第40話 2人の会話
―
「……ん?」
「おはよ」
「栞菜……?」
「うん、そうだよ。目覚めはどう?」
「……体のあっちこっち痛い」
「だろうねぇ」
逆にあんだけ殴りあって気絶までして、どこも痛くない元気だよ〜って言われる方が驚くよ。
「……えっと、どうなったか聞いてもいい?」
「もちろん」
――――
――
「あー……なるほどね」
私の説明を聞いた
きっと頭の中で反省会でも開いている頃だろうね。
「一応聞いとくけど、3日後のライブ大丈夫?」
「大丈夫。てか、大丈夫じゃなくても大丈夫にする。
なーんか、音葉も同じこと言ってそうだなぁ。まあ、この2人は似たもの同士だから有り得るかな。
「ま、それが聞けてよかったよ。私も胡桃と同じステージに立ちたいしね」
「敵同士だよ」
「分かってるよ。でも、形はどうであれ、また胡桃と同じステージに立てることが嬉しいんだって」
「……そっか」
「多分、音葉や
「まぁ……璃亜はそうかもね。ただ音葉は絶対にそんなこと思ってないよ」
「そんなことないと思うけどなぁ」
なんだったら、音葉が1番嬉しいと思ってるはずなんだよなぁ。
「ま、何でもいいや。とにかく、私は絶対に負けないから」
「うん。それは私達も同じ」
いくら楽しみで嬉しいって言っても、今回は胡桃の言う通りライブバトルだからね。やるからには負けたくない。絶対に勝つ。まぁ、負けるなんて欠片も思ってないけどね。
「んじゃ、話は終わりだね。栞菜、もう帰っていいよ」
「あーそれは無理。私、店長さんに胡桃のこと頼まれてるからね。家まで送って行くよ」
「別にそんなことしなくていいよ。1人で帰れるし」
「残念ながら店長命令なんだなぁこれが。もし逆らったら、給料ピンハネするってよ」
「うっ……あの人だったらやりかねない……」
「まぁそういう訳だからさ、大人しく私に送られていきな」
「はぁ……分かったよ。ただ、もうちょい待ってもらっていい? まだしんどいから、もう少し休んでいきたい」
「うん。大丈夫だよ」
てか、胡桃の反応的にまじであの店長ピンハネする感じなんだね。
「それにしてもさ」
「うん?」
「まさか胡桃がメイド喫茶で働いてるなんてね」
「う、うるさいなぁ。別にいいでしょ」
「いやいや、悪いなんて言ってないじゃん。相変わらず似合ってるよ」
「……ありがと」
胡桃は昔から、メイド服みたいなフリフリとした可愛い系の服が好きなんだよね。
この若干男勝りなところと、内心めっちゃ乙女な感じのギャップが、胡桃の可愛いところなんだよね。
「でも何でバイトしてんの? 確かメイド服何着か持ってたよね? お金にも別に困ってないでしょ?」
「いや……その、ね?」
「ん?」
「メイド服着ているうちにさ、だんだんメイドさんをやってみたくなって、それで始めた」
「あーなるほどね」
つまりあれか、着ているだけじゃ満足出来なくなったということか。でもまぁ気持ちは分からなくはないかも。
「だ、誰にも言わないでよ! 特に音葉には!」
「分かってるよ」
「本当にお願いね」
「はいはい」
あーあ、顔真っ赤にしちゃって胡桃可愛い。もうちょいこういうところを音葉に見せれば、喧嘩せずに済むのになぁ。
なんでか知らんけど、音葉の前だとツンツンしちゃうんだよね。どうせツンツンするなら、デレもおり混ぜればいいのに。
「そういえばさ」
「んー?」
「音葉と一緒に居た男の人って誰なの? なんか随分と仲良さげだったど」
「あー、アラタ君のこと?」
「いや、名前知らないし」
「ごめんごめん。そうだよね。彼は桜木アラタ君。音葉の同棲相手だよ」
「は!? ど、同棲!?」
「正確には契約相手だね」
「いやいや……もっと意味が分からないんだけど」
「あはは、まぁ確かにそうだよね。えっと、どこから話せばいいかな?」
