第14話

 せっかく手に入れた居場所、せっかく手に入れた仲間たち。こうもあっさりと奪われてしまうのはなんという皮肉か。魔王はこうやって仲間も居場所も失っていったのだろうか。


「なあ、傀儡。先代の魔王は、この村を大切にしていたんだよな」


『よくわかりません。先代の魔王がそうおっしゃったので、わたしは命令通りに忠実に守っているだけです。ですが、あなたがいう、大切な居場所を失うのは魔王とて変わらないのでしょう。幸いにも悲しむことはありません。魔王は少しずつ…感情が衰えてきます。…いえ、失っていくのです』


 青ざめながら主人公は「え」と吐いた。


『魔王は少しずつですが感情を失っていきます。最終的に魔王としてこの世界を征服するようプログラムされているのです。すなわち、魔王はこの世界を壊すためだけに生まれたと思ってもいいでしょう。先代の魔王様もそうおっしゃっていました。少しずつ、少しずつと、人間だったころの思い出、感情、記憶が失っていくと。わたしは魔王様に最初に感情を与えることを許可された個体です。魔王様が目の前で少しずつ変わり果てていく姿をずっと見ていました。最初に作られたときと比べて残忍で冷酷な魔王様へと変わってしまいました。あのような傀儡を生み出すきっかけも……おそらくですが―――』


「もういい!」


 傀儡の話を中断して、主人公は「もういいよ――」と悲しみと寂しさと苦しみを味わいながらなんともいえない思いが死体となって横たわった討伐士たちに当たり散らす。討伐士たちの鋭利な刃物を奪い、原型を保っていた肉片をひき肉のようにすりつぶし、切り刻み、ときには神経や血管を器用に編み物のようにして繕っていく。


 その姿を見ていた傀儡はにっこりと笑みを浮かべていた。


『残忍で冷酷で、非道で、凶悪……まさに魔王様です。先代の魔王様と近づいている』


 主人公は血まみれになった討伐士たちの生き血をすすぎながら魔王として一歩一歩と引き合う。そして、このとき主人公の身体に異変が起きる。


 レベル60代がみるみると上昇し、レベル100まで上り詰めた。そして限界突破とも言わんばかりにレベル101を超える。


『レベル101……なんとうことでしょう。先代の魔王様でさえレベル101を超えることはできなかったというにの…なんという奇跡、なんという喜劇、なんという狂気なのでしょうね。素晴らしいです。わたしもレベルを100を超えてみたいと長年の夢でした。魔王様…もし、あなたに作られたとしたら、わたしはあなたの忠実なしもべとしてそばにいさせてくださいと懇願していたでしょう』


 他の魔王には決してこうべを垂らすことはしない傀儡だった。だが、目の前に起きた奇跡に先代の魔王のレベルを超えたことにより、圧倒的な歓喜が傀儡を襲い、そして命令を抹消してまでこの者につきたいと魂の底から感激したのだ。だが、主人公が振り返った時にはしの感覚は一瞬にして消え失せた。


 主人公の瞳に三角形の模様ができており、両目とも色を視覚化できない。色の認識を拒んだ。それは傀儡に与えられた先代魔王の計らいだった。もし、新しく生まれた魔王によって操られようとしているのなら、操られることを拒否する力・耐性・能力を与えられた証拠だった。


『魔王様、覚醒おめでとうございます。その眼は、どんな傀儡が命令無視でも無理やり従わせることができるようになります。耐性がないものは、どんなに抗ってもその眼を見たら最後、忠実に守るでしょう』


「どうして、きみには効かない?」


『私には耐性があります。レベル90として与えられたことにより、常人では考えられないほどの祝福と耐性、能力を与えられています。すなわち、わたしはあなたの魅了は効かないということです』


 主人公はにこりと笑うなり、こう答える。


「きみがほしい。どうしたら君のようなわがままな子のいうことを聞かせれるようになる?」


 傀儡はコイツは危険だと思いながらも忠実に答える。


『先代の魔王に訊くといいでしょう。わたしはあなたを先代の魔王に合わせることも命令されていたのですから』


「よし、いこう」


 主人公はウシノノたちの墓を作り、この場を後にした。


 遠くで見ていたミラは、恐怖で引きつっている部下の横で驚愕していた。


「なんという恐ろしい。部下の死体を子供が遊ぶように…」


 ひき肉にされた死体から血管、神経だけを取りそれを網目状にして枝にぶら下げていったのだ。そのおぞましい光景を見て冷静でいられなくなるのは正しい事なのだ。ミラは魔王と変わり果ててしまった主人公に負い目に見つめながら、いずれ自分が魔王を倒すのだと決意を固めるのであった。

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