古屋さんバイト辞めるって

第7話 立ち回る

　結局私が眠りについたのは３時過ぎだったのに、７時には自然と目が覚めた

　モヤモヤとした気持ちのせいだと思う。

　私ってば、メンタル的にやられるとすぐにあまり食べられなくなるし、夜もしっかり寝れなくなる。

　希と裕美のことはしこりはのこるけれど、仕方ないと割り切ろう。

　すべてに納得できることのほうが少ない。

　バイトだって、モヤモヤはあったけれどやめたことは後悔してないでしょ？

　あのままだったら、大学の成績に影響がでて、就職活動の時にきっとすごく苦労することになって後悔すると思うし、これでいいの。

　動かず嫌なことを我慢しているより、自分で行動に移して楽しめるようにしよう！

　希と裕美は、また二人といて楽しいと思えるときに仲良くすればいいだけと言い聞かせ。

　マグカップに牛乳をたっぷりいれて飲みほした。

　そして自分の今後を考えたときに、大学でボッチは流石にヤバいと思った私は、他に連絡をパッと取れる相手は浮かばなくて。

　今は連絡をほとんどしていないけれど。

　ダメもとでかつてのグループメンバーだった麗奈に連絡してみることにした。

　ちょっとずるいけれど、それでうまくいったら麗奈のグループに移動する。

　上手くいかなかったら、とりあえず希と裕美に取り繕って前のグループにいつつ。他のグループに移動できないか考えるってことにした。

　ちょっと前なら思いつかなかったずるい感じに、自分でもドキドキするし、よくないことをしているんじゃという思いもある。

　だけどこれまでの私の人生で、気が付いたらグループが変わっていた子たちのほうが楽しそうに学校生活をしていたことをあえて思い出した。

　私はというと、そういう子たちがグループからやんわり抜けて行った後も、相変わらず自分が我慢して。

　遅刻が多い子や我儘な子、不機嫌を顔にすぐ出す子と我慢しながら一緒なグループでいて、気を遣ったり、遅刻にやきもきしながら過ごしていたけれど。

　本当は思ってた。

　離れた子のほうが楽しそうにしてない？　って。

　私もグループをやんわりぬけて、もっと楽しい人とつるむことで、学校生活を楽しむ子に変わるの。そう何度も言い聞かせた。

　奇数グループのほうが仲間に入れてもらいやすいはず。

　ペアになってとか、４人組でとか何かするときに割と偶数でやらされることが多いし。

　グループを移動した子たちも、自分が３人目や５人目になるところではなくて、自分が入ることで偶数人数になるところを選んでいたことに私はきがついていたからこそ。

　かつて、グループからやんわり抜けた人の作戦を参考にさせてもらうことにした。

　問題はなんて送るか……

　麗奈たちはやんわりとグループから離れたことを考えると、付き合う人間をある程度選ぶタイプなのだと思うから。

　マイナスな印象が残らない感じがいいよね。

　私と麗奈たちがグループが離れる原因になったのは……私、希、裕美の３人でおそらくバイトの愚痴ばかりいっていたせいだと思う。

　それならバイトやめたことは言ったほうがいいかも。

　そしてグループにいれてと言うよりかは自然とメンバーに入る感じがいいよね。となるとまずは遊びに誘ったほうがいいかも。

　私たちが３人のグループをSNSでつくったように、麗奈たちも麗奈、白雪ちゃん、朋ちゃんでグループを作っているだろうし、麗奈に声をかければ他の二人にも連絡が行くでしょう。

