第8話 恋愛のやり方

 だって、そうだもん。


 もし私が男だったら……

 私と古屋さんのどっちに勇気を出して声をかけるか? ってことを考えると。

 どうせ勇気を出すなら、きれいだったり可愛い方にダメもとで声かけるもん。


 慰められ待ちをしたいわけじゃないけど、だってそうなんだから仕方ない。

 あぁ、きっと私面倒な人の顔してる。

 そうわかっているのに、止められなかった。


『そんなんことないよ~』とか古屋さんに口先だけの慰めの言葉を言わせてしまうんだろうなと思っていたけれど、古屋さんの返しは違った。


「石井ちゃんは、恋愛の仕方を知らないだけ」

 ぽんっと私の肩に手を置く古屋さんの目はこれまでにないほどキラキラに光り輝いていた。

「え?」

 励ます顔ではなくて、どう考えても面白い物をみつけたような……

 子供が新しいおもちゃ手に入れちゃったみたいな……

 そういうキラッキラの今まで見たことない表情だった。





 恋愛の仕方を知らないだけ?

 てっきり、慰めの言葉を言われてなぁなぁにされると思ったのに、話は思わぬ方向に変わっていくようだ。

 というかヨッシー先輩と思わぬ再開をした衝撃で、すっかりと忘れてしまっていたけれど。

 私は恋愛をするために自分磨きをする予定だったよ……

 本来の目的である化粧品は、あれこれ考えていたせいで、買ったまま袋から出しもしてない。



 というか、むしろ私から古屋さんにどうやったら彼氏ができるのか? 皆どうやって連絡を個別で取り合うようになるのか? を相談したかったけれど。

 流石にこういうこと話すような仲じゃないしって思って、自分で試行錯誤しようってまず外見からって化粧品を買いに行っただけ。

 結果として古屋さんがもしアドバイスをしてくれるならば、それに越したことはないわけで。


 私結果オーライじゃない?




「恋愛ってやり方を知っているかどうかで全然違うの」

 ちょっと小悪魔な顔で古屋さんが笑った。

「やり方を知っているかどうか?」

 ゴクリと私は唾を飲み込んだ。

 そうそう、この感じだ。

 私はいつもと違ってちょっと小悪魔的で得意げな古屋さんに、ドキドキしてしまう。



「石井さんとはお互いの交遊関係がかぶっているわけでもないから、教えてもライバルにならないからね」




 個人的に私とあまり差がないと思う朋ちゃんには彼氏が高校生の間にできて、私にいまだに彼氏ができないのはなぜなのか!

 ずっとわからなかったけれど。

 私の知らなかった恋愛のやり方ってのがあるのだと思う。




 彼氏がいる人は周りにいたし、私自身彼氏ほしいってことは友達にいったり、恋愛相談をしてきたけれど。

 今までなんていうか、これすれば彼氏できるみたいな具体的な攻略法みたいなのを教えてもらったことは一度すらなかった。


 でも古屋さんといたことで私は気が付いていた。

 周りは普通教えてくれないけれど、自分がより楽しくなるようにとか、生きやすくなるようにする行動ってのがあるってことを!


 例えばさっきまで悩んでいたヨッシー先輩とリリコちゃんのようにバイト先がよくないぞってなったときに、いまいちなバイト先でずるずると頑張らずに。

 それらしい理由を周りにいって、さっさと見切ってやめて。

 別の楽しいバイトを探して働いたほうがずっといいこととか。


 一緒にいたらつまらないな、こういうところがよくないなって友達とは、やんわりうまいこと疎遠にするとか、見切りをつけて、うまいこと別のグループに移動するとか……ね。



 教えてくれないけれど、絶対やったほうが生きやすくなることが、たぶん沢山あって。

 気が付いた人は、そうやっていろいろ取捨選択をしていきやすくなる一方で。



 小さい子には皆仲良くしましょうと散々言ってきたのに、実際は付き合う人は選んだほうがいいのが真実だけど。

 大人になったら付き合う人は選びましょうって大々的にいうわけに言うわけにはいかないだろうし。

 あまり大々的に言うべきことじゃないから、気が付かない子は前の私みたいに気が付かないままずっと我慢して生きていくはめになる。



 恋愛だってもし有利にことを勧められる攻略法を私が知っていたとして。

 それをもし広めてしまえば最後、今まで攻略法を使ってないからうまくいかなかった子たちがライバルになるに決まっている



 幸い私と古屋さんは、元バイト先を通じて知り合ってたまにご飯を一緒に食べに行ったり、今みたくたまに話をするだけで。

 交友関係が全くかぶっていない。

 古屋さんとこうして遊んだり相談できることがイレギュラーであり、本来私は古屋さんみたいなタイプと友達になる子じゃないもん。

 でもそれがよかった。


 私はどうやら、まったく予想もつかなかった恋愛のやり方を学べるのだから。



「もし、もしだよ。私がそのやり方を知ったら、ヨッシー先輩と付き合えたり?」

「うーん、それは流石に格上だから微妙だけど。恋愛のやり方を知っていると、告白するタイミングを間違えることはなくなるかな」

「告白するタイミングって……相手に彼女がいるときとか、資格の試験とか勉強のこととかで忙しい時をさけるとかじゃないの?」



「えっとね。どっちの告白が成功しそう? ①二人で何度か遊びにいった子 ②彼を遊びに誘ったけれどいつも断られてしまう子」

「それは①番」



「正解。一緒に遊ぶことも断ってくる相手なんだから②番の子は告白しなくても、デートすらしてくれないんだから、告白してうまくいくわけないってわかるでしょう」

 古屋さんは大事な話と言わんばかりに口元に人差し指を当てて声を潜めて話を続けてた。

「告白は基本1回だけ。しかも振られちゃったらそれでおしまい。だからより成功率が高いまで告白しないことが大事なの。では、一緒に遊んでいたのに個別の連絡先の交換すらできてない石井さんが、今いきなりヨッシー先輩の前にあらわれて告白するとどうなるでしょうか!」



「連絡先の交換すらしてない相手なんだから。相手は付き合おうと思っているはずないし、ふられ……る?」

「大正解!」

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