第8話 抜けてく人を見つめるのはおしまい

「「わかる」」

 麗奈の一言に間一髪いれず、朋ちゃんと白雪ちゃんが同調した。

 私がそんなタイプだってことは、もしかしたら周りにバレバレだったのかもしれない。



「ちょっと、見ていて心配なくらい……。実来ちゃん結構希ちゃんにずばずば言われても、流すところがあったっていうか……」

 言葉を選ぶかのように朋ちゃんが続けた。

「あ~、希ちゃん。そういうところあったよね。自分が正しいって思うことは、正しいんだからって気持ちがあるからだろうけれど。ちょっと強めな言葉でもバンバン言っちゃうみたいな……」

 白雪ちゃんは、希の名前を出して表情を曇らせた。

「私と朋で話題を変えようとしても、自分がスッキリするとところまで言いたいのか、止まらないみたいな」

 うへぇっと言わんばかりに麗奈もあまりよくない感じで希のことを話しだす。




「ところで実来ちゃん。バイトやめたこと希ちゃんにいって大丈夫だったの?」

 朋ちゃんは不安そうな顔で私を見つめた。

「正直なところ大丈夫……ではなかった。無責任ってこと言われてそれっきり。裕美が仲を取り持とうとはしてくれてるんだけれど。正直なところ、とりあえず仲直りして新学期はまた愚痴をずっときいてくって考えたら、嫌だなって思っちゃって麗奈に連絡したんだ」

「なるほど。突然連絡がきたから、何かあったのかなって白雪と朋と話してたの、確認するけど。こっちのグループにきたいってことであってる?」

 一瞬裕美の顔が浮かんだ。

 気を使ってくれて、私の話を聞いてくれた裕美。



……だけど。




「あってる。裕美には悪いけれど。愚痴をきいて休み時間が終わるとかもう嫌だし。少なくともわたしは二人とはなれて愚痴ばかりよりも楽しい話ができる子と仲良くしていきたい」

 私ははっきりと、グループをうつりたいと私は言葉にした。

 さり気ないグループ移動はどうやら私には無理なようだ。

 だけど、ともかく、今いる環境を自分で動いて変えようと思って私は動き出した。



 裕美には本当に申し訳ないと思う。

 私がぬければ二人で昼食したりになる。

 バイトをしている間は愚痴をお互い言い合うで、助け合えるけれど。

 裕美はバイトをやめるといっていた、きっとバイトをやめたら希の愚痴が負担になるだろう。

 そしてバイトをやめたことをいえば、希は私にしたように無責任だと自分の不安をごまかすために裕美にも同じようにキツイ言葉を投げるかもしれない。



 だけど……裕美が今後どうするかは、裕美自身が決めること。

 裕美のために私が我慢して、悪くないと思っていることに頭をさげて仲直りしてまで愚痴をきいて、実来は無責任とか言われ続ける理由はない。


 私は私が楽しく学校生活を過ごすために動く。



 まぁ、3人に断れたら。他に所属できそうなグループ探しという途方もないことが、グループがある程度決まった今更始まっちゃうんだけど。

「私はいいよ。奇数だといろいろ不便なことがあったし。もう一人いたほうがいろいろいいよねって話はもともと白雪と朋としていたからね」

 私の返事をきいて、麗奈はそういった。

「私もいいよ。またあの6人でってことなら、ちょっと嫌もう御免だけど。朋ちゃんは?」

 グループが別れただけあり、前のように6人ではごめんだけれど。私だけが加入して4人組ならと白雪ちゃんも承諾した。

「私も6人は勘弁だけれど。実来ちゃんは代わったみたいだし。実来ちゃんだけならOK。それにちょうど希ちゃんと喧嘩しているなら、グループ移動するにしても理由があってすんなりいくだろうからね」

