第4話 みなさん
私の名はミホシ。魔女の家もとい見習い魔女たちが寮として使っている元民宿の家で居候しています。魔女学校に通いながら一人前の魔女になるために通学しているのですが、ここにいる人たちはみなさん、個性豊かです。個性豊かすぎて魔女学校が異常すぎるというのはよく見る感想です。統制を図った魔女学校は、個人を殺しているといって過言ではありません。現代社会のように個人を捨て、周りに合わせようとしてきますが、私たちの寮はそんな統制の力も及ばず、自由にしています。ですので、今回は魔女の家で暮らしている先輩たちのご紹介としましょうか。
「お、朝晩早いねー」
日がまだ登らない朝方。外へランニングに出かける人はレノフ先輩です。冬でも半袖半パンの体力自慢女子です。赤茶色の髪色が特徴で、薄青色の瞳をしています。太陽の光が苦手なのと車のライトが苦手なこともあり、外へ出向く時はサングラスを着用して出て行きます。学校では陸上選手として大会に出てほしいそうなんですが、レノフ先輩はそんな気持ちはないそうです。
「もうレノフさんは出かけて行ったのね」
「あ、女将さんおはようございます」
「おはよう、ミホシさんも朝早いのね」
「たまたまです」
紅色の髪が特徴の女将さんです。普段着として和風の着物を着用しています。自分で編んで作っているのだとか。それなりの設備をそろえたものが離れ家においてあるそうです。女将さんはここの寮長であり、みんなの母のような存在なのです。料理は選択といったものをこなし、掃除もしています。代わりばんこで私たちが当番としてやるのですが、女将さんの行動力は誰よりも素早く計画的で、本来なら一日かかりそうなことを一時間で済ましてしまう化け物でもあります。そんな女将さんは今朝も早いようで
「これから着物を売りに行くのよ、ミホシさんもどうかしら」
作った着物を売ることで生計を立てています。
「すみません。今日は、デンジャさんと一緒に買い物の手伝いを頼まれているので」
「そうでしたのね。わかったわ。それじゃ、行ってきます」
「いってらっしゃいませ~」
女将さんは今日も朝早い。私たちが起きる前よりも出かけるのだ。レノフ先輩とはいい勝負なのかもしれない。レノフ先輩も女将さんを見習って朝早く起きるようになったわけだそうですから。
「ごめん。あと少し待って」
「わかった。外で待っています」
デンジャは慌てて部屋の片づけに入っていった。
彼女の名はデンジャ先輩。昆布やらワカメやら海藻類が頭からかぶった通うな髪型をしています。かすかに潮風の香りがします。海辺にいるような感覚に襲われます。デンジャ先輩はブドウ色の髪をしています。瞳はオッドアイで普段からカラーコンタクトレンズで隠しています。本来の色は実は女将さん以外誰も知らないのです。どんな色をしているのかどんな能力を持っているのか誰も知りません。そんなデンジャ先輩は傀儡使いとして名が高いです。女将さんの頼み事で、複数人揃えないといけないときは人形たちを使って一緒に仕事をこなします。人形はデンジャ先輩の特製もあれば有名ブランドから買いに行くほどです。毎月人形が入れ替わっている点において、元居た人形たちはどこへいったのかはデンジャしか知りません。
「お待たせ、いきましょう」
私たちは朝早くから出かけるのは実はデンジャが気に入りの人形を買いに出かけるのです。私がいないときはレノフ先輩やセラノ先輩たちと出かけるのですが、レノフ先輩はバイトの掛け持ちやランニングを趣味にしているので時間があわず、セラノ先輩はもうすぐテスト期間に入るため、時間があわなくなり、代わりに私が一緒に行くようになりました。
いつものバス停に行くと、すでに老婆が待っていたかのようにいました。彼女の名はツグミさんです。デンジャ先輩がツグミさんを引き留めたことから知り合うようになったそうです。
「あれま、今日はかわいこちゃんと一緒かい」
「後輩のミホシさんです」
「はじめまして」
「こちらこそはじめましてね」
