第3話 遅刻する子

 そう考えるとそうとしか思えなくなる。


 だって……グループが分裂してからはSNSの6人でしていたものは、ほぼ動きがなくなった。

 分裂後3人で新たに作ったものは、たまに授業の質問がある程度で、後はスクロールしてもしても、愚痴や不満、不安が並び、それを慰める会話が続いているだけ。

 楽しいことへの誘いなんか皆無だ。



 希と裕美は悪い子じゃない。

 悪い子じゃないんだけれど、二人とずっとこれからも愚痴をきいて過ごすのかと言われると、それは楽しくないのではと思ってしまうし。

 遡っても遡っても楽しい話はでてこなくて愚痴だけのSNSをみて私は不安になった。



 ちょうどその時、お礼にご飯をおごるって連絡していた古屋さんから。

 前言ってたお礼、明後日空いてたらランチどう? っときて、私はタイミングのいい連絡に飛びついた。





 古屋さんは時間通りにやってきた。

 ミルクティー色の髪は今日は御団子にされてて。

 グレーのカラコンに、何をぬっているのかわからないけれど、春色でぷるんとした唇にどきっとした。

 この前の私であれば、しばらく美容室に行けてない中途半端な髪型と適当な服装で並んで歩くのが恥ずかしくなるところだったけれど。

 スッキリと整えてもらったくびれショートに、300円均一だけど厳選して購入したお気に入りのイヤリングを合わせてこの前よりも恥ずかしくない気持ちで古屋さんの目の前にたった。

「お待たせ~、髪切ったんだ。すっきりしていいじゃん」

 たったこれだけだったけれど。

 やっと言ってもらえた言葉に、なんだか、そうそうこういう中身のないのでいいんだってと思ってしまった。

 本当に似合っているとか思ってくれなくていいんだけれど、ちょっと触れてほしいそれだけなの。

「それ~、古屋さんもお団子新鮮」

 この前は髪のことに触れられることなく、愚痴大会が会ってそうそう始まってしまったのだ。

 ただ、私はこういう中身のないやりとりがしたかっただけなのだ。



「それ~って何?」

 私の謎のテンションに古屋さんはちょっと引き気味だ。

「切ったことに気づいてもらえて嬉しさがあふれてしまって」

「思ってなくても社交辞令とかで言われない?」

 それが、言われなかったとまた愚痴になりそうで私は曖昧な笑顔でとどめた。

 愚痴をずっと聞くのはしんどいかもと、気が付いたからだ。



 古屋さんがここおいしいよ~といったのは、680円で、メインを選べてスープとライスと日替わり小鉢と割とお得なものだった。

 おごるつもりだったから、ランチでもちょっとコース的なのかなとお金を下してきたから、680円と言うのに、古屋さんすごく遠慮したのかなと思ってしまう。

 ただ、ちょっと金額にほっとしてしまう。

 もう遠慮なく食べてだ。



「ここは炒める系がお勧め」

 古屋さんはメニューをこちらに差し出し、そういう何気ない会話を始める。

 春休みだし旅行とかするの? とかね。

 私にすると、こういう楽しい会話を友達としたかったのだ。古屋さんのことは友達といえるのかはわからないけれど。

 1200円もしたパスタランチよりも、断然いまの中身のない話をしながら食べる中華のほうがおいしかった。


 雑談はほどほどに、私は古屋さんに聞きたかった疑問をぶつけた。



「あのね、前『さのさの』って、要領がいい人とかムードメーカーみたいな人がすでに抜けた後なんじゃないかなって古屋さんいったでしょう」

「そんなこと言ったっけ?」

 私にするとかなり響いた言葉だけれど、古屋さんにすると覚えてないようなことだった! というのは置いといて。

 ずばり確信にふれた。



「これってさ……友達関係でも似たようなことある?」

 つい箸をとめて、古屋さんの返事をまった。

 古屋さんは回鍋肉のキャベツを箸でつまんで口に頬りこむと。

「まぁ、それはあるよね」と答えた。



 やっぱりあるんだと私はごくりと唾を飲み込んだ。


「石井さんの周りには毎回遅刻する子っていなかった?」

「中高の同級生でいたいた! 毎回遅刻してくる子」

 約束の時間に必ず遅刻してくる子。ひどい時になると連絡したら、まだ家を出ていなくてってパターンもあった。


 

「なんか、一定の割合でいるよね約束の時間に集まれた試しがない子。映画みたく時間が決まっている遊びだと、やっぱり焦るんだよね。それに注意しても治す気ないんだろうね~。毎回毎回遅れてイライラするからその子とは遊ばなくなったかな」

 注意しても治す気がないという言葉がストンとまたしても、ぴったりとはまった。


「わかるよ。事前に遅刻しないように念押ししても結局遅刻してくるし」

 時間通りにねと事前に念押ししたり、当日も起きているか連絡をしても一向に約束が果たされることはなく。

 待ち合わせ時間を早めに告げるで、最初はちょっとの遅刻くらいでうまくいったけれど、早めに約束時間をいわれていると気づいてからはさらに遅くなるようになった。


「そういう子ってさ怒ったり注意したりすると、なんかムスっとしない?」

 こんな風にと言わんばかりに、古屋さんが不機嫌でーすと言わんばかりの顔になる。

 そういう子にかぎって、不機嫌みたいなのを出してこっちがなんかきをつかっちゃうのだ。

「わかるムスってするんだよね。もしかして古屋さんが言ってる子と私の言ってる子まさか同じ子?」

「私たち別の高校卒!? 怖いことに、こういう子他にも何人もいるんだろうね~」

 私のちょっとしたボケに古屋さんがわらって軽くツッコミをいれてくる。



 グループで遊ぶときも、その子が来なくて待ち合わせ場所で無駄にダラダラする時間が毎回あるのも不満だったし。

 注意してもなんか口だけごめんごめんみたいな軽い謝罪してきて、真面目に注意すると聞けば怒ってないっていうくせに、顔はムスっとする子だった。


「その子がいると、予定通りにいかないし。待ち合わせ場所ですることなく20分も30分も立っているのもったいないと思わない? それに毎回遅刻するのに、仲間外れはよくないって感じで誘う子がいてさ……イライラはしたくないし。その子がいるときはやんわりことわって、他の断った子たちと別のところで遊ぶようにしたらイライラしなくなったんだけどね」



 誘わなければいいなと思うのに、皆に声かけないわけにはみたいな感じになって、結局待つというのを私は何回繰り返しただろうと思うし。

 同時にいつの間にか、誘っても別の予定で来なくなった今はあまり絡みのない友達と古屋さんを重ねてしまって。

「あ~そういうことしてたんだ」

 とつい、そうだったのかと当時解けない謎が解けたような気持になる。

「イライラしたくないもん」

 もしかしたら、その子がくるときはあまり来なくなった友達は、イライラするから他の友達と遊ぶことを選んだのかもと今更ながら過去のことがどんどん浮かび始めて、当時はわからなかったことが見え始めてくる。

 

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