほど。これは、ぼっちですね。


「まぁ風実歌ちゃん。そんなに気にすることないよ」

「そうそう。そのうち気の合うやつが現れるって」

「だよねぇ! ほら私って、頭はあんまりよくないけど、顔はいいし運動も得意だからね! それに結構多趣味だし性格もいいしね! だからほっといても相手から寄ってくるはずだよね!」

「「お、おう……」」


 あー……うん。

 こいつ、またやらかしたな。


「なぁアラタ。風実歌ちゃんのこれ、前よりも酷くなってないか?」

「磨きがかかったな」

「いやいや、そんな冷静に言ってる場合じゃないって。どうすんのよ? お兄ちゃん」

「無理だな。諦めろ」


 風実歌のこれは、お袋譲りの悪癖だ。悲しいことに、本人達は全く自覚ないんだけどな。


「お兄ちゃん的にはそれでいいのかい?」

「うーん。ギリオッケーかな」

「ほう。その心は?」

「友達が出来にくいっていうデメリットはあるが、悪い虫が寄ってこないっていう最大のメリットがある」

「このシスコン」

「うるせぇ。シスコンじゃない」


 俺は単純に妹を心配しているだけだ。

 どこの馬の骨とも分からないやつに風実歌は渡さん。そんなやつは、俺が直々に山に埋めてやる。


「因みになんだけど、この人だったらいいよってなるのは誰なん?」

「そうだな。漫画のキャラとかでいいか?」

「まぁいいだろう」

「だとすると、波風ミ〇トだな」

「あーうん。確かにミ〇トだったら文句ねぇわ」

「だろ?」

「うん」


 だよな。大事な妹を託すんだったら、最低でもこのレベルになってもらわないと困る。


「あり? 人が増えて来たね」

「ん? あぁ、いつの間にか開店してたみたいだな」


 そうか。もうそんな時間なのか。話しているとあっという間だな。

 となると、そろそろライブが始まる時間だな。


「どうする? 前に行くか?」

「俺はどっちでもいいぞ」

「あー、私は音葉さん達のバンド以外知らないから、後ろの方でいいや。その代わり、音葉さんの番が来たら前に行きたい」

「んじゃ、しばらくはここで聞いていようぜ」

「だな」

「うん。了解」


 ――――

 ――


「ほら、あにぃ! 早く早く!」

「分かったから引っ張るな!」


 俺は風実歌に引っ張られながら、人混みをかき分けてステージの前へと向かっている。

 今やってるバンドの次が音葉達の出番だ。


「にしても、すごい人の数だな」

「やっぱりアラタもそう思うか? こりゃいつもより多いんじゃないか?」

「だよなぁ」


 通りでいつもより前に行くのが大変なわけだ。こんなことなら、初めっから前に行っとけばよかったな。失敗したぜ。


「風実歌。こりゃ無理だ。諦めてここで見よう」

「むぅ……仕方ないか」


 これ以上無理に前に行くのは、他のお客さんの迷惑になる。少し後ろだけど、まぁここからでも全然見えるし問題ないだろ。


「お? 演奏が終わったな」

「あ、音葉さん達出てきたよ!」


「やっほ! みんな盛り上がってる?」


「いえーい! 盛り上がってるよー!」

「最高ー!」

「うえーい!」


「うん、いいねぇ! それじゃ、この調子で最後までアゲアゲでいこー!」


 ははっ、相変わらず音葉のマイクはすごいな。少し喋っただけで、フロアの空気を自分のものにしてしまう。

 ほんとに、とんでもないカリスマ性だよ。これに音楽の実力まで加わっているんだから、人気が出るのは当たり前だよな。


「それじゃ一曲目いくよ! 『私はヒーロー』」


『午前6時半にスマホのアラームが鳴り響く

 あぁ……今日もやってきた

 憂鬱な朝がやってきた

 さぁ今日もやりますか

 気合いを入れてやりますか

 私だけのストーリーを

 向かい風に吹かれながら

 1歩、踏み出すんだ

 1歩、1歩、進んで行くんだ

 イバラの道をさ

 どんな理不尽言われたって

 どんな嫌味をいわれたって

 そんなものは気にならない効かないさ

 だって私はヒーローさ

 最強無敵のヒーローなんだ

 そうヒーローヒーロー

 主人公は私なんだ

 輝くヒーローは私なんだ

 さぁ続けますか 気合いを入れて続けますか

 私だけのストーリーを


 午後8時空は黒

 そんな中私は帰路に着く

 今日も1日戦った

 ボロボロになりながらさ

 冷たい雨にうたれ

 傘もささずに歩き出した

 デコボコ道を歩き出した

 雨でびしょ濡れになった

 突然犬に吠えられた

 だけどだけどこんなんじゃ

 へこたれないよ効きやしないさ

 だって私はヒーローなんだから

 そうさヒーローヒーロー

 主人公は私さ

 憧れのヒーローさ


 だけど今日は疲れちゃった

 電池切れっていうやつなのかな?

 だから今日はエンドロール

 明日のためのエンドロール

 疲れたら休めばいいさ

 回り道もたまには悪くないさ

 向かい風も振り返れば追い風さ

 だから今はお休みさ

 明日からまた頑張るさ

 気合いを入れて頑張るさ

 私だけのストーリーを』


 やっぱ音葉達の音楽はいいな。

 上手く言えないけど本当にいい。


「ねぇ、あにぃ」

「うん? どした?」

「音葉さん、すごいね」

「あぁ」

「あのさ」

「うん?」

「後でちょっと話聞いてほしいんだけど、いいかな?」

「おう。いいぞ」

「ありがと」


「みんなありがとう! それじゃ、続けて2曲目いっくよー!」

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