バス停でバスを待つ間、デンジャ先輩はツグミさんと話すのが日課になったそうだ。ツグミさんは女将さんと昔喧嘩するほど仲が良かったそうで、魔女学校ではいまでも伝説が残るほどの超有名人だそうです。年齢はもう六百歳を超えているそうですが、まだまだ七十代ほどしか見えません。
「今日はね、デパートへ行くの。ちょうどそこにある媚薬が結構いいのよね。ちなみに開発者は私なのですけどもね」
と愉快そうに話している。媚薬や長寿命の研究を携わり寿命の開発に貢献したとかでデンジャ先輩から聞いたときは驚愕したものです。今は孫たちに会社を任せて、寿命ギネスに挑戦中だとか。ちなみに寿命ギネスは千百九歳が最高だそうです。
「すごい!」
「実は、人形たちなんですが…」
デンジャ先輩はツグミさんから人形たちを長く使えないかどうか検討しているようだ。人間の寿命を延ばす研究に携わった人から聞くことは大変貴重なことであり、すでにご隠居し姿をくらましたであろう人がいまこの場にいる。そんな貴重なことをデンジャは毎日用もないときにここに来ることはすごい事なのかもしれない。
あ、バスが来たようだ。さっそく中に入ると、二人は無言となった。やはりというか、魔女学校の生活か仕来たりか周りの空気を読むのか静かになる。先ほどまで話しが途切れなかった会話が急に切断するかのようにしなくなった。魔女学校はやっぱり空気が重い。たとえ、バスの中にいても魔女学校の生徒がいればたちまちこの空気に埋もれてしまう。
デパートにつくなり、さっそく六階のコーナーにいった。そこには有名人が作った人形やおもちゃなど置かれている。中には取材で訪れた有名人もいる。デンジャ先輩はその中に混じっていく。
デンジャは学校の中でも有名人でもある。普段から会話は少ないが、操る傀儡の腕は誰よりも優秀で、同時に十以上操ることから公式の大会に出ないかとメディアから言われたぐらいだ。地元の大会や学校の大会には出場するものの公式や世界の大会には出場する気はない。それはなぜなのかを前きいたことがある。
『あいつらはすぐに壊しにかかる』と言っていた。自分が大事にしているものを容赦なく他人だからこそ壊すそんな行為するのが嫌で参加しないようだ。地元や学校では他人のものを壊す行為はよっぽどのことがない限りすることはない。それはかつてデンジャ先輩のもう一つの顔を目の当たりにした人たちから発したものだそうだ。
さてと、その間どうしたものか。特にやることもないのだけども…。
「一人で寂しいのかい。よかったらお茶でもしていきませんか」
一人寂しく空いた四つの席を囲むように座っている一人の老人がいた。
「ツグミさん」
「おばちゃんで良ければ、話しに乗るわよ」
「――ミホシさんは、魔女になって何をするのか目標はあるのかしら」
将来の目標の話になって私は恐縮してしまった。すごい人が目の前にいるのにデンジャ先輩のように昔からの知り合いみたいに話せない。
「…わたし……いえ、とくには……」
「そういうこともあるわね。親に勧められたルートを行きたくなくて魔女学校に通う生徒もいたわ」
「そう、なんですか」
「あなたがよく知る女将さんよ」
「え! あの女将さんが!?」
「あの人はね、親に決められたルート…公務員になりたくなかったのよ。それで魔術や魔法関係の学校に行ったこともなかったのに独学で身につけて魔女学校に受かったものだから当時私は、周りから尊敬されている偉大なる魔法使いだった。自分で言うのもなんだけど、メディアやら校長が頭を下げるほどすごかったのよ。当時の研究はすでに始まっていた。一年延ばす薬はとうに完成していたこともあって、スキャンダルは日常茶飯事だった。そこに、魔法のことも魔術のことも何も知らない人がやって来た。当時の私は見下していたわ。凡人が私の前に立つなど、なんという愚か者か。そうやって何十人と退学へ追いやっていた」
「そんなことをしていたんですか!?」
思わずドン引きした。