 朋ちゃんも承諾したことで、私ははれて3人に迎えられることになった。




「あっ、私たち旅行行こうかって話してるんだけど、今から追加になるとちょっと割高かもだけど実来はどうする?」

 私が入ったことで、麗奈が思い出したかのようにそう切り出してくる。

「えっ、行きたい。ってどこに?」

「も~場所も予算も効く前にOK出しちゃうの?」

 白雪ちゃんがそういって、皆で笑った。






 ◇◆◇◆




 新学期。

 私たちは無事進級して2年生になった。

 何もない春休みの予定は、あの後もともと3人で予定していたところに、私も混ぜてもらえたおかげで旅行もできたし。

 遠出して美味しい物を食べたり、イベントに参加したり、誰かの家で集まってワイワイしたりと本当に楽しい春休みになった。


 裕美からは、バイト辞めるってようやく言えました! めちゃくちゃスッキリした~って連絡や、履修登録再履修のがあるからどうしようって連絡がたまにきた。

 希からはあれから連絡はくることはなく。

 希、裕美、私のSNSもあの日以来動くことはない。



 新学期が近づくにつれて、裕美が希と私の仲をどうしようと気遣うラインがきていたけれど。

 私は裕美に『大丈夫だから心配しないで、についてあげてて』と、まるで希に気を遣うかのように……

 悪いなぁとは思いつつも。

 希のことをさり気なく裕美に押し付けた。




 必須科目は学科である程度決まっているので、当然学科が同じ希と裕美と鉢合わせる。

 春休み明けで、沢山遊びましたって感じの子や、おしゃれを頑張って垢抜けた子がぽつぽつといるなか、私の姿をみつけておろおろとする裕美の隣でしゅしゅで軽く髪をしばった疲れている様子の希が立っていた。

 あの様子だとまだバイトやめるとか考えてないんだろうな。

 でも、それはもう私には関係ない。

 

 よかれと思ってバイトをやめることを促すようなことを言ってしまったけれど、私のしたことは余計なことで、結果として希としては友達関係はこれで完全に終わってしまった。

 余計なことをいわなければ、今日みたく明らかに私を無視するようなことはされなかっただろうし。

 いうにしても、もっとタイミングや言葉を選んでいたら違ったんじゃないかな? と思ったりもするけれど。

 とにもかくにも、こちらから歩み寄ってまた仲良くって思いはこちらにはない。



 意図的に私から目をそらした希の様子をみて、希と私を見比べおろおろする裕美。

 裕美が意図的に私から視線をそらした希に何か言おうとするのをさえぎるかのように麗奈の声がした。



「実来おはよ~遅いよ」

 そういって麗奈が私に向かって手を振る。

「席取っといたよ」

「早く早く」

 白雪ちゃんと朋がそういって私を手招きした。



「ごめん~。今行く」

『えっ』て顔をする裕美に心の中で、『ごめん』っと謝って私はそういって3人のもとへと小走りで向かう。



「おはよ~」

 いつものように裕美と希に挨拶だけして、私はいつもつるんでいた二人の横を小走りで通り過ぎ白雪ちゃんが鞄をどけた席に座った。


 後ろを振り向かなくてもわかる。

 きっと裕美と希は私たちのことを見ているのだと思う。

 だって、今までは私がグループを離れた子たちを見ている立場だったから。




 無視するわけではない。

 いつも通り挨拶するし、時には雑談もする。

 裕美とはそんな友達になった。




 古屋さんと話したことで、ちょっと心にはしこりは残るけれど。

 今私は友達と休み時間は休みの日にはあそこ行こうよって楽しい話をしている。

 裕美と希はたまに食堂で見かける。

 ちょっと耳を澄ませると相変わらず愚痴が漏れ聞こえてきて、バイトをやめてからの裕美は相槌の感じや表情からしてちょっとしんどそう。



 そんな裕美をみると未だに申し訳ない気持ちが湧き出てくるけれど。

 自分がそこにくわわって嫌な思いを分散するための役はもうごめんで。

 私は見てみない振りをして、いつものメンバーと楽し気な話を続けた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る