第3話
「最近、妙に<傀儡>が減ったと思わないかい」
後輩が気になることを言いだした。
「減った?」
「実は私のチームの先輩が言っていたんだけど、大国へ派遣して<傀儡>を倒したんだけど聞いていたほど数はいなくて、しかも弱かったって。一発で倒せるほどまだ生まれたばかりの小鹿みたいだったって」
先代の<魔王>の力が弱くなっている?
「今の<傀儡>たちは前回の<魔王>が残していったものだって先輩たちが言ってた。今生まれてきている者は前回の<魔王>が死ぬ直前に産ませたもので、<魔王>が死んでからは<傀儡>が新たに生まれたという報告はないってさ」
つまり、<魔王>の力が弱まっているということだ。このままいけば<傀儡>はいなくなるということだ。だけど、もし<傀儡>が生成しなかったら、この世界の認知はどうなるんだろうか。
「…だとしたらこのまま討伐していって<傀儡>を全滅させたら、俺達はどうなるんだろうな」
「あー…たしかにー…」
「俺達は<傀儡>がいるから<討伐士>として働き、<傀儡>が悪さするからそれを懲らしめるために俺達がいるわけだ。だけど、<傀儡>がこのままいなくなったら、俺達の存在意義が無くなるんじゃないか?」
「うわぁ……そうなったら私達失業者じゃん! やだよぉ~!」
<傀儡>は魔王が生み出している…なら、今の自分が<傀儡>を召喚しなければこのまま<討伐隊>を解散に追い込むことができるんじゃないだろうか。
「口を動かすのがあなたたちの仕事ですか?」
「ゲッ!? 上官だ! それでは失礼します!!」
敬礼し逃げるようにして去っていった。
自分は上官を見て、敬礼しこの場を去ろうとした。そのとき耳打ちで
『<傀儡>はいなくなろうとも、<討伐士(わたしたち)>はいなくなることはありません。なぜなら<傀儡>は魔王の因子です。<魔王>がいなくても自然と生まれるのです。すべては<人工太陽>の力によって生まれているのです』と、自分は振り返った。なぜそんなことを自分に伝えようとするのかわからなかったからだ。
「あなたから見れば私は、あなたの上官です。ですが、これは仮初の姿……」
上官は膝を曲げ腰を下ろし、敬意を示した。
「私は<先々代の魔王>の最後の<傀儡>。そして、<討伐隊>を指揮し管理する。すなわち、あなたが追い求めるような<討伐隊>の解散は起こりえることはありません」
何を言っているんだ。<先々代の魔王>? の<傀儡>がどうして、<討伐隊>を指揮しているんだ。それに、<魔王>が殺されるのは<討伐士>が原因のはず…。
「……今回の<魔王>にとって知る必要はありません。これは<先々代の魔王>が決めた法律(定め)です。私はあくまで統括するだけのこと。人間に認知される必要はありませんし、なによりも人工太陽(おぞましい存在)の対象にも含まれていません。知ってましたか? 人工太陽はあくまで人間を管理するための代物です。人間が悪さしたときに罰を与えると子供に教育を施していますが、実際は人間がこの世界の真実を見つけないことがあの機械(人工太陽)の仕事です。もっぱらあの機械もこの世界を作った<最初の魔王>の遺物ですが……それよりも<魔王>として覚醒しているのですから、<傀儡>を召喚してもらえませんかね。いま世界中で1割まで減らしているのです。このままいけば<傀儡>は希少価値として法律を作り替えなくてはいけなくなります。……今日中に作りなさい。さもなければ、あなたが<魔王>だって公言しますよ」
脅しだ。べらべらとなにかも嘘偽りなく話している。直感じゃない。<魔王>だからこそ相手の真理がわかっているんだ。<先々代の魔王>が残した<傀儡>がわざわざ忠告しに来て、しかも<傀儡>を召喚しなければ、このまま公言すると言ってきた。これは、横暴すぎではないか。
「…ひとつ、確認したい」
「手短めにね。私も暇ではないのですよ」
「暇…<傀儡>のくせに暇じゃないと…」
襟をつかみ上げられそのまま地面へと叩きつけられた。背中に強い衝撃が走った。胸へ空気圧が押し退けられるかのような鋭い痛み。それと同時にボキと鈍い音がして蒼ざめる。
「あなた、<傀儡(かれら)>のことを道具だと思っていませんか?」
上官は見下ろしながら罵る。
「<傀儡>は<魔王>の分身体であり、魂を捧げ新たな肉体として生まれ変わる。それが、<道具>だと思うのであれば、私は今すぐここであなたを殺します」
「ぐ……」
「痛みで声も張り上げれませんか? <討伐士>は隊員同士の殺し合いは禁止していますが、この場合は上官へ歯向かったという罰則で占めることができます」
上官は本気だ。本気で自分を殺しに来ている。逆らえばこのまま何も成し遂げられないまま終わってしまう……嘘偽りがバレるだろうからここは本音を言うべきか。
「し、……失礼です……が……じょ……かん。わ……――」
後頭部に向かって拳を振り下ろした。殴られたのだ。殴られた衝撃で真っ暗になったが、上官の忠告だけが死ぬ間際まで耳に残った。
『<魔王>として務めを果たせ!』
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