「当時の話よ。いまは、そんなことをすれば世間的大問題だわ。それで、女将さんも退学へ追い込もうとしたのよ。けれど、私の前に立つたびに『あんたも私の舎弟にしてやるわ!』ってドヤ顔していたのよ。今思えばそんなこと出来っこないって言ってやったのよ。だけど、その度に私の前に立っては『俺が一番だ!』とか『俺と勝負しろ!』とか『負けられない。負けたら俺の人生は週末だ』とか言っていたわね。それで一度わざと負けたこともあったわね。そうしたら『人生というのは勝負だ。あんたが負けようと負けまいと、生きている限り勝負は続く。死ぬまでね』とか言っていたわね。負けず嫌いだった。だからか気があったのかね。何かしらと勝負を挑み、勝ったり負けたり…そして卒業するころには共に一戦を凌駕するほどの仲になっていたわ」
ツグミさんと話している壮大に聞こえてくる。本当かどうかわからないけど、もし本当なら英雄の日常を目の当たりにしているような光景なのかもしれない。
「遅くなったごめーん! あれ、ツグミさん。お話していたの?」
「うん」
「混ぜて」
「ごめんなさい。そろそろ時間だから。またバス停でね」
「分かりました」
ツグミさんを見送ったあと、私に向かってデンジャ先輩が嬉しそうに聞いてきた。
「どうだった!」
「どうだったって…」
「ツグミさんすごいよね! 本に出せるほどすごいよね。エピソードを聞いていると映画みたいで毎日楽しいんだよね」
デンジャ先輩が心許せるほどツグミさんを信頼している。そのうえ、とても楽しそうにしている。普段ならこんな姿見たこともないのに。ほんとうにツグミさんのことが好きなんだなと思った。
寮に帰宅すると、クレア先輩がいた。
「よお、帰宅か」
「クレア先輩、なんですかそれ」
牛を担いで調理室へ行こうとしているところだった。
「牛小屋から逃げ出したんで止めたら。死んでしまって。それでもらってきた」
「もらってきたって…」
相変わらずの馬鹿力だ。牛を一発でノックアウトするなんて親に行ったらどんな顔をするのやら。想像したくないなぁ。きっと帰って来いと言われそうだ。
「ゲッ…ごめん、先に用事済ませてくるね」
クレア先輩を見るなり、寮とは違う方向へ走って行ってしまった。おそらくクレア先輩から人形ごと部屋を壊されたことから見るのも嫌みたいだ。
「今日はクレア先輩が食事当番ですか」
「それとレノフとだな。レノフは野菜を買いに出かけている。もうじき帰ってくる頃だろう」
「それじゃ、レポートを書くため部屋にいますね」
「オーケー」
クレア先輩はオレンジ色の髪をしています。ポニーテールが特徴です。基本、洋服の上からエプロン姿でいることが多く、外にいるときは斧を背負っています。周りから力仕事だけは人十倍以上と言われています。その力ゆえか力加減ができずデンジャ先輩の部屋や人形たちを壊したことがあります。デンジャ先輩から嫌われています。ノルン先輩からは遊び仲間として一緒に行動することが多いですが、眠そうでだらけているときのノルン先輩とは気が合ないのかレノフ先輩と一緒に行動することが多いです。
「ドーノ先輩…」
「今帰ったのですね。あなた宛てに贈り物が届けてあったから預かっていたです。はいこれ」
相手はツグミさんからだった。なんだろうか。
「お相手さんとはどう知り合ったのかは存じ上げないですが、あなたの周りはやはり奇妙ですね。ほんとう解明したいくらいですね」
少し嫌味を投げてきた。ドーノ先輩はなんか好きになれない。ドーノ先輩は黒茶色の髪が特徴で毎日カラーコンタクトレンズをしている。色合いは毎日変わるから朝起きたとき、びっくりするのはもう慣れた。マスク姿でいることも多く、口を見るのは食事か風呂に入るくらいだ。呼吸器官が悪くマスクなしだと咳き込むとのことだ。研究熱心で料理苦手屋さん。なにかと調合しては後輩たちや仲間たちに味見と称して毒を盛る。その姿から毒物君と言われている。
「さてと、なにが入っているのやら」
