第13話 恋のけじめ

 古屋さんとの電話を切って、まず初めに私がしたことは……


 綺麗なバスタオルの用意だった。

「はぁ~」

 大きなため息をつくと、それが合図のように目からボロボロと涙がこぼれた。

 ばふっとバスタオルに顔をうずめて、私は声を押し殺して泣いた。



 ヨッシー先輩がバイトを辞めて、もう会えないって時は寂しいし。この恋愛はもうおしまいだろうなと思っても泣かなかった。

 でもリリコちゃんと付き合っていることが確定した今、確実に失恋したことを理解した私は涙がこみ上げてきた。



 頭によぎるのは、『さのさの』でのバイトの日々。

 初めてするバイトはすごく緊張していて、ドキドキしていた。

 一緒な時期に同時採用されたリリコちゃんと、一番人が少ない火曜日のシフトに入って。

 そこで仕事のやり方を教えてくれたのが、ヨッシー先輩だった。


 長身の塩顔イケメン。こんな人と絡んだことないんだけどと思う私をしり目に。

「どうも吉田です。ヨッシーって皆から呼ばれてるかな。年は一つしか違わないから気軽に聞いてね」

 名札に書かれたヨッシーという文字を指さして、気さくに自己紹介してくれた。

 ニコッと笑うと片方だけエクボがでて、片方だけエクボあるんだって思ったことを今もよく覚えてる。

 それが私とヨッシー先輩の出会いだった。



 人見知りする私も話の輪に入れるように配慮してくれて、この先輩神!? と思ったこととか本当に懐かしい。


 居酒屋の都合上ちょっと厄介な絡むタイプの客がいて、嫌な思いをしてどうしようって思ってた時に、『代わりに俺が行くから』ってされてからは。

 いい先輩から、気になる先輩に変わった。



 バイト休みのメンバーでご飯にいって、バイト休みのメンバーで遊びに行ったりもした。

 すごく楽しくて、私なりに初めて男の人と沢山話せて。

 もしかしたらこのまま遊びに行くうちにもっと親しくなれるかもなんてこと思ってた。



 でもヨッシー先輩が選んだのはリリコちゃんだけだった。

 私と同時期に入ったリリコちゃん。

 一緒にバイト仕事の説明をヨッシー先輩から並んで聞いたのに……

 ヨッシー先輩が選んだのは、私じゃなくてリリコちゃん。



 

 ヨッシー先輩のプライベートの連絡先――私知らなかった。

 ヨッシー先輩が辞めてから、前ほどバイト先が楽しくないなとは感じていた。

 楽しいメンバーが順番に辞めて行った後は、学業に影響が出るくらいバイト入る羽目になって、本当に私悩んでて、それでも……



 ヨッシー先輩がバイトを辞めて、バイトのメンバーのSNSからぬけちゃってから、当然連絡はもう取れなくなって。

 私は助けてってことも言えなかったし、悩み相談もできなかった。

 ただただ、資格取得して落ち着いたらまた戻って来てきてまた楽しく一緒に働きたいとか……



 すでにヨッシー先輩とリリコちゃんが別のカフェで働きだしたとも知らずに、ずっとずっと思っていたことが腹正しい。




 リリコちゃんは悪い子じゃない、一緒に働いている時もいい子だった。

 だけど思ってしまう。

 リリコちゃんだけズルいって。



 リリコちゃんだけ、ヨッシー先輩とプライベートの連絡先交換してるなんて知らなかったし、知りたくなかった。

 リリコちゃんだけヨッシー先輩が辞めた後も店長のこと相談して、それで『さのさの』をやめた後は、ヨッシー先輩がいる楽しいバイト先に移動って何なの?

 残された私がどんな思いで働いてたと思ってるの?


 リリコちゃんが悪いわけじゃない。

 悪いわけではないとはわかっているのに、どうして同じ時期にバイト先に入ったのに、リリコちゃんだけは助けてもらえて。

 私は助けてもらえなくてずっとつらい場所で我慢してたんだろうって思いがこみ上げて止まらない。



 そして、理不尽過ぎるけれど。

 リリコちゃんはすごく可愛い。

 でも、私はどう頑張ったとしてもリリコちゃんほど可愛くはなれない。


 リリコちゃんと同じようなことをしているだけじゃ、私は今みたくまたなる。


 古屋さんは言ってくれた。

 恋愛の仕方を知らないだけって……


 かわいいリリコちゃんと同じことしているだけじゃ、むなしいけれどかわいい子には絶対勝てない。


 なら私はどうすれば、ヨッシー先輩と恋愛フラグがたったのか。

 そこを考えて動けるようにならない限り。

 リリコちゃんみたいなかわいい子は、困ったときに誰かが助けてくれても、私は助けてもらえないみたいなことがまた起きる。




 そうならないためにも、今回のことはめちゃくちゃ悲しいし、悔しいし、むなしいし、腹も立つし、いろんな感情がわくことが止まらないけど。

 


 私は今のままだとどうたったのかを受け入れて、時間をかけて少しずつ絶対に変わらなければいけないって強く思った、失恋した夜だった。



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