第21話 誕生日

「んで? な〜んで俺はクリスマスに野郎と2人で、映画を見に行かなきゃならんのだね?」

「簡単に言うと、音葉おとは風実歌ふみかに家から追い出された」

「お前すごいな。今の発言からツッコミどころが満載だぞ」

「いや、マジでそれな」


 自分で言っていて、俺は何言ってんだろうな? って思うもん。


「まぁ、とりあえず遠慮せずにツッコんでこいよ」

「んじゃ遠慮なく。何で風実歌ちゃんが居んの?」

「クソ親父達と揉めて家出して来た」

「なるほどな。んじゃこれ以上は聞かないわ」

「話が早くて助かるよ」


 龍はうちの事情を把握してくれている。そして、俺が踏み込んで来てほしくないってのを理解してるから追求して来ることはない。我ながら本当に良い友人を持ったね。


「なら次な。東城さんは何で仲間はずれにされてんの?」

「あーそれはだな……」


 音葉達のバンド、AGEは3日後に今年最後のライブをすることになっている。んで、メンバーの佐々木さんと松田さんは、今日はその準備をするとかで色々と動いているらしい。だけど、音葉は何もしていない。


「音葉が言うには、手伝うと余計に仕事が増えて邪魔になるんだってさ。だから、2人に来るなって言われんだと」

「なるほどな」

「随分とあっさり納得したな」

「まぁ、東城さんを見てると何となくな」


 おぉ、ダメ人間オーラが隠せてない。音葉さん流石っす!


「そんで最後に、何でまたその2人に追い出されたんだ?」

「ほら、俺って今日誕生日じゃん?」

「あーそういえばそうだったな。おめでとさん」

「おう。んで、何でもサプライズでお祝いしたいから、夕方まで出ていけって言われた」

「ほう。事前申告制のサプライズか。斬新だな」

「だろ? だから、帰ったら驚かないといけなんだよ」

「そりゃ大変だ」


 そうなんだよなぁ。めっちゃ大変なんだよ。

 帰った瞬間にどれだけ上手く驚けるかで、お祝いのレベルが変わってくるからな。だから可能な限り、上手く驚かなくちゃならん。


「まぁそんな訳で、夕方までちょっとつきあってくれ」

「分かったよ。どうせ俺も、夕方まで暇だしな」

「夕方からは松田さんとデートか?」

「あぁ、クリスマスだからな」


 そうなんだよなぁ。今日は俺の誕生日であると同時に世の中はクリスマスだ。おかげで、町中にカップルが大量発生している。ったく、大量発生するのはメタル〇ングスライムだけでいいのにな。

 そして、コンビニと薬局から大量のコンドームが消えた。まさに聖夜ではなく性夜。


「んで? 何見るの?」

「これ」


 俺はポケットに入れていた、全国どこでもつかえる映画のチケットを龍に見せる。


「サメサメハリケーンPart3。なるほど、B級映画だな」

「だな」

「しかも、結構人を選ぶタイプのだ」

「ついで言うと続き物だ」

「何でこんなものを?」

「家を出る前に、風実歌から押し付けられたんだよ」

「あー……風実歌ちゃんチョイスかぁ」


 風実歌はこういう、意味分からんタイプの映画大好きなんだよなぁ。確か前に巨大ゴリラと巨大クマが、ひたすら殴りあうだけの映画を見せられたことがあったな。あれはつまらないを通り越して苦痛だった。


「別の映画を見るっていう選択肢はあるか?」

「残念ながら、感想を1500文字以内にまとめて提出しないといけない」

「それって俺も?」

「もちろん」

「見終わったら、ラーメン奢りな」

「了解だ」


 ――――

 ――


 俺達は2時間もあるクソつまらんサメ映画を見てから、俺と龍行きつけの超こってりラーメンを食いに行った。それから、適当にゲーセンで時間を潰してから、感想文を書いて解散した。

 そんで今は、玄関の前に立っている。


「さて、どうしたものか」


 一応、言われた通り夕方まで時間を潰したから、このドアを開けて入ってもいいんだが、はたしてどう驚いたらいいものだろう?

