第10話 麗奈
麗奈になんとか連絡を取りたかったけれど。
SNSに既読もつかないし電話も通じないまま。
クーリングオフの締め切りである郵便局の受付時間17時は悶々としている間にあっという間に過ぎた。
これで、麗奈はクーリングオフできなくなった。
怒らせないようにと思ったのに、時間がなくてまたも私は希相手と同じことをしてしまっていた。
今のグループは麗奈が中心。
麗奈と揉めれば、私はもうこのグループにはいれないかもしれない。
はっきりと言われることはないと思う。
なんていうか、私が誘われないことが増えてきて、自然とグループから省かれる感じだろうか……
どう考えても今グループにより必要って白雪ちゃんと朋ちゃんが思っているのは麗奈で私じゃない。
そんなこと言われてないけれどわかってる。
やっちゃったな。
勢いに任せて、くだらない正義感振りかざしちゃった。
沈黙していれば、何の問題もなかったのに。
絶対感謝される保証はなく、むしろ疎ましく思われる可能性が高いことをついつい口を挟んでしまった。
ベッドに寝転がったまま、見慣れた天井を私はじっと眺めていたその時だ。
麗奈から電話がかかってきた。
もう電話なんかかかってこないと思っていた。
希とは本当にそれっきりだったから。
「麗奈!」
「納得はしてないけど! どうするか考える時間ももうなくて、実来から加害者になるなんていわれたこともあって。とりあえず実来のいうことに従ったから。ただ、どういうことか納得するまで話をしたいからちょっと今から出てこれる?」
「従ったってことは、クーリングオフのはがき出したんだよね!」
「……出したよ。まだ納得はしてないけどね」
「よかった……」
もう駄目だと思ったけれど、私と電話を切った後。私から解約を勧められたことが心に引っかかった麗奈は、受付の終了時間が差し迫る中、まさかのクーリングオフの手続きに動いてくれたことにほっとした。
心の底から安堵した声が出た。
「ところで、今から出てこれるの? どっち? 実来がクーリングオフしたほうがいいとかいうからこっちは解約したんだからね。納得できる話がなきゃ困る」
「うん、すぐ行く!」」
私は寝転がっていたベッドから飛び起きると、鞄を引っ掴んでアパートから飛び出した。
希は私と話してイラっとしてそのままだったけれど。
麗奈は希とは違い。癪だけど何か理由があるのではとの考えが勝ったのかもしれない。
私は麗奈が待っているってことで指定された私の家の最寄り駅まで走った。
麗奈は不機嫌そうな顔で、駅前に立っていて。
フリータイムでカラオケへと私たちは場所をうつした。
カラオケの部屋に入るや否や、私は振り返って麗奈に詰め寄るかのように質問した。
「本当に、はがき出した?」
「配達記録がちゃんと残るので、コピーもとって出したよ。ほら、これがコピー」
そういって、麗奈は実際に出したはがきのコピーの入った封筒をぱさっとテーブルへと投げた。
連絡がつかなくて心配だったけれど。どうやら麗奈はモヤモヤするものの、ネットでちゃんと自分で調べたのかコピーをとって配達記録が残る形で500円エステに契約解除通知書を今日の消印で出したようだ。
先ほど出したばかりだから、当然支払った麗奈のお金はまだかえってきてはいないんだけど。
とりあえずこれで、間違いなく手続きを終えたことでほっとした。
「解約したことで予約していた子はつれていけなくなったから、エステにはとりあえず解除のことは言わずに、紹介の予約のキャンセルしといた。それで、私が加害者になるかもしれないって何? どういうことなの?」
麗奈の仕事は思ったよりも早かった。
「私実は今日の午前中、友達が当選したペアで受けれるホテルエステのモニターに行ってきたの」
「はぁ? なにそれ自慢?」
「ホテルの高層階で受けれるエステで、ここなんだけど。フェイシャルの値段見てほしい」
私はそういってホテルのエステのHPをスマホで開いて麗奈に見せた。
そこには、写真がいくつか載っていた。
黒を基調とした、500円エステとは比べ物にならない豪華な部屋が映っていた。
「45分12000円?」
値段票をみて、麗奈が読み上げた。
「そう。この写真に載っている部屋で施術してもらえるの。しかも、45分は施術をしてくれる時間で、実際はこれとは別にカウンセリングを受ける時間や終わった後ちょっとお茶を飲む時間が45分とは別にあったの。麗奈がフェイシャルおわったのって、500円払った私と時間がかわらなかったよね」
「ここで? ……うそだよね?」
「それ、ホテルのHPだから麗奈が自分で検索したら出てくるよ。後、私も今日ホテルでエステを受けたときに麗奈と同じことを思って、ずっと頭の中がパニックだったの」
麗奈は私のスマホで今日受けてきたホテルエステのページをみて、すごく動揺しているようだ。
それはそうだ。
私だって、違いすぎるでしょうと始終動揺しっぱなしだった上に。
麗奈は500円で施術を受けた私とは違い、このホテルエステを受けれるだけと変わらない金額の契約を500円エステで先ほどまで結んでいたんだから。
「それで、気になって思い返してみたら。エステって大人の女性が受けるものだと思ってたのに、あのお店にいたのって、私たちと同じ同世代の若い女の子ばっかりだったことに気が付いたの」
私の言葉を聞いて麗奈はごくりと唾を飲み込んで、視線を右上に彷徨わせた。
おそらく、麗奈は今ようやく私のように、お店に来ている他のお客さんのことや自分を紹介してくれた子、他に通っているのを知っている子が何歳くらいかを思い出しているのだと思う。
「同じ金額を払うなら、皆ホテルのエステ受けると思う。だから、エステによく行くような人は、500円エステの客にはならない。せいぜい1回連れてきてもらっておしまい。だから契約するのは他のエステを知らないような若い女の子ばっかりじゃないかなって思ったんだ」
言い返されるかなと思っていたけれど、麗奈は言い返さず。
「……確かに」
と肯定の言葉をこぼした。
「500円で友達紹介できるのは何かしらのコース契約をした子だけ。他のエステ行ったことがあって、ここおかしいと思ったとしても……すでに高額な契約をしている友達にこのエステおかしいと思うなんて普通は言えないし、言わないでしょ」
私がそういうと、麗奈はうなずいた。
「だから私も、もし麗奈のクーリングオフの期限が過ぎてたら。今度また集まって遊ぼうよとか全然関係ない話をするつもりだった」
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