私とバイト
第1話 私何してるんだろう
持ち込みができるテストはある程度事前に対策さえしておけば、そこそこの成績を残せるはずなのに。
大事な前日に友達とノートを見せあったり、テスト対策したりすることがバイトがはいったことでできなかったせいで……
不可ってことはならないだろうけれど、もう少しきちんとやっていればと思う様な気持ちでテストを終えてしまった。
ヤバいと肩を落とす私の横を、私のノートをコピーしてテストを受けた子がそれなりに手ごたえを感じた顔をして通り抜けて、私って何やってんだろう……と思ってよけいにがっくりときてしまう。
とにかく、気持ちを切り替えて明日の準備しなきゃ。友達と待ち合わせしてどういう風にまとめたかとか、ノートの見せあいもしておきたいし。
とりあえず移動しながらスマホの電源をいれるとSNSに5件の未読マークが出てきて、私は嫌な予感がした。
案の定それはすべて店長からでテストで電源を切っていたせいか、読まれないまま何度も個別で連絡が連続できていたようだ。
内容は古屋さんに言ったか? ってことと、今日もシフトに出てこれないか? ってこと。
返事どうしようって廊下の隅で立ち止まり、どうやって断ろうか新たなる悩みに出くわしたときだ。
ちょうど、古屋さんが通り過ぎた。
探すのは難しいし、個別で古屋さんに連絡先聞いてないのにグループから連絡して会うのはとか思っていた悩みが解決して。
とりあえず今話してしまえば、一応伝えるだけは伝えたと店長に言えるぞと私は古屋さんを追いかけた。
「ふっ、古屋さん待って」
バイトの時とは違い、ハーフアップであげられたゆるく巻かれたミルクティーの髪が振り向くとさらっとながれて、動きに合わせてゆらゆらと揺れる大ぶりのイヤリングが可愛い。
同じパンツスタイルなのに、私は洗濯してあるのを慌てて着ているだけでちょっとコーデとしてどうよ? って感じなのをコートで隠しているのに。
チェスターコートの下は組み合わせがいいのか、スタイルがいいのか、すらっとしてみえるってまず思った。
「あれ、石井さん。どうしたの? そんな息切らして……髪乱れてるよ」
そういって、古屋さんは私の乱れた……ではなく、実際は治しきれなかった寝ぐせをさらっと手で撫でる。
「あれ? なおらない」
「あっははは~。なんでかな」
治しきれなかった寝ぐせとは、ばっちりいつも決めてる古屋さんには言い出せなくて私は曖昧な笑顔を浮かべつつ、片手で寝ぐせのついた髪をなでつけ。
もう片手でコートの下の適当な服をみられたら恥ずかしいぞと、止めていなかったコートの前を抑えながら、店長から今もしつこくSNSで連絡がきている話を切り出した。
「あ、あのさ」
「うん?」
「古屋さんバイト、やめるの?」
ちょっととがめるように、自分なりに強い口調でそういった。
「そうだよ。仕事内容教えてもらったのにごめんね」
私が咎めるように言ったのなど気にしないかのようにさらっと流された。
「あのさ、私が言うのも変なんだけれどさ。もうちょっと頑張ってみないかな~? って」
私は愛想笑いを浮かべながらなんとかそう言い切った。
「ごめん、それはできないかな」
そんな私に首を軽くかしげてあっさりとそういわれた。
店長からのしつこいライン。古屋さんがやめるとか言わなければここまでひどくなかったんじゃとかいろんな気持が込み上げている私とは対照的に、さらっと無理だと言い切られてしまう。
「でもさ、人足りなくて困ってて。今だってテスト期間中なのにシフト出てくれないかって連絡くるし。私も昨日も一昨日も出たんだよ。人さえ増えればこういうことはなくなると思うしさ」
「えっ、テスト期間中なのにバイトに出たの!?」
「だって、人が足りなくて他のバイトの子も困っちゃうじゃん……」
同じバイト先だっていうのに、なんていうか古屋さんはちょっと責任感みたいなのが足りないんじゃないかなって思って私は顔には出さないようにするけれど、心の中でムッとした。
「テスト大丈夫だったの?」
もちろん大丈夫じゃない。
単位こそギリギリ落とさないだろうけれど。昨日受けたテストも今日受けたテストも、成績で言うと『可』ばかりだと思う。
改めて、大きな目を見開かれて驚いた表情をされて、心配そうに言われてしまうと今日の結果を振り返って不安な気持ちになってしまう。
そんな時だ、SNSの通知音が鳴った。
たぶん店長だ。
既読を付けたのに、古屋さんを見つけて返事を返さないでいたから。
特に今日のシフトでれるかについて念押しの追い連絡が来たんだと思う。
店長に何て返そう。
とにかく今日だけでも、なんとかバイトを断らなきゃ。
古屋さんの言う通りでテストは全然大丈夫じゃない。前期とは比較にならないほど悪い結果になったことが、まだ結果がきてないのにわかる。
思わず私は下を向いて、小さくため息をついた。
「見ないの?」
スマホを握りしめたまま下を向いてしまった私に、古屋さんは困った顔で問いかけた。
「う、うん……」
絶対店長からだと思うと億劫になる。
「もしかしてなんだけれど、店長から?」
ズバリあてられて、私はうなずいた。
「うわっ……それって私が辞めないように説得してとか言われてるとか?」
明らかに古屋さんの顔がドン引きと言わんばかりに、ゆがむ。
「それもなんだけれど、その、今日も人足りないらしくて。シフト入れないかって……」
「あ~」
なるほどって顔で古屋さんがうなずいた。
「ねぇ、お願い。今日シフトはいってる? もし、入ってなかったら今日だけ私の代わりに出てくれない?」
本当にやばいと思う私は、思わず古屋さんのコートを掴んでしまった。
なんていうか、本当にこれ以上シフトにでていたら本当にヤバい思いが古屋さんを逃がして貯まるかと行動に移させた。
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