第6話

 上官が殺される3日前、レベルを81にまで取り戻していた。幸いにもA班の後輩と仲間たちと共に<傀儡>二体を相手になんとか誰一人と倒れることなく倒しきることができた。


 <傀儡>を倒した結果レベルを一気に15アップした。他の隊員は3~7としか上がらなかったが、これは一度レベルを上限まで上げておくとたとえ病気やらで体調が崩してレベルが下がっても経験値の差が少なくなるので上げやすくなるのだとか。


「先輩、15もアップするなんて…私たちにもほしいぐらいですよ」


「一度でもレベルが上限まで上がると、体調が崩れたり病気したりでレベルが下がってもこうして<傀儡>を倒すなりすると経験値の差が少なくなるから上がりやすくなるんだ。だけど、実際は他の隊員と違って、レベルが減りやすいというデメリットも持ち合わせているんだ」


 鍛錬をおろそかにするとレベルが下がる。寝ていても睡眠不足になっても食事しなくてもレベルは常に並行して下がってしまう。だから、<討伐士>ではない職業の人はレベルが平均的に4~20なのはそのためだ。毎日訓練、朝昼晩よく食べよく寝ることを大事にしないとレベルを安定することができない。そこに<傀儡>討伐を含めるとレベルアップにつながるというわけだ。


「私たちも、いずれレベル80を超えるんでしょうか」


「超えれるさ。こうやって<傀儡>を討伐していけば、いずれ上限まで届くことができる」


「ふと思ったのですがレベルが上限に到達するとどうなるのですか…?」


 上限に到達すると……人工太陽により抹殺される。その真実を知っているのは<魔王>と個性を持った<傀儡>だけ。


「分からない。自分もレベル上限を目指しているが、どうしても上がらないんだ。上官は100が限界だといっている。でも、もし、100を超えることができるのだとしたら、おそらく自分たちが求める最強になるということだと思うんだ」


 立ち上がり、みんなに鼓舞する。


「さあ、残りの<傀儡>たちを倒すぞ!!」



 みんながいなくなったのを見て、隠し持っていたナイフで手首を切った。レベルを50消費して。せっかくレベル81になったのにレベル31になってしまうのは惜しいけど、<傀儡>がここまでいないとなると、この国にもう応援として呼ばれることはないだろうから。


 サワサワと木々が揺れ始める。ザワザワと誰かがささやきの声が聞こえてく。


『主よ、名を授け、そして童(わらわ)に力を与えよ――』


 現れたのは金髪の褐色の肌をした女だった。瞳は血のように赤い。爪は紫色に変色しており、身体は成人した人間そのもの。<討伐隊>と同じ服を着て現れた<傀儡>は初めて会話した。


「キミは…<傀儡>…なのか……?」


『主よ、命じてください』


 自分は与えられるものすべてを口にして与えた。


「キミの名は、メヌ。<討伐隊>における武器類は一切通じない。毒や炎、氷に強く、雷には惚れるほど好物。食事は人間と同じものを食べれる。能力は、ひっかいた対象を毒にして苦しめさせ殺すことができる。その眼で見た相手は<人間>であれば一時的に魅了することができる。身体能力は猿のように機敏でゴリラよりもパワーがある……以上だ」


 思い当たる部分すべて伝えた。


 するとメヌは深くお辞儀すると「最初のご命令を…」と志願するので「上官のもとに自分(魔王)が召喚したことを伝えるのだ」と伝えた。


 すると、メヌはうっとりとした表情で機敏よく猿のように木を登っていき姿を隠してしまった。メヌは言った通りに実行してくれるのだろうか。


 <傀儡>と対話しているところを何者かに見られたような気がした。おそらく隊員のだれかだろう。だけど、それ以上追及することはなかった。もし、隊員のだれかに見られたのしたら、それはそれで自分の隊員にやられるのであれば…本望なのかもしれない。



 あの夜、メヌはマスカットに瞬殺された。


 メヌは誤算していた。決して年寄りではないのだが若くして不治の病に侵され日に日にやつれ壊れていく。その実力は若いときよりも幼くなりそしてなによりもレベル50であるメヌでさえも弱々しいと思い込んでしまった要因でもあった。


 ゲホゲホと咳き込むたびに、唇から血がヨダレのように垂れる。その姿を見て、ああ、病人なんだなと安からに眠れという気持ちで『苦しいのね、今楽にしてあげる』と爪で射抜こうとしたがマスカットの信じられない動きと速さで瞬殺された。なぜ、あのときすぐに間合いを取らなかったのか逃げなかったのか魔王様に報告しに戻らなかったのか後悔した。だが、もう灰となって失った首からの下を見るなり、マスカットにあることを告げた。『お前は、もう長くはない。ともに朽ち果て――』と消えていった。


 それからすぐにマスカットは倒れ、後からやって来た討伐隊によって動けない身体のまま殺された。


 上司の報告でミラに病気で死亡したことを告げたが、マスカットが隠していた暗号からダイイングメッセージをよみとき、本当の敵は討伐隊にいるのだと確信した。



 上官が殺される日、あの日はマスカットと最後に会った日となった。マスカットに新しい魔王がA班の副リーダーであることと魔王で覚醒したことで傀儡を次々と召喚していることを伝えた。マスカットは「ずいぶんとおしゃべりだな」と寝床にいながら上官に嘲笑う。


