第3話 呪いし者々

 一晩宿を開けてくれた。二人寝るには狭すぎる。宿屋の主にもう一つ部屋はないかと尋ねたが、あいにく敵の襲撃により数日前から寝られる部屋はここしかないのだという。襲撃した敵というのは、主は口を固く閉じ素直に教えてくれなかった。そのことをマキアに言ったが「外で寝るよりまし」だといい退けた。男と女がひとつ屋根の下にいるのは少し落ち着かないカルマであった。

 カルマが外へ出ていく音を気づいていた。マキアはベッドから出て空になった薬莢にルーン文字を刻みながらポケットに入っていた試験官から粉末をまぶせながら丁重に手入れした。試験官が地面に落下する。バリンっと音を立てて砂のように消えていく。弾はあと二発しか残っていない。超常の産物で第三階層で手に入れた貴重な戦力だったが、お別れも時期に訪れるのであろう。

「お前たちもよく働いてくれたな」

 安らかに眠れとも言わんばかりに薬莢をさすり慰めた。弾を胸のポケットと足首のポケットの中に忍び込ませ、宿を出た。

 宿の外ではカルマが弁当を抱えて待っていた。

「朝飯だってさ」

 マキアに弁当を差し出した。中身は質素なまかないだった。

「これが弁当? 冷たいご飯に味がしないスープ…極めつけは焼いていない生の肉……食えない」

 不満げに弁当をカルマに返却する。

「仕方がないさ、残党狩りで食い物はストップらしい」

 数日前に現れた敵を打ちのめすために資材や食材が不足しているらしい。補給も留まって戦士たちの休息もままならない。

「敵…なんなのか聞いた?」

「特徴からして”蟲集(むしあつめ)”の仕業だ」

「”蟲集”!?」

 マキアは戸惑いを見せた。

 ”蟲集”は名前の通り蟲を集める原生生物のことだ。ハエのような姿をしている。ゴミダメのような汚物の臭いを発しているから気づくことはできる。スピードは速く目では負いきれない。無数の虫を従えそれを使って食物や資材を食い漁り災害を生む。火が弱点だが、本体に攻撃できた試しがない。

「俺は降りる。先を急ぐ」

「でしょうね。私も賛成」

 二人は賛同し、この問題に首を突っ込まないことにした。

「待たれよ!!」

 そこに小高い男の声がした。

 屋根の上に何かがいた。マキアは指を差した。そして二人は絶句した。

「ぜ……全裸だ……」

「はだ……か……?」

 男が服を着ることもなく最低限の股間を隠す布さえもつけない男がいた。そいつは高らかにこういうのである。

「弱き者たちを救うではないか。ここは第一階層…都市も近い。ここで食い止めなければ滅びの歌は広がるばかりだ」

 男が言っていることは間違ってはいない。だけど同情するわけにもいかない。

「お前は何者だ!」

 男は太陽を背に名乗った。

「我が名はランゼ。服を着ぬ男とは……俺のことだ」

 カッコよく決めたかったのだろうが、屋根の上にのじのぼる少女が男の頭を思いっ切り叩いて連れ去っていった。

「なんだったのだろうか」

「さーな。悪い夢だ」

 二人は背を向け早々に町を出た。ここは時期に崩落する。壊滅するのだ。もう残っている住民は宿屋の数名と商人、数少ない戦士のみ。”蟲集”が現れたとき”滅びの歌が奏でる”合図なのだ。

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