シンの奇跡
第1話 シンの奇跡
小さな奇跡が起きるとき、そこには必ずと言っていいほど少年がいた。少年の名はシン。この物語にとって重要でありいなくては欠かせない人だ。この物語は宿命を背負った少年が学校へ進学してからのお話である。
某魔法学校へ進学を果たしたシンは親友のユウとともに訪れていた。名だたる魔法使いたちが卒業したかの有名な学校で、いかなる事情がある子供達でも招き入れる懐が篤いところである。
シンたちがこの学校を選んだ理由は二つあった。それはシンが少なく幼少のころから”妖精”と言われる小さな小人のような生物が見えているということだ。周りからは不気味がられユウを除いて友達は誰一人として作ることはできなかった。もしいたとしてもそれはシンにとって本当の友達というのかはユウと本人しか知らないところだ。もう一つの理由は実家を継ぐという宿命だ。兄と姉の三兄弟の次男にあたる。待望されていた兄がよそで就職してしまったために次男へ家督を継げという親から指示されたのだ。兄への期待が弟へ向けられた時、シンはなにかを失ったような苦しみに襲われた。シンは自分の元から勝手にいなくなりそのうえ家督を継げなくてはならないという使命を与えられた苦しみから兄を憎むようになった。兄を恨むことで親や家族の期待から逸らすために止む無くシンはそう思うことにしたのだ。宿命を背負い、シンは進学校がひとつに絞られた結果、自由という選択肢は失い、代わりに”魔法学校”で一般常識ぐらいは覚えろという過酷な試練を与えられることとなった。
シンは幼いがらもその宿命を背負う覚悟でここまで来たのだ。そして、ユウもまた同じ宿命を背負い、ここに来ていたのだ。
ユウはシンと幼なじみでどこへ行こうとも一緒だった。同じ地区に住み同じ学校へ通い、同じ帰り道で帰る。そんな日常を過ごし、親から家督の相談を受けたときには真っ正直に引き受け入れる。ユウはシンと違い家督を否定することはなく、むしろ楽しく受け入れていた。ユウの兄弟はおらず、一人っ子。そのうえ、遊び相手は同年齢だったシンとその兄と遊ぶことだった。兄はユウのことを実の弟のように接し話す。ユウもまた実の兄のように接していた。その関係性もあってかユウはシンのことを人一倍に弟みたいに守りたいと思うようになった。兄の代わりに弟を守ってくれという言いつけを守って…そしてこの場にいる。
「えー…本日は――」
事務長から直々の長話を聞かされる。スーツ姿でぬかるんだ土の上に立たされ、靴は泥まみれとなっていた。事務長からの暖かい歓迎は次第へとエスカレートしていき、学校中に張り巡らされていたビラを片手に見せながらこう言うのであった。
「我が校に行方不明が出ておりまして、その辺に埋まっていないことを――」
酔っぱらっているのかテンションだけでやっているのか正常じゃない。その姿を見ても周りからはヤジが飛ぶだけで誰も止めようとはしなかった。
「酔っているのか! オカシイぞ!」
言わざる得ない。口から漏れ出すツッコミに同じく他の人たちも声を上げた。だけどそれは余興にすぎず、事務長は楽し気に演説を終えると幸せそうな顔をして降りて行った。
それから間もなくして、新入生たちはサークルやら入るために大勢の先輩たちと触れ合いながら探していた。「本校ではサークルに入らない者は非学生」であると謳っているのだ。シンとユウはサークルを探すため学校内を歩いていると、ふとシンはなにか違和感を覚えたのか森林の前に立ち止った。
「どうしたのシン」
「いやーなんか気になってさー」
森の奥からなにやら聞こえてくるようだ。シンはその奥へと入ろうとし、ユウはそれを止めに入る。
「実験場の看板もあるし、行かない方がいいって」
「だけどさー。もし、もしかしてだよ。事務長が言っていた通りになにかあったら…さあ」
不穏な発言にシンはぐっとこらえた。ユウはシンのいうことに一理あると思った。ユウはこの道を通ろうと言った。シンは不安げな気持ちのまま、「もしかして俺のせい?」と聞き返すと「気になるのなら確かめにいかなくちゃ」と先陣切っていった。この教えは兄からのもので、『一度でも気になったら引き返さず調べて後で後悔しないように』って言われたのを思い出していたから。
