第5話 余計な一言
愚痴ばかりが並ぶラインに私は早速考えた文章を送信した。
『私バイト辞めたんだ。愚痴沢山聞いてもらってたから二人には報告しておきたくて』
30分ほどして既読が付いた。
『人足りないって言ってたのに? 辞めたら残ってる他の人はもっと大変になるんじゃない?』
咎めるような文章がまじめで責任感の強い希から送られてきた。
こういう内容が送られてくることは、これまでの愚痴を言い合った時からちょっと想定していた。
それでも、はっきりと言われてしまうと。
私が辞めたせいで皆に迷惑をかけている無責任じゃないかと言われているかのようでモヤッとしてしまう。
『テスト週間でもシフトに出てほしいって言われた愚痴話したじゃん』
『それはそうだけど。社会人としてそんなすぐ辞めちゃうのってよくないんじゃないかな』
確かに私がやめたことでさらに人が少なくなって、バイト先のシフトはどうなってしまったのかは怖いところだけれど。
私の店ではないし、私の本業は学生だ。
文字は打ち終えたけれど、本当に送っていいか私は躊躇していた。
なぜなら、希は学業よりもバイトを優先させた結果。今回のテストの成績がかなり下がり親から連絡がくるようになってと愚痴を言っていたのを知っているからだ。
『実来はちょっと無責任だと思う』
希からそう送られてきて、流石の私も送るかどうか躊躇していたけれどカチンときてしまって、送信ボタンを押した。
『私の本業は学生だから。就職しないバイトのせいで成績が悪くなったら親に学費出してもらっているのに意味がなくなっちゃう』
『就職しないバイト先のせいで私の成績が下がったっていいたいの?』
『希のことじゃない、私のことだよ。店長から連日シフト出てほしいって出るまで連絡があって、テスト始まって2日目までは本当に悲惨な成績だったの。だから、このままだとまずいって思ってやめることにしたの』
既読はついたものの、希からの返事はなかった。
11時を過ぎて、個別で裕美からSNSに連絡がきた。
『実来さ、希と何かあった? バイト終わったら沢山連絡が希からきててビックリしてさ』
グループでの連絡で書き込むのはやめた代わりに、希は裕美に個別でおそらく愚痴を言ったのだと思う。
『私バイトやめたんだ』
『え!? さのさのやめたの?』
『3人のグループでもそういったんだけど、希にしたら。人がいなくて困っているのを解っていてやめたのは無責任だと感じたみたいで』
『希まじめなところあるもんね。実は希から個別で連絡が沢山きていて、そっちみてたらグループでのはまだ見てなかったわ。そっか、辞めたんだ。バイト先で何かあった?』
希の地雷やっぱり踏んで裕美のほうに連絡がきてたんだ。
『テスト期間中もシフトに出るようにって連絡がくるって愚痴いったじゃん。このままバイト続けてたら、バイトの人は助かるかもしれないけれど。私が留年したり、成績が悪くて就活で困るようなことになったらまずいじゃないかなって怖くなってさ』
時間を置いたこと、裕美が普通に聞いてきたことで希のときよりずっと柔らかく言いたいことを言えたと思う。
カチンときたとはいえ、なら少し時間を置いてからかえせば裕美に言えたようにいえたのにと思うけれどもう遅い。
『ちょっと後で連絡していい? もう11時過ぎてるし。遅くなっちゃうかもしれないんだけど』
『うん。春休みだし、バイトもないから大丈夫』
OKの文字のスタンプがきて裕美との連絡は一度止まった。
本来なら眠い時間なんだけれど、やらかしたこともあって私は眠れず裕美からの連絡をまっていた。
時間が経てばたつほど、希にやらかしちゃったって気持ちが高まる。
つらいことからやめるきっかけをあげたら、私が古屋さんに感謝したように二人に感謝されるかもみたいな。
でもそれは、求めてない人にとってはおせっかいでしかなかったのかも。
麗奈、白雪ちゃん、朋ちゃんの3人と違いいらないことを言った私は、希ともう挨拶をするような仲には戻れないかもしれない。
3人は私たちが愚痴だらけになったことは指摘せず自然とはなれてくれた。
嫌な思いはしなかったからこそ、グループは変わったけれど、会えば挨拶するし雑談もする仲として残っている。
まじめな優等生タイプの希は成績が下がって悩んでたこと愚痴を聞いていて人一倍わかっていたつもりだったのに。
なんか救ってあげたいみたいな傲慢さが、今後も友達でいることを断ち切ったのかも。
こういう風になるから、中学の時や高校の時も面と向かっていろいろ言わずに、ゆっくり皆フェードアウトしたのかもってことを今更ながら私は理解した。
あぁ、やらかした。
こんな後悔するくらいなら、言わなきゃいいのにって話なんだけれど。
ついカチンっときてってこと何度も何度も頭の中をぐるぐると回る。
1時を過ぎてようやく裕美から電話がかかってきた。
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