あの2人の関係はまぁまぁ特殊だからなぁ。あ、でも今はそうでもないか。まぁとにかく、説明がめんどいから、ありのままのことを話せばいいかな。
「だ、ダメ人間契約って……音葉、本当にバカなんじゃないの?」
「だよねぇ。私も初めて聞いた時は同じこと思った」
普通に生きていれば、まず聞かない契約だもんね。そもそもの話、こんなバカげたこと思いつきもしないか。
「てか、桜木君? だっけ? その人もよくその契約受け入れたね」
「まぁ……音葉に無理矢理って感じだけどね」
「あいつ何やったの……?」
「薬を盛って、ラブホに連れ込んで、襲われたってことにしたらしい」
「最低かよ……」
「だよねぇ。私もそう思う」
初めて聞いた時は、音葉を警察に突き出してやろうかと本気で考えたもんね。
「でも、何か仲良さげじゃなかった?」
「うん。実際すごく仲良いよ」
「えっとさ、一応聞いとくけど、付き合ってたりするの?」
「って思うじゃないですかぁ〜。でも付き合ってないんだなぁこれが」
「いや、どういうテンションよ……」
「間近で見てるとこうなるんだって。あの2人、カップルを通り越して、夫婦の雰囲気を出してるからね」
「え? そんなに?」
「そんなに」
いずれ誰かに聞いてもらうために、ために貯めてた2人のイチャイチャ話を胡桃に話した。多分、1時間くらいは語ってたと思う。
「聞いてるだけでお腹いっぱいだわ」
「でしょ〜」
「本当によく付き合ってないね」
「いや、ほんとそれ。もうお前ら早く付き合っちまえよって感じ」
「まさか、リアルでその言葉を聞く日が来るとは思わなかったね」
「まぁそうだね」
私もリアルでこんな言葉使う日が来るなんて、夢にも思わなかったよ。
「あ、言い忘れてた。アラタ君ってあれだよ」
「あれって?」
「高2の時の修学旅行のだよ。音葉が惚れたってやつ」
「修学旅行……ってあれか!? え? 嘘まじで?」
「まじまじ。音葉の王子様」
「うわぁ〜、そんなことあるもんなんだね」
確率にしたらどんなものか分からないけど、奇跡みたいなものだ。ほんとにありえないよね。
「でもなんて言うか音葉っぽいなぁ」
「どういうこと?」
「運命にていうか、神様? 世界に愛されてるって感じ?」
「あー何となく分かるかも」
何でか分からないけど、昔っから音葉は最終的には自分の都合のいい方に転ぶことが多いんだよね。今回のことも、そういう方に転んだって言われれば納得出来ちゃうんだよなぁ。
「んで、運命的に再会して、薬盛って脅迫したということか」
「まぁそんな感じだね。あ、でもね、脅迫に加担したのは璃亜もなんだよね」
「は? どういうこと?」
「実はさ、璃亜の彼氏がたまたまアラタ君と幼なじみでさ、そこから3人でアラタ君を罠に嵌めたらしいよ」
「うん。もうまじで最低だね」
「だよね」
もうアラタ君が可哀想でならないよ。
「ちなみに今の話は、トップシークレットだから、アラタ君には絶対に秘密だからね」
「了解。てか、さすがに話せないよね……」
「そうとも言う」
むしろそっちの方が正しい。とてもじゃないけど、聞かせられないよ。
「栞菜も苦労してるね。相変わらず」
「ほんとにね……」
「まぁ愚痴くらいは聞くよ」
「ありがとう。助かるよ」
「うん。さて、そろそろ帰ろっか」
胡桃はそう言って立ち上がる。
うん。すっと立ち上がったし、とりあえずは大丈夫そうかな。よかった。
「着替えてくるから、栞菜は先に店の外に出てて待ってて」
「ねぇ胡桃」
「ん? 何?」
「AGEに戻って来る気はないの?」
「……」
「私は、また4人でバンドしたいよ」
「……冗談きついよ」
胡桃はそれだけ言って、更衣室に向かって行った。
「……冗談じゃないんだけどなぁ」
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