「今日が最後でね」


 上官が意味深なことを告げ、最後の薬を置いていった。お互い死期が今日までなんだとどこかで感じ取っていた。


 部屋に戻った上官の元に傀儡が現れた。傀儡は上司によって運び込まれたものだったが、いつものように傀儡に帰るよう促した。ところが傀儡は命令違反し、上官に襲い掛かった。上官は「また、ですか…」と前にも同じことがあった様子で傀儡の心臓部を突き刺し壊した。そのとき腕の形状が刃物になっていることと、貫かれた傀儡があっという間に液状化したことから、上司はにんまりと笑みを浮かべながら室内に入った。


「これは上司ですか、今は仕事中なのでお引き取りを――」


 上司は討伐隊を前面に出し、抜刀させる。


「なんのつもりですか? 室内での抜刀は違反です」


 上官の警告にも無視し討伐隊は上官を囲んだ。


「上官あなたを<傀儡>とみて、反逆者としてあなたを死刑にします」


「死刑?」


「人間であるはずのあなたがなぜ、一撃で傀儡を壊したのか謎なのですよ。それに、どうして腕が刃物になっているのか説明していただけませんか」


 上官は隠すこともなく刃物となった腕を見せた。討伐隊は身を構える。


「説明もなにも、一人で戦えるよう体を改造しているのですよ。これは歴代の傀儡から技術を盗み、自分の腕を武器に変えたのです。もちろん、応援を呼ぶことだってできましたが、上官であるからには一人で戦える…これも討伐士を束ねるのですからそれ―――」


「言い訳は結構です。あなたがすでに傀儡であることと魔王の側近であったことはすでに部下から報告済みです」


「言い逃れも何も、本当のこと――」


「傀儡はよくしゃべりますね。それもプログラムされているのですかな」


 上官はフフフと笑みを浮かべた。


「なにがおかしいのですか」


「たしかに、よくおしゃべりですね。魔王が生まれてこうして世話をしている。嬉しいのかもしれませんね。暖かく見守りながらこうして長く世話をしてきたことに誇りと感動を覚えているのかもしれませんね」


「ずいぶんとおしゃべりだな」


 討伐士たちは上官を相手に襲い掛かった。ひとりひとり、レベルは大したことはない。だが、どうも動きが違う。まるで人間ではない傀儡に近いなにかだ。


「不思議でしょ。見た目は人間なのに動きは傀儡みたいだと」


「!!」


「それもそのはず。あなたの身体を研究し、私たちも人造人間を作り上げたのです。傀儡の技術と身体を人間と交わることで身体能力、異能力、技能すべてに恩恵と祝福が与えられることが判明しました。いまのあなたのように…」


「くっ!」


「苦戦しているのでしょう。それもそのはずです。人造人間…”人傀儡(ひとくぐつ)”と呼びましょうか。人間と違いレベルが上がらないという欠点があります。すなわち成長することがないため、新たな技能、耐性、身体能力の強化、新たな異能力と開花はありません。人間と違い成長できない。それだけが欠点ですが…傀儡であるあなたを倒すことぐらいなら一人でも倒せるという話です」


 その瞬間、上官の刃物の腕が消し飛んだ。サングラスをかけたスーツ姿の男の口から炎を吐いたのだ。火炎放射を口に内蔵した生物兵器。しかもロケットのように足に火口し飛ぶこともできる。宙を舞い炎を浴びせられたら周りにも影響を与えかねない。


「まるで火だるまみたいなハエだな」


 余裕を噛ませるが腕を消し去れ、そのうえ足場をドロドロに固められたらどうにもならない。サングラスをかけた赤いドレスの女が両手をドロドロに溶かしながら床をドロドロにしていく。しかも炎に耐性があるのか火炎放射器にビクともしない。


 空いた手で自身の両足を切り裂き、サングラスをかけたスーツの男の肩を借りて上司に近づく。渾身の一撃で接近するもそこに現れたマスカットに似た男の手によって無残にも殺されてしまった。


 マスカット似の男もまた、上司によって造られた人傀儡。マスカットの能力を最大限に使えるよう改造を加えたロボットのような外見をしていた。背中はむき出しの機械仕掛けとなっており、顔の部分はマスカットだがそれ以外はすべて人間の身体ではない。


「公言しなさい。今日から私がこの組織のボスだ」


「「「上司! 大上司! 上官代行! 上官様!!」」」


 大合唱で熱唱される。新たな上官が誕生したことから一同大喝采した。

 その様子を窓から見ていたメヌは、魔王様に報告しなければと急いで戻る。その道中を見張っていた人傀儡に襲われ戦闘に入るも。あらゆる攻撃を無効化され、さらに目による魅力さえも通じない。


(このままではらちがあかない)


 メヌは一旦距離を取り、時間かけて戻ることを選択。町中に移動し、建物で敵の位置を遮ろうとした。だが、町にいた他の人傀儡により、マスカットの自宅へとおびき出された結果、魔王に伝えることができずマスカットによって抹消されてしまった。


「今すぐ公言しなさい。マスカット、上官を殺したのは”主人公”であることと! そして、いまの討伐隊を解体し、新たな新組織”人傀儡”による討伐隊を結成します。我々は傀儡を排除し、人々に新たな生き方として”人傀儡”を提供するのです! これは、我々人類に与えられた新たな進化なのですから!!」


 夜の町で公言する上司。その日、町の人々は”人傀儡”として無理やり改造されていく。元討伐隊の人たちも、眠っているうちに改造され、”人間”が少しずつ減っていった。


 マスカットが残したダイイングメッセージからミラは、信頼する仲間を連れてとある大陸へと渡っていった。ミラと一部の関係者だけ”人傀儡”にはならなかったが、この脅威がミラ、主人公を苦しめることとなるとは誰も知らない事であった。

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