第6話 さよなら友達
「こんなに、遅くなるつもりじゃなかったんだけどごめん」
少し疲弊した裕美の声に、むしろ私のせいで希の話をこんな時間まで聞く羽目になったことがわかっていた私は申し訳なくなる。
「さっきまで希の話を聞いてくれてたんでしょ?」
「まぁね……」
私が恐る恐る切り出すと、ごまかしきれないと思ったのだろう、裕美はあっさりと希の話を聞いていたことを認めて気まずそうに言葉を濁した。
「……希、怒ってるよね?」
絶対に希が怒っていることはわかっていたけれど、裕美に聞かずにはいられなかった。
「怒るというよりかは、本当はすごく不安なんじゃないかな。希、成績下がったって言ってたし。もともと責任感強いタイプじゃん?」
「うんうん」
「自分がバイト抜けたら皆が困るから我慢しなきゃって思っているところに。実来から見ないようにしてた正論ぶつけられて戸惑っているって感じなんだと思う」
裕美は怒っているかどうかは言わずに、私に配慮するように言葉を選んで話してくれたんだと思う。
「私も言葉の選び方がわるかったのかも……」
十分考える時間が空いたことで、すっかりカチンときた気持ちは消えて、希だって自分の成績のこともあって悩んでいたしと、相手の立場や考えが今は冷静に考えれる。
希にすると、自分の成績が目に見えて落ちて不安でこのままじゃまずいって解っている中、周りの為に我慢や犠牲をしているのに、同じ状況から私だけ無責任ににげて、悩み全部なくなってとか今は処理できない思いがあるのかもしれない。
ただ、私だってバイトを急にやめることになったけれど。残してきた人メンバーに罪悪感が全くないわけじゃない。
私だってモヤモヤすることはあるし、ごめんって思うことはあるけれど。
それでもこのままだと自分の今後が大変なことになるって割り切って。
古屋さんの『残された人が働き続けるかどうかは自分たちで考えて決めることで、石井さんが自分を犠牲にしてまで配慮することではない』って話を心の支えにして、モヤモヤに蓋をして前を向こうとしているだけだ。
でもそんなこと希にはわからないからこそ、実来だけつらいことから抜けたって思いがあるのかもしれない……
「二人のやり取り見たけど。実来がというよりかは、履歴的に希が一方的に噛みついてきて、ちょっと言い返されたら逆切れされた感じに私は思ったよ。そして、私は希とちがって実来の言う通りかなって思った」
「裕美……」
裕美の本心はわからないけれど、私の意見を肯定してもらえたことにほっとする。
「私は二人と違って単位も落としちゃったし。このままバイトを優先させていたら本当にヤバい、大丈夫なのかなって思っててさ。希の言うように人が足りないから私が辞めたら困ると思うけれど。だからといって、留年するわけにもいかないじゃない?」
そういって、明るい声で裕美は笑った。
「そうなの! 希のこととか関係なしに。テストも受けながらこれヤバいってずっと考えてて。バイト先は困っていることはわかるんだけど、私が自分を犠牲にしてまで背負い続けられないってなったの!?」
「私もテスト期間中もバイト頼まれて、テストのための準備もできてないし。テスト受けているときにもっと準備さえしてればもっとちゃんと点が取れるテストだったのにって」
「それ~。科目によっては事前にある程度準備しておけばそれなりにとれたのにさ。テスト期間にラストまで入れられる職場じゃテスト期間前にまとめる時間もないしってなって」
「そうそう。テスト期間中にシフト入れてくるところなんだから、テスト前に準備できないんだよね……」
愚痴が沢山沢山こぼれて、気がつけば1時間も経っていた。
「希には実は言えてないんだけど。私もバイト辞めようと思う。留年はシャレにならないしね。ただ希には黙っていてほしい。私までやめたらって知ったら、希更に追い詰められそうだし。希が少し落ち着いたのをみて話そうと思う」
「それがいいと思う。正直なところ、私もう希になんて連絡していいかわからないし。学校が始まったらどうしようかなって思うから。そこは心配しないで」
「今は多分頭に血がのぼっているだけで、時間が経てば大丈夫だと思うよ。私も二人の間に入るから!」
裕美はそう言ってくれた。
だけど、私は裕美に頼んで間を取り持ってもらって、希の機嫌を取るために、私が謝ってまで愚痴を聞くグループに戻る必要はあるかなって思っていた。
今までだったら、裕美にごめんだけれど。お願いって頼んで希と仲直りをなんとかして、これまで通りまた3人で昼食を食べるようになっただろう。
だけど今日の私は違った。
二人にバイトをやめたことを話して、古屋さんに言われたことを話すことで、二人もうまくバイトをやめて3人でたのしくやれたらいいなとおこがましく思っていた考えはうまくいかなかった。
裕美は私の話をきいて、自分もバイトをやめることを決断してくれたけれど。
希はそうは思わず、むしろ仲たがいする結果となった。
裕美は希の機嫌を損ねるから、バイトをやめたことを言わないつもりってことだし。
結局希と裕美の愚痴をきいていたのが、裕美がバイトをやめても希の愚痴を聞く昼食になる。
それはきっとまたおいしくないご飯で、楽しくない日々が続くということだった。
できれば3人で楽しく過ごしたかった。
だけど悲しいけれど、その願いは叶いそうにない。
形だけでも私が謝罪をすればグループに戻ることはできるとは思う。
でもそれは私が望んでる楽しい会話ができるグループではなく。
おそらく愚痴を聞き続ける必要のあるグループだ。
古屋さんや私のいたグループから抜けて行った先人たちのように、今更ながらこんなにこじれるならば余計なことを言わずにさっと離れるのが正解だったかもと思いつつも。
すでに起こったことは仕方ない。
バイトと同じ腹をくくるときが来たんじゃないかな? と冷静に思う自分がいた。
だから……
「裕美ありがとう。希も気まずいだろうし。私も少し考えてみるよ……」
そういって、裕美に間に入ってもらうことをたのまずに私は電話を切った。
裕美、気を使ってくれてごめん。
自分勝手かもしれないけれど。
私せっかくならもう少し大学での時間を楽しく過ごしたいんだ。
電話を切ってから裕美に心の中で謝罪して眠りについた。
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