私と友達
第1話 気分新たに
「後ろはこんな感じで大丈夫ですか?」
二つ折りの鏡を広げて、正面の鏡では見えない後ろがどんなふうに仕上がったのかを担当美容師さんの
ブラックバイトのせいでなかなか美容室にいけてなくて、伸びっぱなしで形が定まっていなかったボブヘアはスッキリとしたくびれショートになっていた。
首の辺りがスースーする感じは初めてで多少違和感があるものの、鏡に映りこむ仕上がりに私は大満足だった。
「いい感じです。春からはこの髪型でいろんなアクセつけて楽しもうと思ってるんですよ」
短くなってスッキリした首回り。
胸もとにネックレスもいいな、でもイヤリングなんかも可愛いだろうな~
今からどうしようかと心が躍る。
「あ~わかりますよ。私もついピアスいろいろ買っちゃいますもん。ただ維持に結構小まめにきてくださいよ。1か月に1度は来てもらわないと綺麗な形が意地できないので」
私と同じ、くびれショートの茜さんはそういって鏡越しに金色の大ぶりのイヤリングを指さした。
かわいい。そうそう、こういうおしゃれしたかったんだよ私!
かわいい髪型になって、つい足取りも軽やかになってしまう。
とりあえずテストは最初に受けたのはかなりギリギリだったけれど、後はなんとか良もまざる結果にほっとした。
2月いっぱいでバイトも終わって春休みだし、そうなると友達ともせっかくだから遊んでおきたい。
そんなことを考えられるのも私、石井
きっと、辞めていなければ予約がいる美容室は先延ばしになって、今もきっとずっと前にカットしたボブヘアがタダ伸びたような髪型をごまかすように一つにシュシュで縛って過ごしていたことだろう……
それだけじゃない。
3月は大学も休みだからとこれ幸いと言わんばかりに、ランチのシフトも入ってほしいってバイト三昧になっていたと思う。
そう思うと、今はこの場にいない古屋さんがいそうな方向に向かって拝んでしまう。
それくらい、バイトをやめた私はすっきり清々した気持ちになっていた。
バイトの収入はなくなってしまったけれど。
ガッツリシフト入っていたことで、給料もまとまって支給されていたし、何より遊びに行く暇がなくたまっていくばかりだった貯金が多少ある。
嫌な店長のいる、つまらないしんどいバイト先から解放された気分はかなり爽快で。
バイトをやめた次の日髪を切ろう! と事前に予約して行動に移せるくらい、なんていうか私の中のやる気はみなぎっていた。
古屋さんのようにおしゃれな美人さんになることは難しいだろうけれど、自分なりに今を楽しむことくらいはできると言わんばかりに軽やかな足どりで、久しぶりににバイトのことを考えずに髪を切って、春物の洋服をプチプラでどうそろえるか~と楽しい休日を過ごした。
キラキラした大学生活再び!! と燃える私だったけれど。
久しぶりにいつメンで集まろうと声をかけて集まってはみたもののアレレっとなっていた。
以前私の所属しているグループは以前6人だった。
それが秋の終わりから気がつけばグループは3,3に別れていた。
何かもめたわけた出来事があったわけではない。
今は一緒にいなくなったメンバーとは、大学で会えば挨拶するしちょっと会話もする。
ただなんか自然とお昼を別々で食べるようになって、そこからちょっといつメンって感じではなく、大学の友達って感じに切り替わった。
私もちょうど店長が変わってヨッシー先輩がやめちゃって鬱々としていた時期で。
気がつけば、グループは分裂していて。
今の自分と似たような環境のメンバー同士で別れたという感じだった。
そんな私のいつメンは
希は責任感が強いまじめな優等生タイプ。
春先は黒髪ストレートヘアにフェミニンな格好をしていたんだけれど、今はすっきりとしたパンツスタイルに、ちょっと高めの位置でシュシュで一つにすっきりとしばるのがいつものスタイルになっていた。
裕美はちょっとぽっちゃりで、押しに弱いお人よしタイプ。
裕美はおそらくストレスを過食することで発散するタイプなのだと思う。あえていうことはないけれど、春先よりもすこしふくよかになっている。
そして裕美と同じで、お人好しでおしに弱くて、強くでられると私が折れたほうが楽ってなっちゃう。
ストレスがかかると食べれなかったり、よく眠れなくなるタイプの私の3人でつるむようになっていた。
私たちには、ブラックバイトっていう共通点があって。
いつの間にか6人グループが穏便に分裂して3人になってからは、昼食時はもちろんちょっと会った時も、お互い愚痴を言い合ってストレス発散して、皆でバイトがんばろ~みたいな感じになっていたし。
ほんと、この昼食時愚痴を言う時間が私にとってかなりのストレス発散の貴重な時間になっていた。
テスト期間が終わって休みに入ってからは、これで最後だ~とばかりにバイトに打ち込んで忙しくて、声をかける余裕がなかったんだけれど。
私は希と裕美に久々にランチでもしようと呼び出した。
あつまってちょっとご飯でも食べながら、旅行の予定がたてられたらいいなと思ったんだけれど……
「もうちょっと聞いてよ~」
私が髪を切ったことには触れられることはなく、当たり前のように始またバイト先の愚痴。
以前であれば、わかる~私も! となったところだけれど、バイトをやめてしまった私にとっては、そのつらいことはすでに過去のことになってしまっていた。
話すとスッキリする気持ちは痛いほどわかる。
私も二人に話をきいてもらってスッキリしたし、がんばろう! つらいのは私だけじゃないと思ってやってきた。
同じ悩みがあって、相談できて励ましあうことができて、本当にかけがえのない友達だと思っていたんだけれど。
今私がバイトをやめたことで、愚痴をただ一方的に聞きながら食べるご飯の何とも言えない味に私は困惑していた。
つい一週間ほど前までは、間違いなく私は目の前にいる友達と同じように愚痴をいって、ご飯をたべてそれでスッキリしてまた明日から頑張ろうって思ってた。
「お母さんから成績のこと言われちゃって……」
ため息をついて希は、私と同じようにテスト期間でもバイト先はお構いなしにシフトが入れられた結果テストの成績が芳しくなかったこと。
単位こそ落とさなかったものの、らしくない成績に親が心配の連絡を沢山くるようになったことを愚痴り始めた。
「希はまだいいよ。私一つ不可があったから、再履修考えないとだし。4月の履修登録どうしよう」
裕美も同じようにテスト期間中にバイトに出るように頼まれたり、バイト先から確認の電話がきた影響がでていた。
私も最初2日のテストは、まさに可ばかりだったし。落としたかもって思った科目もあった。
古屋さんと話して、バイト辞めると告げてからは、テスト期間中シフトはいって連絡もなくなり、その後は優こそないものの良が並ぶ結果にホッとしていた。
なんていうか、二人の結果はまさに私がバイトをやめなかったらどうなっていたかの見本だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます