傀儡
第1話 傀儡
この世界には<討伐隊>と呼ばれる組織が支配していた。<討伐隊>に属する者を<討伐士>と呼び、<討伐士>はこの世界の人々に危害や災害を加える存在<傀儡(かいらい)>を殺すことを目的に活動しているポピュラーな職でもあった。<討伐士>になれば生涯安泰になれる…それは老人でも子供でも誰でも知りえる恩恵と祝福が与えられた職業だった。
<討伐士>の職に就くのに3年、一流になるために2年が必要だった。多くの<傀儡>を倒し、人々のために残業をして多くの人たちに貢献すべく隣の大国まで足を運んだほどだ。人々に感謝されそれが功績として三流、二流、一流と昇進していくシステムのために休日を返還してまで働き続け、ようやく<討伐士>になって6年と歳月はかかったが、一流として認められるようになった。
安定した職を手に入れた<主人公>は、安泰とした生活と将来お付き合いになるであろう彼女を手に入れ、ようやく平穏な日々を過ごせると思った――だが運命とはちっぽけな幸福であろうとも簡単にもぎ取っていくのである。
この世界はレベルで管理され、100が限界で101を超えることはなく、たとえ超えられたとしても異常(エラー)として執行官によって肉体もろうとも消滅してしまう。執行官は空に浮かぶ人工太陽で日々人々を監視している。レベルを101超えた者は容赦なく殺し、そして歴史にも知識にも残さないために消しているのである。この情報を手に入れたのはつい最近、同僚がレベル101を超えた際に消滅したことが起因である。
同僚はレベル100だった。全能力値は誰よりも優秀で負ける事すらないほど最強だった。だがこの世界ではそんな人物はいらないというものはなく、彼は人々から感謝され自分よりも先に一流として<討伐隊>のリーダーとして主任していた。レベル100を超えたのは、<傀儡>を殺したことによりレベルが1つ上がったことにあった。
「んだよ…っこれ!」
同僚が後輩である自分に言ってきた。レベル100を超えた。こんなイレギュラーなことは一度たりともなかった。ましてや歴史上でも知識人でもそんな事実はどこにもなく、100を超えた者はどんなことになるのかさえ知らなかった。
「なあ、<主人公>! 俺…いった――い!!」
光線のようなものが人工太陽から発射された。目の前にいたであろう同僚が一瞬にして消し炭にされてしまったのだ。開いた口が塞がらなかった。愉快に話していたであろう同僚が目の前に消えてしまったんだ。あるのは形見であるワッペン(一流者としての証)だけ残され同僚の痕跡はきれいになくなってしまっていた。
自分は急いでこのことを報告するべく上司や仲間の元へ走った。だが、どういうわけか同僚のことは誰一人として覚えていなかった。いろんな人たちに同僚のことを聞いて回ったが誰一人として「知らない」と言い退けた。
そこに上官がやってきた。上官は自分を一流へと昇進するために背中を押してくれたとても尊敬している人だ。自分は上官に嘘偽りなく説明した。
「同僚が…同僚が消えてしまったんです!! 太陽から光が発射され、気づいたときには同僚はあとがたもなく消えたんです。嘘じゃありません! 目の前で見たんです!!」と一生懸命に説明した。
しかし上官は感化されることなく冷たい目をしそして信じられない一言で終わらせた。
「疲れているんだ。昇進してばかりで気が滅入っているんだ。数日間の休暇を取らせよう。大丈夫、晴れた日には”すべて”忘れているだろう」
肩にポンと手を叩かれたとき、ふわっと身体の力が抜けその場に倒れた。尻目にしてみていたがそこに上司が注射針を持っていたことからなにか薬を打たれたんだと確信したが、目をつぶることしかもう力が残されていなかった。
それからというもの、同僚の記憶は消えてしまっていた。あの人工太陽のことも発射された光のことも、あの日何があったのかは日向ぼっこして独り言をつぶやいているとしか記憶がなかった。<魔王>として生まれ変わるまでは。
『<魔王>が羽化しました。<魔王>に与えられた力は<不明>。対象は人間。単独。<傀儡>を召喚する力を持っています。繰り返します―――』
<魔王>が羽化した。いわれもない真実だった。
自分は<魔王>として覚醒してしまった。同僚のことを思い出し、故郷のことを思い出していた。自分は<魔王>として生まれ変わり、この世界を変えるために<魔王>として役目(つとめ)を果たさなくてはならないと、先代の<魔王>がそう言っている夢を見ていた。
先代の<魔王>は学校の先生で生徒たちを<傀儡>に作り替え操る能力を持っていた。生徒はおよそ300人。300体あまりの<傀儡>を作り出し、世界征服を7割完了しようとしていた。だが、団結した家族たちが自分たちの子供や友達であろうとも<傀儡>を殺し、<魔王>である先生を殺し、平和を取り戻した。<魔王>となった先生は最後まで、この世界を作り替えようとしていた。
人々は知らない。この世界が人の手によって造られた仮初の世界で、皆箱庭のような世界にいることを誰一人として知らないんだ。<魔王>は箱庭の世界を壊し、本来の世界があるはずであろう世界を取り戻すために活動しているのだということを、夢を介してようやく理解できた。
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