第8話 もしかしたら

「あった! えっと、未成年者契約の取り消し? ってのがでてきた」

 そして、書かれていることを古屋さんは読み上げた。


 未成年者。

 令和4年4月以降18歳未満は、成年者と比べ取引の経験や知識が不足し、判断能力も十分ではない。

 そのため未成年者が契約をするときは、原則として法定代理人の同意が必要となる。

 未成年者が法定代理人の同意を得ずに結んだ契約は、取り消すことができると民法で定められている。



「古屋さん。これって、もしかしてなんだけど。契約を結んだ時に、今の日付的に18歳未満の場合。後々私たちみたく、このエステ変じゃない? って別のエステにいって気が付いたときに、未成年だったら取り消せてしまうから。契約を法的責任力のある年齢かを確認している?」


「このエステ他のエステと違うよね? ってそれに気が付けるのは、他のエステに行ったことがある人だけなんじゃないかな……。石井さんも私に500円エステすごくよかったって言っていたでしょ?」

 古屋さんの言う通りだ。

 私がおかしいって気が付いたのは、別のちゃんとしたエステを受けれたからで、それさえ受けていなければ気が付かなったはず。





 古屋さんも変な事態に明らかに戸惑っていた。

 それもそのはずだと思う、500円エステに行っているのは、私の友人だけではない。

 古屋さんの友人もだし。

 麗奈はサークルの人もっていってたし、朋ちゃんのバイト先の人なんかは他大学の子のはず。

 思っているよりも多くの子がそこに行っていることになるし。


 逆を言えば、ちゃんとしたエステに行ったことがあるならば、絶対にここで契約をしないんじゃないだろうか。

 同じお金をはらうなら、わずかな差ならともかく、すごく大きな差があるならよりいい方に行くのは当たり前。



「思い返せばなんだけど。エステっていろんな年齢の人が行くよね」

「うん。むしろお金がない大学生の私たちじゃなくて、今日のエステの感じ的にお金があるキャリアウーマンとかマダムが中心に行くと思った」

「500円エステでは受付で何組かお客さん見たんだけど。皆私と歳が変わらないような見るからに若い子ばっかりだったの。500円だからかなと思っていたんだけど。普通いいエステだったら、もっと年を重ねた人もくるよね。少なくとも今日受けたエステだったら絶対来てると思うの!」



 違和感の正体にさらに気が付いた。エステに一番いきそうな世代の人が誰一人として客としてきていなかった。

 その理由は簡単だ。

 エステに行ったことがあれば、あんなしょぼいエステで1回12000円ってのに、多分騙されないのだと思う。



「私にエステのこと進めてきたのって、皆同世代くらいの子ばっかり。年齢が上の人とはあんまり接点がないってのもあるだろうけれど」

 私の話を裏付けるかのように古屋さんがそういった。



「これって、詐欺……なのかな?」

 詐欺なんてこれまで、テレビの中やネットの中だけでおこることで。

 身近でそんなこと起こったことないし、自分たちの身近な人がいざ被害者になるだなんて考えてもみなかった。

「買ったけれど、施術が受けれないってわけじゃないんでしょう? 他よりも明らかにしょぼいとはいえ、サービスが提供されてるとなると詐欺とは言えないんじゃないかな? 飲食店であの店よりもおいしくないからって理由で返金はできないじゃない」

 そう、相手はサービスをしないとはいってないのだ。



 それに私は500円エステで受けたサービスをすごいと実際思っていて、疑っていなかった。他のエステに行くまでは……




 おかしいってせっかくわかったのに。

 なら、下手にいろいろいって、不安をあおるよりかは、知らないほうが麗奈も幸せかもってときに、古屋さんがいった。



「クーリングオフだっけ? たしか契約して何日間かは契約を取り消せるみたいなやつあったよね? 高校の時にちらっと習わなかった?」

 私は慌てて、検索する指が震えてもたつく。

「習った習った! えっと……契約書面を受け取ってから8日間まで! えっと麗奈は確か契約してすぐ私を誘ってくれたから、今ならまだ8日経ってないかも」

「うーん」

 もしかしたらと思う私とは反対に古屋さんの顔は晴れない、古屋さんの友達は8日をとっくに超えているのかもしれない。



 麗奈に急いで連絡とらなきゃと思う私に、すごくまじめなトーンで古屋さんが話し出す。

「8日以内ならセーフだけど。8日過ぎてたらアウトだよ。すごく親しい子なんでしょう。契約解除できない段階で、そのエステヤバいとか言われたらトラブルにならない?」

 古屋さんの言う通りだ。




 私はすでに過去に余計なおせっかいをして、いつもつるんでいた希とは今や連絡を取らなくなってしまっている。

 しかも今回は安くないお金がかかわっている。



 麗奈が契約してるエステおかしいよなんてい言えば、気を悪くする可能性が高い。

 いいと思ったのだから、紹介してるに決まっているし。



 それに500円で紹介できるようになるのは、コースに加入した人だけ。

 もし誘った子の中で、普通のエステを知っていたとしても、相手はすでに〇〇万円の契約をしていて、すでにクーリングオフできないとなると……


 自分が12万もの大金を出して契約したものが、質の悪い物だと私がつきつけてしまうことになる。

 だから古屋さんの言う通り、麗奈に余計なことをいって、希の時のように買わなくていい恨みを買うよりかは。

 見てみないふりをするのが正解なのかもしれない。




 でも遅かれ早かれ他のエステに行けば遅かれ早かれ知ると思うのだ。

 前は知らなかったけれど、今ならあのエステおかしかったんじゃってことが。

 そして、私から聞かなくても。誰か空気読めない子がおかしいんじゃないって言い出せばきっとばっと広がって現実と直面することになるだろう。



「古屋さんありがとう。私突っ走って思わず麗奈にいっちゃうところだった。クーリングオフの期間が過ぎていて、解除できないのに。施術が金額に見合ってないとか知ったらショックを受けたと思う。とりあえず、それとなく契約日からどれくらいたったのかをきいてから、話すかどうか決めようと思う」

「わかった、それがいいと思う。もし間に合えば儲けものだし。解約の理由も親にばれて反対されたとか石井さんの友達も周りにもいえるだろうしね」




 麗奈はいつメンだ。

 グループの中心の麗奈とトラブルになると、グループにはいられなくなる。

 でも、友達としてヤバいと思う私は、前みたく変に正義感を振り回すのではなくて。

 事前になんて話すかを考えて、麗奈に切り出すことにした。


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