そうして奥へ進むと木々が払いのけるようにして一か所にだけ山になる様に埋めた後があった。そこにペットの墓のように突き刺さる看板があった。
『トウカ』と。
このとき、学内に張り巡らされていたビラを思い出した。行方不明届けに出されていた”トウカ”という少女のことだ。ペットの墓のように突き刺さった埋められた山に、二人は騒然とした。
警察と学校関係者を呼び、この場を見せた。
「こ、ここです」
現場を見た警察の人は「なんじゃこら! ペットの墓みたいに」とスコップを持ちさっそく掘ろうとする人や「事務! てめェ人が埋まっているかなんだろうか言っていたな!」と襟首をつかまれ、事務長が「ジョークだよ!」と撤回を求めていたりと辺りは騒然としていた。
スコップを掘っているとそこに一人の眼鏡をかけたスキンヘットの男が現れた。
「ちょっと待ちなさい!」
「か、カサミ先生!」
白衣を纏った男に向かって事務員が叫んだ。カサミ先生は自前のスコップをもって警察の人よりも早く、埋まっているであろうものを引き当てた。その瞬間、「おんぎゃあああ!!」と赤子の悲鳴のようなものが辺り一面に轟かさせた。
耳を塞ぎ、間一髪逃れた者もいたが多くの人々は出遅れ耳から血を吹き出し、倒れる人が続出した。カサミ先生が引き当てたものはまだ小さくて弱々しいマンドラゴラだった。まだ生まれて間もないのか悲壮感を漂わせるその顔つきに「残念なお知らせだな」とため息をついていた。
そこに「カサミ先生。もう、掘り出したんですか」とひょっこりと茂みから出てきたのは行方不明として届け出されていたトウカだった。
「遅いよ。早くしないと赤の他人に掘り起こされそうだったもん」
「だからといって、そこは先生が止めなくちゃ」
二人の会話に唖然とする警察の人は「えーと、トウカさんで…間違いはないですか?」の問いかけに「そーよ。本人よ。そのビラ…まったく」とあきれたような顔をしてビラを破ってしまった。
それを見ていたシンはトウカに尋ねた。
「いいんですか」
「親がね過保護だから。数日連絡していないだけなのに、もう大パニック。君がシンくんとユウくんだね。カサミ先生から聞いているよ。さあ、詳しいことは教室で話しましょう」
そう言って、二人は教室があるであろう方向へ行くのであった。そのあとを追いかけるシンとユウは騒動と壮絶な現場にどうしたらいいのかわからず、事務員と学校の関係者やらがなんとかする様子なので、この場をさっさと移動するのであった。
妖精が見えるというのはにわか信じられない話だ。この世に妖精がいるという文言は誰でも知っていることだ。だけどその存在自体を明確に見たという人はおらず、むしろその存在こそが人が生み出した幻想でしかないという結論に至る。
シンの存在はこの魔法学系では重要たる人物となりうる。もし、妖精がいることが事実であるとすれば、お金を払ってまでも誘拐してまでも手に入れようとする輩はいるだろう。その前にカサミ先生はシンくんの存在の意義を確かめることとトウカの実験体にならないようにするために二つの決まり事を立てる。
トウカはいささかシンくんの存在は非常に功績となりえる人物だと考えている。もし、シンくんが本物だとしたら大金をはたいてまでも手に入れようとするだろう。その前によーく観察し、シンくんを盗られないように守らなくてはならない。
そして、カサミ先生もシンくんの力を狙っている。それは遭ってすぐにわかることだ。シンくんにどんな理由を付けて接しようとする輩は必ずと言っていいほどシンくんのためにはならない事ばかりだ。兄もそんなことを言っていた。ぼくがシンくんを守るのが務めだ。
「妖精とはいいつつも、この世に存在するというのは多くの人たちは認めない。誰もその存在を知らないしなによりも知る術さえない。いまこうして本や映像、玩具として数多くの存在を生み出されているがその存在自体を知らないためにいくらでも想像で賄えてしまう。シンは、このことをどう思っている?」
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