第13話 表ざた

「実来になんで声をかけたかわかってると思うけど。例のエステのことでちょっと話したくてさ……、最近ようやくおかしいんじゃない? とか。解約するとき解約金がとられるとかトラブルの話がでるようになったの知ってる?」

「私のバイト先でもお盆くらいにエステ500円でいかない? ってやる子がでて。それで実際に契約した子が何人かいたんだけど。ちょっと前から、価格に見合ってないんじゃないか? ってちょっとトラブルの話を愚痴ってきてたよ」

 予想した通り。

 やはりこのエステは価格に見合ってないってことはとうとう表ざたになり始めたのだ。

 そうなったことで紹介してくれた子と紹介された子でいざこざが起こり始めていた。


 恐ろしいことに。

 被害者は最低でも12万円という大きな金額のコースの契約をしている。

 更に1本6000円というエステ監修の化粧水なんかの話もしていたし、そういったセットまで買った子のことは考えたくもない。

 エステの質がわるいなら、当然売られている化粧水も価格に見合ってないのでは? と考え出すからだ。



 しかも自分を誘ってきたのは、それなりに今も交流があるような仲のいい子。

 そして自分も今も交流している仲いい子をそんなところに紹介したと考えるとゾッとする。

 とんでもないドロドロで取り返しのつかない大きな自体へと変貌を遂げているのは明らかだった。





「少し前から大学の教室にいても、どこかしらかからそういうトラブルの話を耳にするし。サークルや私のバイト先はもう少し前からごたつきだした。私地元がここだから、大学生になってから知り合った子だけじゃなく小、中、高の繋がりでも大変なことになってる……」


 私は地方からこっちにきて、一人暮らしをしているから。

 麗奈とは違い、こちらにきてから大学やバイト先で知り合った子しか付き合いがないからいいけど。

 麗奈は本当に参っているようだった。


「それは……なんていうか……」

 もう、なんて言えばいいのかわからなかった。

 大学のいつメンのように、まだ皆が被害にあっていなければ、そのエステおかしいよって言えただろうけど。

 すでに契約していて解約できない子がいるような場では、あえていって自分が恨まれ役などなりたくないから言えない。

 麗奈はおそらく、被害者がどんどん増えていくのを、こうなるとわかっていて知らんふりを続けていたのかもしれない。

 解約できない人の怒りの矛先とかになって、自分の人間関係がややこしくならないために……




「今更なんだけど――実来のことすごく感謝してる。クーリングオフの期間に間に合ったから。私が損したのは、せいぜいはがき代くらいで500円もいかない。何より、自分の友達を紹介しなかったから。今ごたごたの蚊帳の外にいれる。加害者にならなくて本当に本当にホッとしてる」

 麗奈は深く深く頭を下げた。



「私もあのとき麗奈が希のように話を聞いてくれなかったらどうしようって思ってた。とにかく私の話に耳を傾けて解約に動いてくれて本当によかったと思う」

 麗奈に電話を切られたときは、希にバイトをやめることを言った時のように、もうこのグループでいられなくなるかも。失言をしたと思っていたのだ。

 イラっとしても、私の話を麗奈がきいてくれたから。私たちのグループは、ごたつく周りの中。安全な位置から見ている第三者としてすんでいる。


「あの時は本当にごめん。私の周りじゃ今、ホント物騒な感じになってるんだ。詐欺なんじゃないか? って話もでてる。返金を願いでも途中解約になると、まだ10回とか回数が残っていても、解約金がかかるらしくて2万ほどしか戻ってこないらしいんだよね……」

「10回残っていて、たったの……2万!?」

「うん。解約金とか話されなかったと思うんだけど。契約書をよく見たら、しっかり小さい字で書かれてて。弁護士や親に相談した子もいたみたいだけど。契約書に不備はないし、加入にあたって強要してないって証拠もでてきたとかで泣き寝入りになっててさ」


「うわぁ」

 っと思わず麗奈の話しに声を出してしまった。



 今回の詐欺といっていいかわからない事件は。

 古屋さんと話していた通りのことになっていた。


 そもそも、施術内容は契約の前と後で変わっておらず。

 契約者は、お試しを受けてもらって納得したから契約をしているし。

 エステの人からの強い勧誘は一切なく、その様子の証拠があったようだ。


 施術自体は、他のエステと比べると時間も短く、設備などもしょぼいにも関わらず、お金を払ったのに受けられないというわけではないから詐欺として立件はできないそうだ。

 おそらく最初から施術の内容はしょぼいとわかっててやっているだろうことだから、当然契約書には一切の不備もあるはずもなかった。



 おまけに、契約者たちは高校を卒業している18歳以上で、成人者が納得して結んだ契約が途中で無効などなるはずもなかったそうだ。

 

 年齢確認のためって学生証の提示を求められたことがふっと思い出された。



「落ち着くのは当分かかりそう……」

 麗奈は悲しい顔でそういった。




 今回のエステの問題は、詐欺なんじゃと多くの人は思ったようだけど。

 結局今の法律では今回のようなことを取りしまることはできないそうで、これがいわゆる法律で裁けないから、警察は動くことができない、限りなく黒に近いグレーゾーンってやつらしい。



 最終的に私の通っている大学側も生徒にお試し500円のエステでの返金、解約などのトラブル相談が多く大学に寄せられていることについて、在籍するすべての生徒にメールでの注意喚起を促すほどの大ごととなった。


 エステを受けるために実際ローンを組んだ子、効果がどれだけあるかわからない化粧品を買ってしまった子など。

 本当に多くの被害者が私が通っている大学だけではなく、近隣の大学、短大、専門学校この辺りのバイト先で働いている同世代の多くがグレーゾーンの被害にあった。



 まだ今の私は知らないが、これだけ大ごととなったエステは、3年半後。おそらく契約者の大半がコースを修了した時期に、しれっと店はなくなったのだった。





 

 

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