第20話 来客
「やっぱりマルゲリータは外せないよね。 アラタ君」
「お、流石分かってるね」
「にひひ。当然だよ当然」
「もちろん、チーズはマシマシだよな?」
「マシマシにしない理由を聞きたいね」
12月24日。世の中がクリスマスイブということで、昼飯を豪華にすることになった。んじゃ、豪華な昼飯とは? という議題に俺と
そんな訳で、俺達はスマホでピザのメニュー表を見ながら何を注文しようか話し合っていた。
「サイドメニューは、唐揚げとポテトどっちがいい?」
「うーん。悩ましいねぇ」
「この際、どっちも頼むってのはどうだい? 音葉さんや」
「ほほう……それは中々ギルティーですなぁ。ついでに、たこ焼きとかもどうだい?」
「最高じゃ〜ん」
「おっしゃ〜! 頼め頼め! 私の奢りじゃい!」
「よっ! 流石、音葉さん! 太っ腹〜!」
「にっひっひ〜、私はスーパーギタリスト様だぞ〜」
「いやいや、流石っす! ささっ、ストロングのおかわりっす!」
「うむ! 苦しゅうない!」
そう言って音葉は、本日3本目? のストロングロング缶を空ける。それに続いて俺も、残りを一気に腹に流し込む。
「「っかぁ〜! 最っ高!」」
はぁ〜お酒おいちぃなぁ。止まらないねぇ。
「あれれ〜アラタ君。そろそろお酒が無くなるんじゃないですか?」
「まぁ、昨日から飲んでましたからねぇ」
「どうするどうする〜? 買いに行っちゃう?」
「その前にピザの注文が先でしょうが」
「そうでした〜。なら、早いとこ電話しないとだぁね。はい、テレフォンテレフォン」
「おうけぇい! まっかせろ〜!」
『ピンポーン』
「お? ピザ届いたのかな?」
「まだ電話してないぜ」
「きっと私達の思いがピザ屋に届いたんだよ」
「なるほど納得」
「よーしよし。なら、早速玄関まで受け取りに行こう! レッツゴー!」
「イエーイ!」
俺は音葉とスキップしながら、ピザを受け取りに玄関まで向かった。
「「ピ〜ザ! ピ〜ザ!」」
『ピンポーン。ピンポーン』
「はいはーい。今出ますよ〜ピザ屋さん」
全くもう。そんなに焦らなくても、俺達は逃げないぞ。何だったら、迎えに行っちゃうまでもあるからな。
「はいよ〜お待た……せ。え……?」
「やっほ、あにぃ。随分とご機嫌じゃん」
「ふ、
え? 何で風実歌がここに居るの? 意味が分からないんだが。
あーやばい。何か一気に酔いが覚めたわ。状況を整理するために、めっちゃ頭がクリアになってるわ。
「えっと……アラタ君。この子誰?」
「あー……俺の妹」
「ワオ」
――――
――
「こいつは妹の
俺はとりあえず、風実歌を部屋の中に入れて音葉に紹介する。
「風実歌ちゃんね。私は
「え!? 東城音葉って、あのAGEの!」
「あ、知ってるの?」
「マジですか! 私、超ファンです!」
「本当に? ありがとう! あ、私のことは気軽に音葉って呼んでいいよ」
「分かりました」
へぇ、風実歌のやつ音葉のこと知ってたのか。意外だったな。
「てか、あにぃ。何で音葉さんと一緒にいるの?」
「まぁ、話せば長くなるな。いや、その前に急にどうしたんだよ。つーか、見た目変わりすぎじゃね? いつの間に髪染めたんだよ?」
ガッツリとブリーチがかかった、金髪のサイドテールで、両耳にはピアスを付けている。少しだけ幼さが残った顔立ちに、キッとつり上がった目をしている。若干のアンバランスさが感じられるが、贔屓目なしでもそこそこ可愛い方の部類だろう。
「イメチェンしてみた。でも、こんなに見た目が変わっても、すぐに私だって分かるなんて、流石あにぃだね」
「まぁ、妹だからな。それよりも、身長伸びたな」
「まぁね。今は175cmあるよ」
「マジか。俺よりも高いじゃん……」
「お? やったね」
くそ……まさか、妹に身長を追い抜かれる日が来るなんて思ってもみなかったな。
「っと、それよりもだ。何しに来たんだよ?」
「ちょっと。言い方悪くない?」
「いいから。早く話す」
「はいはい分かったよ。まぁ、簡単に言うと家出してきた」
「はぁ?」
「そんな訳だからさ、あにぃ。しばらく泊めて」
「いやいや、ちょっと待て」
え? 今こいつなんて言った?
