第6話 嘘
相手をしたくなくて古屋さんにスマホを任せたけれど。なんて送るかは気になって私は椅子を古屋さんの隣にもっていき画面をのぞき込んだ。
『2月いっぱいでバイト辞めます』
ついさっきまで考えもしてなかったことは、実にあっさりと古屋さんの手によって送信された。
2分もしないうちに返事はきた。
『今はバイトの人数も少ないし困るよ』
すんなりはいそうですかとはならず。
予想通りの返事が返ってきた。
バイトの人数が少ないことはわかっている。だけど、古屋さんと話したことで。だからといって時給1080円の私が犠牲になる必要はないとすでに思っていた。
『私もテスト期間中はバイトにでるのが難しいと言ってたのに、連日バイトに出るっていうまでしつこく連絡が来るところではもう働けないです!』
思っていたけれど言えなかったことが、古屋さんの手によって次々と文字に起こされて実にあっけなく送信されていった。
『石井ちゃん今のバイトメンバーの中だと長い方だし、ついこっちも甘えてしまった。バイトの子が増えればこういうことはもう絶対起こらないと思うし。それまで皆で頑張ろうよ』
「私にも同じようなのがきて、突っ込んで聞いてみたんだけれど。なら具体的にどうやってバイトの子を増やすとかは絶対いわないんだよね。時給をあげるわけでもなく、人がいないときは他店からヘルプを呼ぶわけでもなく……ならずっとこのままだよね」
古屋さんのいうことは最もだ。
「私もそう思うけれど、多分店長今までの感じだと、一緒にまた頑張るみたいなことを言うまではずっと送り続けてくると思う」
「その辺は大丈夫」
そういって、古屋さんは文字を打ち込み始める。
『父が店長とのSNSのやり取りをみて、すごく怒っているので無理です』
「え? 父?」
思わず私はそうつぶやいてしまった。
やめるって決めたのはついさっきで、確かに店長のことで悩んでいたけれど。親に相談したことなどない。
なのに、古屋さんは父となんの迷いもなく打ってしまったのだ。
『本当は店に電話して即日やめさせたいところだけれど、周りに迷惑がかかるとだろうから2月いっぱいでやめるように言われました。学費は親がだしてくれているので、親に逆らってまでバイトする理由は私にないので。シフトは今出てる通りには入りますが。こういった連絡でのお願いは父が心配しているので遠慮してください』
2,3分間を開けず着ていた返事がピタッと止まった。
学食で30分だけ古屋さんと話すはずが、とっくに30分をオーバーしてしまっていたのに古屋さんはのこってくれていた。
そして、最後に送信したのから15分ほどだって。
店長から、私につい頼って甘えすぎていたこと。親御さんに心配させてしまって申し訳ないとの謝罪と。
バイトをやめることを了承したことが送られてきた。
「てっきり、またしつこくやられると思ったのに。なんで……!?」
「大人が介入してきたらややこしいと思ったんじゃないかな。親に実際は話す必要はないけれど。こんな感じで、親を引き合いに出すと大人が引くことが結構あるよ。それじゃぁ、お互い2月いっぱいまで一緒にバイト頑張ろう!」
古屋さんはそういって私に親指を立てて笑うと、腕時計で時間を確認すると、予定をオーバーしていることに気が付いて。
ヤバッとつぶやいて立ち上がった。
テスト期間中、私はいつ店長からまた、今日やっぱりシフト入ってもらえない? と連絡がくるのではないかとびくびくしていたけれど。そういう連絡はなかった。
バイト仲間のグループラインでは、バイト仲間から私がでないことっで、きつい~とか忙しい~とかは着ていたけれど。
テスト期間中だしごめんと送ると。
そうだよね~とあっさり終わってほっとしてテストに打ち込むことができた。
テスト期間がおわってすぐ、バイトにむかったのだけど。その足取りは重かった。
あって、直接なにか言われるかもって考えてしまって……
ちょうど古屋さんもテスト終わりだから当然シフトにはいってて、見知った顔をみてほっとする。
新年会シーズンでひと段落していたバイト先は、テスト期間が終わった大学の生徒のお疲れ様会でそこそこ込んでいた。
1月終わりからテスト期間がある学校は、数日前にテスト期間があけたようで。
私がテスト期間で休んでいる間、フルでシフトに入ってくれた専門の子や短大の子が3日前から本当に忙しかった~と言っていた。
私はというと、バイト仲間の子に。
実は今月いっぱいでバイトをやめることにしたとさっそく告げた。
なんていうか、周りに言っておかないとなかったことになりそうな気がして怖かったから。
「テスト期間中もバイトに出てくれないかって連絡が親にみられて、やめるようにいわれちゃって。突然なんだけど。私2月のシフトいっぱいでやめることになったんだ。今ままでありがとうね」
どういった理由でやめることになったのか。
突然でごめんねってこと。
そして今までのお礼。
それは今まっでやめていった人たちが私に言って
きたことだった。
実際に私は親に言ったわけではない。
だけど、古屋さんが作ってくれた理由を大義名分にして、私は周りにそういった。
更衣室で着替えて店を出ようとすると店長が声をかけてきて。私はドキッとした。
古屋さんは早上がりでもう帰っちゃった。
どうしよう。なんて言おう。
だけど店長が私に言ったのは引き留める言葉じゃなかった。
「お父さん結構怒ってる? そういうつもりじゃなかったけど、結果として心配かけさせてすみませんって謝ってたこと伝えてもらえるかな?」
私はそれにうなずいて。
「おつかれさまです」といって店を後にした。
連日重たかった足取りはすごく軽かった。
2月末。
私と古屋さんはバイトを予定通りやめた。
バイト仲間と店長に挨拶して。想像していたのと違うずっとずっと違う穏便なやめ方だった。
後日私と古屋さんはクリーニングしたエプロンを一緒に返しに行った。
源泉徴収票は、今の住所に12月の頭に送られるから、住所変更した場合は連絡頂戴ねとだけ言われて。
私はバイト先を後にして、そして先にやめていった人と同じように、もう必要ないと入っていたSNSのグループを退会した。
「古屋さんありがとう! あの今度お礼にご飯おごらせてください」
私はそういって頭を下げた。
古屋さんがバイト辞めるときは、こんな風に自分もバイトをやめるとは考えてもみなかった。
あれだけSNSの通知音がなると気持ちが重かったけれど、今はもうそれもない。
「社交辞令じゃないって信じてるね~あっ、バイト先のグループから抜けちゃったから連絡先わからないし交換しとこう」
こうして、私は友達が一人増えた。
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