 適当に、うわぁーびっくりーとか言えばいいかな? それとも、驚きのあまり飛び上がってみようかな?


「お、あにぃおかえり。玄関の前で何やってるの?」

「いや、入ってもいいのかなって」

「うん、大丈夫だよ」

「そっか。なら」


 玄関の前でうんうんと考えていたら、白い箱を持った風実歌がエンカウントした。見た感じ、買い物から帰ってきたみたいだな。


「それなんだ?」

「ん? すぐに分かるよ」

「そうか」


 おぉ……こりゃまたすごいな。


「Heyハッピーバースデー! アラタ君!」


 リビングのドアを開けるとそこにはサンタさんが居た。


「ふむ」

「ん? あにぃ、どうしたの?」

「いやな。どうせコスプレしてくれるなら、バニーガールの方が良かったなと思ってさ」

「おいおい、あにぃ。欲望丸出しかよ」

「妹よ。欲望は大事だぞ。何故なら、仮○ライダーのテーマになるくらいだからな」

「なるほどね。一理あるね」

「だろ?」


 流石俺の妹だな。

 理解が早くて助かるぜ。


「え? 2人共なんの話してるの? てか、無視しないでよ」

「あーすまん音葉。ちょっと今大事な話してるから、少し動かないでもらえるか」

「すいません、音葉さん。そういうこと何で、じっとしてて下さい」

「あ、うん……了解」


 俺と風実歌がそう言うと、音葉は絵を描く時のモデルさんみたいにその場で止まってくれた。


「で、だ。妹よ。実際のところ、あのコスはどう思うよ?」

「まぁ、シンプルに似合ってると思うよ。音葉さんって美人だしスタイルいいし。ただ、何か足りない気はするね」

「同感だな。やっぱりバニーだと思うんだよ」

「それは、あにぃの性癖じゃん」

「否定はしないけどさ、でも音葉のバニーは最高に似合うと思うんだよ」

「あー確かに。何かさ、いい感じにエロいのが出来そうじゃない?」

「出来ちゃうねぇ」

「因みにバニーの色は?」

「やっぱ王道の黒一択じゃね?」

「おぉ! さっすがあにぃ! 私も同じ意見だよ。ついでに、オプションで網タイツを履かせるってのはどう?」

「天才かよ」


 ちょっと待てよ。一旦落ち着いて想像してみよう。

 ……やっばいな。犯罪級にエロいじゃん。もはや、一種の暴力って言っても過言じゃないな。


「どうだい、あにぃ? 妄想は捗ったかい?」

「おうよ。最高に捗ったぜ」

「それは何よりだね」


 とりあえず、機会があれば音葉にバニーガールのか格好をさせよう。網タイツ付きで。


「ねぇねぇ。そろそろいいかな?」

「あ、悪い悪い。もういいぞ」

「音葉さん。ありがとう」

「うん、全然大丈夫だよ。でもまぁ……何か調子狂うんだけどねぇ」

「気のせいだってば。ほら、そろそろあにぃの誕生日パーティを始めようよ」

「そうだねぇ。んじゃ、主役のアラタ君。ここに座って」

「はいよ〜」


 ほう。こりゃ豪華だねぇ。

 テーブルの上には、ケン○ッキーチキンと寿司、ピザに餃子などなど、色んな料理が並べられていた。


「どうよ? アラタ君。このデリバリーフルコースは」

「控えめに言って最高だな」

「にひひ〜」


 それにしても、今って何でもデリバリーで頼めるんだな。時代の進化ってすごいわ。


「それじゃ、私がアラタ君のために即興ハッピーバースデーを歌っちゃうよ」

「おぉ、そりゃ楽しみだな」

「うんうん。AGEのギターボーカルが歌ってくれるなんて贅沢だよ!」

「にひひっ。それじゃ、1曲お付き合いくださいねぇ」


 そう言って音葉は、いつものエレキギターではなく、アコースティックギターを掻き鳴らす。


『ハッピーハッピーバースデー

 ハッピーハッピーバースデー

 今日はアラタ君の誕生日

 ハッピーハッピーバースデー

 ハッピーハッピーバースデー

 素敵な1年になりますように』

「あにぃ」

「アラタ君」