俺の耳が悪くなってなければ、家出してきたって言ったよな。嘘だろ……マジか。
「あーっと……因みに原因って……」
「そんなの決まってるじゃん! あのクソ親父だよ!」
「ですよねぇ……」
あーうん。分かってたよ。俺ら家族の中で揉め事が起きる原因の8割がクソ親父だもんな。
「風実歌。学校は?」
「昨日から冬休み」
「そか。なら、冬休みが終わるまではうちに居ていいよ」
「え? いいの?」
「いいよ。どうせ、そのつもりで来たんだろ?」
「うん。まぁ」
「だったらいいよ。それに長期連休くらいあのクソ親父の顔見ないで済むなら、それが1番いい」
「ありがとう。あにぃ」
「おう」
となると、今日から飯は3人分か。部屋は、俺の部屋を使わせればいいか。どうせ寝るくらいしか使ってないし、俺が寝る時はコタツでいいだろ。
「そんな訳で音葉。しばらく、風実歌も一緒になる」
「うん。分かったよ」
「ん? あにぃ、ちょっと待って」
「何だよ?」
「何で音葉さんに許可取ってるの?」
「そういえば、まだ言ってなかったな。俺と音葉は一緒に住んでいるんだよ」
「はぁー!?」
「落ち着け。今理由を説明するから」
そして俺は風実歌に音葉との関係を説明した。下手に誤魔化すのも面倒だし、ありのままを包み隠さずだ。
「な、なるほど……何か、あにぃも色々とすごいね……」
「なぁ。人生何があるか分からんもんだな」
「私が言ってるのは、当然のように受け入れちゃってる、あにぃのことなんだけどなぁ」
「あ、何でもいいけどこの事は」
「分かってるよ。クソ親父達には黙ってるよ」
「さっすが俺の妹だな。よく分かってるじゃん」
「まぁこれでも、同じ苦労を味わった者同士だからねぇ」
うんうん。本当に苦労してきたよなぁ。出来ることなら、もう二度と顔みたくないわ。
『ピンポーン』
「ん? また誰か来たのか?」
「あぁ、多分ピザだよ」
「まだ注文してないぞ」
「2人が話している間に、私が注文しといたよ。あ、風実歌ちゃんの分もちゃんと頼んだから安心して」
「すいません。ありがとうございます」
「ううん。気にしないでよ。じゃ、私は受け取って来るから、2人はゆっくりしててよ」
自分から行くなんて珍しいな。もしかして、気を使わせちゃったかな?
「音葉さんっていい人だね」
「だな。まぁ……ダメ人間だけどな」
「因みにどんなところがダメ人間なの?」
「ん〜、見てれば分かるよ」
「ふーん。そっか」
きっと驚くだろうな。音葉のダメ人間っぷりを見たら。俺はもう完全に慣れちゃったけど、初めのうちは色々と驚かされたもんだ。
「ピザ持ってきたよ〜ん」
「ありがとうございます」
「サンキュ。んじゃ食うか」
「「「頂きまーす」」」
――――
――
「んで? あの今度はクソ親父になにされたんだ?」
「やっぱり聞いちゃう?」
「ま、一応はな」
ピザを食い終わって、片付けを済ませた俺は、風実歌を部屋に呼び出した。
音葉には悪いけど、うちの事情はあんまり聞かれたくないから、部屋には俺と風実歌の2人きりだ。
「あにぃさ。私の将来の夢覚えてる?」
「声優だろ」
「うん。ちゃんと覚えてくれてたんだ」
「まぁな」
俺と風実歌が、アニメや漫画の類いを好きになったのはほぼ同じ時期だ。まぁ、子供の頃に一緒になって見ていたから当然と言えば当然だ。
「私さ。事務所に入るためのオーディション受かったんだよ」
「まじかよ。すげぇじゃん」
「うん、すごいでしょ。でも、勝手に断られちゃった……」
「そういうことか……」
なるほど。確かにあのクソ親父だったら普通にやるな。あいつは、アニメや漫画ってが大嫌いだ。だから、俺らがそういうのに関わるのを酷く嫌う。
「それでさ。勝手なことするなって、文句言ったんだけど、いつもの感じで言われてね」
「想像つくよ。そん時はクソ親父だけだったのか?」
「ううん。クソババアとクソ兄貴も居た」
「うわぁ……最低だな」
「うん。本当に最低。あの2人も一緒になって、私の話何て一切聞かないで、あーだこーだ言い出してさ」
「ったく……本当に変わらないなぁ」
