単発
第―話 黒い花
黒い花が一面咲き乱れた地平線の彼方。目覚めたときにはその少年は黒く染まっていた。漆黒の闇かそれとも奈落の底の黒さか。されどその黒さを白へと変えることは如何なる理由でも変わることはないだろう。
「黒い花が咲いたって」
「えーうっそー!」
「本当だって……いこ」
少年を見過ごすかのように少女たちは廊下へ走っていった。少年は生まれてこの方暗闇に閉ざされたまま。目が見えないというわけではなく、見ようとしないのだ。授業中であれ給食の時間、放課後でも少年は俯いたままでなにも見ようとはしない。
「○○さん、そろそろ下校の時間よ」
担任の先生がうつむいたままの少年を気遣って話しかけてくれたようだ。しかし、少年は耳を傾けない。先生がいようが大人がいようが少年に対話は通じなかった。
「せんせー黒い花が咲いたって」
先生は顔を上げ、周りを見渡した。聞こえたであろう声に視線を泳がすがそこには声の主はおらず、少年と先生の二人しかいない。おかしいなと思い、少年の方に振り向くと「黒い花が咲いたって」とピキピキと音をたて胸もとを裂きながら茎が飛び出し、すぐに真っ黒い花びらを咲かせた。先生は「きゃあああ」と悲鳴を上げ、黒い花をもぎ取って床に投げ捨てた。
すると教室のどこからともなく「黒い花から逃げられないよ」と声がした。「誰かのいたずら!?」と怒号を上げるも声の主はどこにも見当たらない。教室から出ても人気は全くしない。
「なん…なんよ……」
少年はゆっくりと顔を上げていた。両目は真っ黒いガムテープのようなものを張り見えないようにされていた。そして、少年が初めて口を開いた。
「黒い花から逃げられないよ」
その瞬間、先生の胸から黒い花が生え、咲き乱れた。苗床を先生の身体にするかのように服を次から次へと引き裂き黒い花が開いていった。先生は取り乱し花を抜くがそのスピードはすさまじく、身体から足、手、そして顔へと覆い包まれた。
先生はその場に倒れた。そして「黒い花から逃げられないよ」とどこからともなく聞こえた。
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