第11話 大ごと

「今頭の中がぐちゃぐちゃなの。少し待って」

 麗奈はすごくうろたえた顔で何度も何度も髪をかき上げるしぐさをした。

 


 麗奈の気持ちはよくわかる。

 だって私もホテルでエステを受けたとき、麗奈から紹介してもらった500円のエステとの違いにパニックになったからだ。

 エステに誘われた相手が、あまり絡んだことがない相手だったら今回くらい気持ちは取り乱さなかったんだと思う。

 私だっていつメンとしてつるんでいて、夏休み一緒に旅行して、ご飯食べに行ってワイワイする麗奈だから信頼してエステを受けたわけで……

 麗奈だって、もし誘ってきた相手が普段はあまり絡んだりしない人ならば、警戒していてコース契約をもっと慎重に考えたと思う。



 だから麗奈を誘ってきた相手もおそらくだけど……

 あまり絡まない子ではなく、サークルでもそれなりに付き合いがある仲いい子だったんだと思う。

 そんな親しい子が、価格と施術が見合わないところを紹介していたという事実のダメージは計り知れない。



 麗奈があれこれ考えている間に私はドリンクバーをとりにいって、自分の分と麗奈がよく飲む炭酸ジュースを入れてもどってくると、とりあえずスマホだけは返してもらって麗奈が落ち着くまでスマホをさわりつつドリンクを飲んで待った。


 30分ほどたつと、麗奈がようやく口を開いた。


「実来、私が加害者になるかもしれないっていった意味ようやくわかったかも」

 そういって麗奈はジュースを半分くらい一気に飲んでテーブルにグラスを置くと話を始めた。



「このエステおかしいかもって私が紹介した友達が後から知ったら、絶対今の私みたいなパニックになったと思うし。契約が解約できないって解ったら、紹介した私も大変なことになってたかもしれない」

 麗奈の声は震えてきて、何度も髪をかき上げるしぐさから動揺を取り繕うことすらできないのは明らかだった。

 それでも、麗奈は気持ちが落ち着かないだろうなか、私に話を必死に続けた。

「私の態度から解ったと思うけど、実来がクーリングオフの話をしてきたときカチンときたの……」

「私が麗奈と同じ立場でも、いきなり私みたく言われたらカチンときたと思う。ただ、クーリングオフは期限が決まっていて。後1時間ほどしか時間がないって思ったらゆっくり麗奈に説明する時間も惜しかったんだ」



「私をエステ誘った大学のサークルの子ってのはさ。高校の時からの親友だったんだ。当然今も旅行も一緒に行くし、ご飯だってしょっちゅう行く。前の彼氏の恋バナも今の良い感じの人の恋バナも相談してるそんな仲の子が私を騙すはずないでしょってまず思った」

 私が思った通り、麗奈にエステを紹介したのは、あまりかかわりがない子ではなく。それこそ、密に麗奈とかかわっている相手だったのだ。

 麗奈の話をさえぎることなく、私はうなずいて相槌をいれる。



「正直な話、実来より親友のことを信頼して……た。実来と同じグループになったのは最近の話でしょう。だから何言ってんのって思って、怒りに任せて電話を切った」

 仲いい子を信じたい気持ちはすごくわかる。

 今回の怖いところは、麗奈が取り乱すように。実際に話を持ち掛けてきた相手が自分と本当に親しい人物だってことなのだ……



 それに麗奈とは友達だけど、人によって話すこと、話さないことってのが仲良さとかで決まるのはお互い様だからこそよくわかる。

 私は麗奈と二人でどこか行くのはまだどこか気まずい。グループなら遊ぶ子って感じだし。


「少し時間が経つと、実来の言ってた加害者になるってことがすごく引っかかった。親友と実来だったら親友を信頼しているけど。実来とは揉めたわけじゃない。私にわざわざそういうことをいう理由はないって何度も言い聞かせて冷静に判断しなきゃって思った。女友達といると、にそうしないといけないときあるでしょう?」

 ここで、麗奈と希の違うところがでた。



 希は問答無用で私をシャットアウトして、その後一切無視を貫いているのに対して。

 麗奈はどちらが信頼できるかの答えははっきり出ているからこそ、私の言葉に腹を立てたけれど。

 そのまま私の言葉を無視していいのかを、私がいった加害者って言葉のインパクトもあって冷静に考えようとしたのだ。



「納得はできなかったけど。クーリングオフについて調べてみたら、もう私には時間がないし。思うことはいっぱいあったけど、とにかく解約に向けて動いたほうがいい可能性があるなら、動いたほうがいいかもって思った。正式にお金が返金されるまでは安心できないけど。とにかく解約したってわけ。ただ、なんで……なんであの子が私に……」

 そう、お金が戻ってくるまでは安心できない。


 麗奈は自分を紹介してくれた人を信用していたこと、そんな子から持ち掛けられた話だということが割り切れないようで、言葉を選んでそのことを伝えようとするけれど。動揺しているのだろう、麗奈には珍しく言い回しや仲良さの具体的なエピソードをかえて、同じような話がループする。



「私は麗奈に紹介してもらうまで、エステって行ったことなかった。だから連れて行ってもらってカウンセリングしてもらって、本格的って思ったよ。麗奈の親友の子も私と同じだったんじゃないかな? 他を知らないから、ここはいいぞって好意で紹介してくれたんだと思う」

「そうなのかもしれないけど……」

「それに、500円の紹介ができるのって、コース契約をした人だけでしょ。麗奈の親友はまだ気が付いてないけど。友達にいいと思って自覚なく紹介した加害者であり、他を知らないから高い契約金を払った被害者なのかなって」

 紹介してくれた子はあくまで、自分自身も誰か本当につるんでいる仲いい子に連れて行ってもらっていいと思って契約をしていて。

 そして、施術をうけていいと思っているから善意で仲のいい子を連れて行っているはずなのだ。



「そっか。そうだよね。そういえば、あの子もコース契約をしていたから、私を500円で連れて行けたんだったわ」

「始まりは誰からなのかは、私にはわからないけど。私がいつメンの麗奈に誘われて、麗奈は高校のときからの親友から誘われたように。そのこも全く知らない子じゃなくて、ある程度仲いい子に誘われたから契約して、疑うことなく麗奈を誘ったんだと思う!」


 麗奈が割り切れないのは、誘ってきた人があまりにも自分と身近な、信用するような相手だったのだと思う。


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