第15話 5人の勇者
「あんた、なにひとりでカッコつけてんのよ」
バスタオルを瑞々しいその肢体に巻きつけたエレナがずいずいと大浴場に入ってくる。
イトがそちらに目をやると、エレナの背後で「ごめん」と口をパクパクするライサと怪訝な面持ちのオズの姿がそこにあった。
唖然とするフーリエにエレナは容赦なく詰め寄る。
「あの子は繊細だから? だから何? あたしには何もできないって言いたいの?」
「……っそうよ! あの日だって……イトが攫われそうになった日だって誰よりも震えていたじゃない! そんなあなたを……あなたたちを守ろうと思って何が悪いのよ⁉︎」
「悪いに決まってんじゃない!」
エレナはフーリエの眼前に仁王立ちし、言い切る。
「あと3日で先生を超える? バカ言ってんじゃなわいよ。あんたのそういう所が落ちこぼれって言われる原因なんじゃないの?」
「なんですって⁉︎」
「知ってんのよ、あんたのことは前から。個人の技量はピカイチ。それでもいざパーティを組んで集団戦をするとなればその強情さで他の人たちを置き去りにしてしまう。協調性皆無の天才。それがあんたよ」
「……くっ」
眉を寄せ、奥歯を噛み締めるフーリエ。
揺れる声音で反論する。
「……あの頃の私じゃないわ」
「変わってないじゃない」
「変わったわよ!」
フーリエの嘆くような叫びが反響する。
大粒の涙がエメラルドの瞳から零れる。
「変わったじゃない。チームの能力を把握して、勝算の高い作戦を立てて、みんなで話し合って……ちゃんと協調したじゃない」
「それを協調だと思ってるなら、あんたは天才なんかじゃないみたいね」
「……なにが足りないっていうの」
「信じてないじゃん! ここがまた襲撃される可能性があるんでしょ? それを話してみんなで協力するのが1番勝算あるんじゃないの? いつもいつもあんたの勘定にはあんたしか入ってないのよ。他人の力まで勘定に入れて考えなさいよ!」
「そんなの……無理よ」
「あんたが決めんな!」
弱々しくうな垂れるフーリエの肩をエレナが掴む。
「無理かどうか、一度でも試した?」
「本校で誰もついて来れなかったのに分校に飛ばされたあなたたちがついて来れるわけ——」
「あんたもその分校の人間でしょうが!」
「それは……」
「ああもう洒落臭い」
顔にかかった赤髪を振り払い、フーリエの眼を見つめて言い放つ。
「あんたとあたしたちは同じよ。同じ落ちこぼれ同士でしょ。勝手に孤独になるんじゃないわよ。一度でいい、試しなさい。それでダメなら独走でも身勝手でも好きにすればいいわ」
「……エレナ」
「あたしたちはあんたに置いてかれない。いい加減孤独はお終いにしましょ」
「うっ……うわぁぁあぁぁぁぁぁぁ……」
顔を歪ませ、まるで赤子のように天を仰いで泣きじゃくるフーリエ。
そしてその小さな背中を優しくさすってやるエレナ。
「なんとか纏まったみたいでよかったですね」
「ほんとに……エレナが飛び出した時はどうなることかと思ったよ〜」
「いやマジでエレナ怖っ……」
「オズ?」
不自然に身体を硬直させるオズ。
ギギギと彼女の顔がイトたちの方を向き、引き攣った顔で呟く。
「あいつ、ここで仕掛けるつもりだ……」
瞬間、オズの姿が失せそれを認知した時には視界が傾いでいた。
「きゃぁ」
「いててて……まさか」
俊敏軽快な動きでバク宙を繰り返し、ズザザザと床を滑るオズ……もとい。
「はーっはっはッ! そのまさかさッ! 風呂場だからって気を抜いているとは
愚か者たちめ。このアルデ=クラム、女湯を覗くことに一切の躊躇なしッ!」
「ただの変態じゃないのッ⁉︎」
「うるせぇ! 問答無用じゃいッ!!!」
アルデがけしかけたオズが天井や四方の壁を飛び回り、超立体的な空間移動でエレナとフーリエを翻弄する。
突発的な緊急事態に泣くのを中断し、バスタオルをしっかり押さえながらエレナと何やら言い合いながらオズを捉えようとするフーリエ。
そしてヌハハハと下卑た笑いを発する
かくして、5人の心はひとつになった。
◇◇◇
3日後、寮のリビングに全員が集まっていた。
移動式の黒板を前にアルデが、大まかな分校とソラリスの潜伏先の図を書いて今日起こりうるであろう様々な事態について確認をしていく。
「よし、そんじゃあ今日の作戦について説明を終わる。何か質問はあるか?」
「いいですか?」
フーリエがスッと手を挙げる。
「おう、なんだ?」
「作戦を始める前に私からみんなに話しておきたいことが」
煌びやかな金髪をふわりと揺らしながら、フーリエは4人の少女たちの方に向き直る。
「この3日間、私なりにみんなを信じてやってきたつもりよ。今日の作戦については何点かみんなの能力を勘定に入れてアルデ先生に組んでもらったわ。みんな、私のことを信じてくれる?」
不安げな目で見つめるフーリエ。
観衆からドッと笑いが起きる。
「ふふっ、なんだそんなことか。びっくりしたよフーリエ」
「まったくです。脅かさないでくださいよ」
「もちろん! いつだってい信じてるよ!」
「そういうこと。確認を取るまでもないわね」
口々に肯定を示す少女たちにホッと安堵の息が漏れる。
「そう、でしたね……ふふふ」
笑い合う少女たちが眩しいとばかりに背を向けたアルデは更衣室に向かい、自分の身支度を始める。
この3週間の自分の教育の真価が問われる日だ。
「クソッ、柄にもなく緊張してきたな」
胸に登ってくるモヤモヤとした気持ちを気合いでグッと押し込み己を奮い立たせる。
トントントン。
こんな時に誰だろうと扉を開けてみると、イトがモジモジとした様子でそこに立っていた。
「どうした? トイレならあっちだぞ?」
「違いますよ。アルデさんにお話があって来ました」
「俺に?」
首を傾げるアルデにイトは意を決したように素直に訊く。
「アルデさんは、本当に兄さんを殺したんですか?」
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