ツグミさんが送ってきたものの中身はどうやら、お菓子のようだった。それも寿命を延ばすコレクション。二十枚ほど入ったクッキーだった。二十年の寿命を延ばすお菓子とは…すごいんだろうけど…なんだろうねー。とりあえず、ノルンに見つからないように隠さなければ。まあ、隠すとすれば女将さんの実家だろうか。女将さんの家には女将さん以外立ち寄らない決まりになっている。このことを女将さんにいえば匿ってくれるのだろうけど、果たして…いや、ツグミさんからの贈り物と言ったらどんな顔をするのだろうか…いや想像よりもまずは行動だな。さて、遅くなったけど女将さんに聞いて見るかな。
外へ出るとばったりとセラノ先輩とノルン先輩と出くわした。
「それお菓子か~。ボクによこせ~」
「ダメです! これは女将さんと私への贈り物なんです。ですから上げれません」
「ケチ~」
ノルン先輩は欲しそうな眼差しで見てくる。紫色の髪に赤色の瞳が特徴の女の人だ。年齢は三歳下なのだが、飛び級で頭がいいことからいま先輩にいる。女将さんに届けると言うと、欲しそうにしながらも顔を真っ青にしている辺り、女将さんの実家に危害を加えた一件から恐れているようだ。
「今から持っていくの?」
「まあ、早い方がいいかなって」
「わかったわ。私も女将さんに用事があるし、一緒に行くね」
「ありがとうございます。セラノ先輩」
「それじゃ、ノルンはドーノを呼んできて。今日はお肉パーティだってクレアが言っていたから」
「了解~」
女将さんの実家に行く途中、女将さんとばったりと出会った。
持っていたお菓子を見せて「これ、女将さんの家に匿ってほしいのです」と見せた。すると女将さんの顔は強ばり「あの人、またこんなものを…ミホシさんこれ、あなたのものなのでは?」と顔色を変えて聞いてきた。自室に置いておくとクレア先輩やノルン先輩やドーノ先輩にとられてしまうというと、「これは受け取れないんわね。私の家はあくまで、仕事部屋であって貴重品を預ける銀行でもないのよ。だから、これはあなたが守るものよ」そう言って突き放した。
私はこのクッキーを奪われるのであれば、食べるべきなのだろうかと思うのだが、「ご家族に送ってみては? そうすれば、無理に食べなくてもいいのよ」とセラノ先輩が提案をしてきた。「それいいかも」と返事をし、さっそく家へと奥ってもらう手続きをするため一日だけ女将さんの仕事場に保管してもらえた。
寮に帰るなり、女将さんは豹変した。
「あんたたち、なにしているの!!」
セラノ先輩は私の背中を押して「外でカフェでも行きましょう。朝までね」と言ってそっと外へ。すると、中から叫び声と泣き声が響いてきた。恐ろしい。中でいったい何があったのか。怒号混じりにドタバタと慌てふためく音も聞こえてくる。
一階にいたデンジャ先輩はセラノ先輩にこう告げる。
「私も緊急脱出します。クレア先輩がやらかしました。台所は血の海です」
セラノ先輩は嫌なことが的中したといっていた。
「さあ、生きましょう。私たちは一日でも多く生き延びましょう」
そうして、レポートとともにカフェで一晩を過ごしました。
後日、クレア先輩は「二度と、生肉を持ちません」と反省の弁を言っていた。台所はしばらくの間使えなくないということで、クレア先輩がみんなの代わりに食事を二週間奢らせる罰を受けることになったそうです。
なにしたんだか…白い物体があちこちに蠢いている辺り……想像したくない。レノフ先輩が急ごしらえにガムテープなどで蓋を閉め、冷蔵庫に会ったものは避難先として学校の調理場へと運んでいった。
「かわいそうにクレア先輩は寄生虫に愛されているのよ。たとえ調理されようとも焼かれようとも、クレア先輩がいるだけで元気をもらって奴らは集まろうとするのよ。これは宿命で運命。そして呪いである。恐ろしい、おぞましい、すさまじい」
デンジャ先輩が嫌味をこめて去っていった。
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