『バイトやめて時間できたから、春休中に１度白雪ちゃんと朋ちゃんも誘って久しぶりに４人でごはんでもいかない？』

　朝早い時間にも関わらず、１５分ほどすると既読が付いた。

　私はドキドキしつつ画面を見つめていた。

『実来バイトやめたんだΣ（・□・；）』

　麗奈から返事はきたけれど、ご飯でも行かない？　という質問ははさらっとスルーされていた。

　大丈夫まだ断られたわけじゃない。

　ついつい、裕美とのやり取りの時のように、辞めてスッキリってバイトの愚痴を話したくなるけれど。

　私が見限られたのはおそらく愚痴が多かったからと気を付けて返事を考える。

『２月いっぱいでやめたんだ。遊びに行けてない間に駅中結構お店が変わってて今浦島状態笑。いいお店あった？』

　私は愚痴を言わないように気を付けつつ、私は意図的に愚痴になりそうなバイトから話をそらした。

『私の好みではないけれど、白雪がよく着てるようなフェミニン系の服のお店が多い感じかな』

『値段は？』

『わりとお手頃かな～』

　愚痴に流れないように気を付けつつ、麗奈と他愛もない話をワイワイと久々にやり取りした。

『ところで、希と裕美は？　二人と仲良かったじゃん。遊ぶにしてもどうしてうちらなのかなって……』

　しばらく話すと麗奈からそう聞かれた。

　冬休みに入るまでは６人グループだったのに、すでに麗奈の言い回しはしっかりと、うちらもう違うグループだよねという念押し付きだった。

『二人ともバイト忙しいみたいだし。二人ともすごくいい子なんだけど。愚痴抜きで今みたくいろいろ話して遊びたいなってバイト辞めたら思ってさ』

　ポンポンと続いたやり取りが既読ついたまま止まって、しくじった？　と焦る。

　２０分後久々に通知音がなって、慌ててスマホに飛びついて画面を開くと。

『ちょっと、二人にも聞いてみるね』

　麗奈から白雪ちゃんと朋ちゃんにも聞いてみるねって前向きな返事が返ってきてホッとした。

　とりあえず。もうすでに予定が決まっちゃっててとか、予定まだどうなるかわかんないとかごまかされることはなかったことで、一つ大きなハードルをクリアしたとホッとする。

　なるべく愚痴は言わないようにしたし、楽しい会話を心掛けたんだけど。

　ここで３人と遊べるかが大事なのよぉぉぉおと私はスマホを握って掲げた。

　その日の夕方。

　麗奈から短く『二人とも〇』って連絡がきてほっとした。

　はぐらかされて、遊ぼうって誘いを断られるのはとりあえず回避できた。

　私がまだ駅中のリニューアル後見て回ってないってことで、そのあたりをぶらぶらして、ご飯でもしようってことにトントンと決まった。

　麗奈、白雪ちゃん、朋ちゃんと遊ぶのは秋以来でちょっと緊張したけれど。

　私の読み通り私をいれて４人になったことで自然と歩くときに２，２に別れた。

　麗奈と白雪ちゃんが先を歩いて、私と朋ちゃんが並んだ。

「実来ちゃんと遊びに行くの久しぶりだね」

　ニコっと朋ちゃんが笑う。

　愚痴は言わない、もうバイトはやめたから愚痴ることもない今を楽しもう。

　久々に友達と遊ぶのはすごく楽しかった。

　特別なことをしたわけではない、買い物をして、疲れたからお茶をしながら、あれ買えばよかったかも～とかそんな他愛もない話をして。

　古屋さんとちがって、友達としてある程度遊びに行ったことがあったからこそ、最初はちょっと久々でぎこちなかったけれど。

　お店をあれこれ見て回るうちに、だんだん前のように話せるようになって。

　私はすごく楽しい時間を過ごしていた。

　愚痴を言わないようにと最初は思っていたけれど、意識しなくても私が愚痴をいうことはなかった。

　お昼ご飯をたべて、カフェでふかふかの椅子にすわって休憩していると麗奈が白雪ちゃんと朋ちゃんに目配せをしてから私に話を切り出してきた。

「なんか、実来かわったね。悪い意味じゃないよ。いい意味で」

「え？　そう？」

　麗奈に突然そう言われてきょどってしまう。

「言いにくいんだけど……愚痴っぽくなくなったよね」

　白雪ちゃんが遠慮がちにそういう。

「うんうん。前は皆で話していていてもすぐ愚痴になるっていうか、話題をかえても愚痴にすぐ戻る感じだったし……」

　思い返すと愚痴が続くと話題を変えてくれていた朋ちゃんが困った顔でそういった。

　というか、やはり話題意図的に変えてくれてたんだ。

「皆楽しい話しようとしてるときに、いつも愚痴いいだしてごめん。ご飯おいしくなくなかったよね」

「ということは、ご飯がおいしくないこと経験したんだ」

　麗奈がまっすぐと私を見つめてはっきりと言い切ってニッと笑った。

「……うん。自分も愚痴を言っている間はむしろストレス発散できてたんだけど。いざバイトをやめて同調せず聞く側にまわったらちょっとしんどくなっちゃって」

「「あ～」」

　白雪ちゃんと朋ちゃんが私が言ったことにそう声を出していた。

「なんていうか、ちょっと意外かな……。実来って優しいタイプというか。ちょっと引っかかることがあっても我慢する人って思ってた」

　麗奈の言う通り、私はこれまでだったら見事ちょっと引っかかることがあっても友達から離れようとは思いつかずに、相手の嫌なところが見えても友達でいなきゃって思うタイプで。

　グループを移動しようとか思いもつかなかった。