「「誕生日おめでとう!!」」

「おう。2人共ありがとう」


 こんな誕生日は初めてだな。実家ではこんなこと絶対にやらないもんな。なんと言うか、普通に嬉しいものだ。


「んじゃ、食べようぜ」

「あ、その前に」

「ん?」

「先に誕生日プレゼントを渡したいかな」

「あ、それいいですね」

「プレゼントまで用意しているれたのか?」

「もちろんだよ」

「まぁね」


 マジか。もうこれだけでも、大満足なのにまだ上があるなんてな。まさに至り尽くせりだ。誕生日最高じゃん。


「まずは私からね。はい、あにぃ」

「おぉ! ナ○ト全巻じゃん!」

「ふふん。どうよ? すごいでしょ」

「あぁ、ありがとな」

「うん。あ、後で私にも読ませてね」

「もしかして、そっちがメインだったりしない?」

「ご想像にお任せするよ」

「ったく、分かったよ」


 しかし、よく買えたな。中古でも結構な値段すると思うんだけど。


「あ、値段は気にしなくていいよ。クソ親父の財布から抜き取ったやつで買ったから」

「なるほど、納得した」


 だったら、微塵も気にする必要ないな。心置きなく読ませてもらおう。


「それじゃ、次は私だね。今連れてくるから、ちょっと待ってて」


 ん? 連れてくるってどういうことだ? 普通、持ってくるが正しい日本語じゃないか?


「なぁ、音葉が何用意したか知ってるのか?」

「ううん。何も知らないよ」

「そうか……」


 うん。何かすごく嫌な予感がして来たなぁ。


「はいは〜い、お待たせ〜。私からはこの子だよ〜」

「は?」

「え?」

「にゃ〜」


 え? 嘘でしょ? ネコ連れてきちゃったよ。


「音葉。その子どうした?」

「今日から新しい家族になります」

「そ、そうか……」


 なるほど。こりゃ、想像の斜め上をいったな。完全に予想外だったわ。


「えっと……音葉さん。それマジなの?」

「うん、マジだよ」

「あー……っと、あにぃ? ここってペットは大丈夫なんだっけ?」

「まぁ、一応はな」


 ただまぁ、一言くらいは相談してほしかったな。もし、ペット禁止だったらと思うと恐ろしいわ。


「にひ〜、どう? 私のサプライズ」

「超ビビったよ」

「にっひっひ。大成功ってやつだね」

「そうだな。んで? その子はペットショップで買ってきたの?」

「ううん。里親のやつだよ」

「なるほど」


 へぇ、三毛猫か。俺は音葉とネコの抱っこを変わる。


「ま、連れてきちゃったもんは仕方ないな。今日からよろしくなぁ」

「にゃ〜」

「あにぃ。私にも抱っこさせてよ」

「おう、いいぞ。ほれ」

「ありがとう。可愛いねぇ」

「だな」

「音葉さん。この子の名前は決めたの?」

「ううん。まだだよ」

「んじゃ、名前決めないとだな」


 何かいいのあるかな?

 うーん……こういうのって、パッと思いつかないんだよなぁ。


「はいはい! チャーシューとかどう?」

「却下。めっちゃ食い物の名前やん」

「えぇ〜可愛いと思うよ」

「風実歌。ジャッチ」

「私も却下で」

「ぶーぶー。じゃあ、他に何かあるの?」

「風実歌。アイデアプリーズ」

「唐突だなぁ。んーと、それじゃあ……ホームズとか? ほら、何年か前にそんなドラマあったじゃん?」


 あー、言われてみればそんなのあったな。結構好きだった覚えがあるわ。

 うん、ホームズか。悪くないな。


「俺はいいぞ」

「私も異議なし!」

「決まりだね。それじゃ君の名前は今日から、ホームズだ」

「にゃ〜」

「名前も決まったことだし、今度こそ食べようか」

「そうですね」

「だな」

「それじゃ」

「「「頂きまーす!」」」


 こんな感じで、俺の誕生日パーティーは夜中まで続いた。

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