昔からっそうだ。俺と風実歌の話なんてまともに聞きやしない。そして、いつも自分達の意見が正しいと思い込んでやがる。マジでムカつく。
「んで、あまりにもムカついたから、クソ親父の顔面に蹴り入れて、財布に入ってるお金抜き取ってここに来たってわけ」
「お前は、相変わらずその辺は逞しいよな……」
「ふふん。まぁね」
褒めてはないんだけどね……。
「ま、とりあえず事情は把握した」
「うん」
「そういや、こっちまではなにで来たんだ?」
「夜行バスだよ。その後は電車と歩き」
「なるほど。となると、そろそろクソ親父から俺に電話がかかって来る頃か」
「あー、確かにそうかもね」
「っと、噂をすればだ」
まるで俺らの会話を聞いていたんじゃないかってくらい絶妙なタイミングで、クソ親父から電話がかかってきた。
正直なところ無視したいんだが、今回ばかりはそうもいかないから、仕方なく応答ボタンを押した。
『聞こえているか?』
「聞こえてるよ。なんか用?」
『要件は言わなくても分かるんじゃないか?』
「知らねぇよ」
『ち、だったら単刀直入に聞く。お前のところにバカ女は来ているか?』
バカ女、ねぇ……呼び方は変わってないんだな。自分の娘のことをよくそんな風に言えるものだ。
「悪いけど、俺の知り合いにバカ女なんて居ないんで知らないな」
『だったら言い方を変えよう。お前の妹は来ているのか?』
「あぁ来てるよ」
『そうか。なら、俺の要件は終わりだ』
「おい、ちょっと待て。本当にそれだけなのか?」
『他に何かあるのか?』
「あんた、状況分かってんのか? 自分の娘が昨日の夜から家出してんだぞ」
俺と風実歌の地元は宮城だ。そこから、ここ東京まで来るのには相当時間がかかる。とてもじゃないが、高校生が家出で来る距離じゃない。
『だから、保護者として最低限の行動をしている』
ち……このクソ親父が。
「本当に変わんねぇな……」
『変わる必要がないからな』
「あぁそうかよ」
『そうだ。とにかく、冬休みの間は勝手にさせてやる』
「あんたに言われなくても、そうさせるつもりだ」
『勝手にしろ。そんなことよりも、約束は忘れてないんだろうな?』
「それはこっちのセリフだ。あんたこそ、約束忘れんなよ」
『ふん』
ち、言いたいことだけ言って切りやがった。
「はぁ……」
「お疲れ〜あにぃ。まぁこんな感じなんですよ」
「あいつマジでムカつくな」
「ねぇ〜」
つーか、変わらないどころか、前よりも酷くなってるな。年取ってますます老害になってる感じだな。
「まぁとりあえず、冬休み中はうちでゆっくりしてな」
「うん。そうする」
「さてと、そろそろ音葉のところに戻ろうぜ」
多分今頃、めっちゃだらけてるだろうからな。
「そういえば音葉さん。ピザ食べてる時から、ずっとスト缶飲んでたけど、大丈夫なのかな?」
「うーん、分からん」
でもまぁ、酒は無駄に強いっぽいな。昨日からあんだけ飲んでいても、呂律は正常だし足取りも普通。何だったら、酔っ払ってる感じもないんだよな。
「それにしても音葉さんって、本当にダメ人間なんだね……ちょっとショック……」
「その気持ちよく分かるよ……」
音葉の得意技、足でのリモコン操作から始まって、暑いからって脱いだ上着を放り投げたりといつも通りのやりたい放題っぷりに、風実歌はかなり驚いていた。
「あの唐揚げを素手で食べて、その手をその辺で拭こうとしたのは引いたね……」
「あー……あれな。あれはマジでやめてほしい」
あいつポテチ食って、そのままゲームのコントローラー握るから、毎回ギトギトになるんだよな。
「今後のために言っとくと、まだまだこんなもんじゃないから、覚悟しとけよ」
「あ、あはは……こりゃ大変だ」
俺と風実歌は笑いながらリビングに戻ると、2人して顔を引き攣らせることになった。
だって、空になったスト缶と食ったお菓子のゴミがあちこちに散乱していたからだ。
よくもまぁ、30分ほどでここまで汚したもんだな。
「えっと……あにぃ? 手伝おうか?」
「あぁ……頼むよ」
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