第五話 国立勇武高等学園
「秋楡さ〜ん、お届け物です〜」
郵便配達員のオジさんから、僕に勇武高等学園からの転入試験の案内が入った大きめの封筒が手渡される……あの夜から一週間ほどの間に起きた出来事が強烈だった。
僕は部屋に戻ると、封筒を開けて中の書類や、資料を取り出す……勇武高等学園……設立一〇年という比較的新設校に近い高校で、一般の学生が入学することは絶対にない。
国立、の名の通り日本国が出資している本当にごく一部の
この学校の特殊性は日本国内でもよく知られており、対ヴィランの最前線となる民間防衛企業や、公的機関などにヒーロー候補である人材を送り込んでいて、超エリートだけが入学できる名門校とされている。
一七年前の
だがそれでも……
今僕はその超エリート学校への転入申請書を手にしている、これは夢だろうか? いやそれともあの夜のことが夢だったのだろうか? と今でも悩む。
意味のない
あの後……怪我をして帰った僕を、ライトニングレディは自宅まで送り届けてくれた。
突然の超級ヒーローの登場に本気で驚く両親に名刺を手渡した後、僕が陥った状況を説明し後日警察関係から事情聴取があるかもしれない旨を伝えて、改めて訪問させて欲しいと告げると去っていった。
アルバイト先からの帰宅前にそんなことが起きていた、ということで両親からはかなり心配されていたけど……僕は二度とそんなことがないだろうと伝えてその場は治った。
「千裕君をぜひ我が勇武高等学園へ転校させたいと考えております……千裕君のご両親のご許可をいただきたいです」
そして週末の土曜日に、ビジネススーツ姿でばっちり決めたライトニングレディが再び我が家へと訪問し、恐縮しながらお茶を出してきた両親に向かって、いきなり彼女は土下座をしてこう告げた。
オロオロする両親と、いきなりのことで困惑する僕にあの夜に見せた表情……本当に真剣な顔で、ライトニングレディは一度顔を上げた後、再び美しくも見事な土下座をする。
「……息子さんは、特別な才能をお持ちです。私はその
「で、でも息子は龍使いとかいうなんの取り柄もない
「私が責任を持って鍛えます……いえ、私だけでなく、我が学園で彼を鍛えさせてください。これは私の心からの願いでもあります……どうか……」
あまりに真剣な様子のライトニングレディに、両親が困惑する……僕は彼女の隣に座ってずっと黙っている……本当に僕はやっていけるのか? という自問自答を繰り返しているからだ。
僕は気が弱い、泣き虫だし、すぐに不安になる……怖いことが苦手だ……ホラー映画だってまともに見れないくらいだ……それでも僕は。
僕は前を向いて、二人を見つめて……はっきりと自分の意思を口にする。
「父さん、母さん……僕は勇武に転校したい、だから僕からもお願いします……転校させてください。今後どうなるかわからないけど……僕は強くなりたい」
「千裕……」
「母さん、千裕がこうやって自分の意思を伝えてきたのはいつ以来だっけな……」
父さんが僕の顔を見て何故か少し潤んだ瞳で僕を見ている……父さんや母さんの顔をまともに見たのは久しぶりな気がする。僕はずっと下を向いて生活をしていたから……こんなに歳だったっけ、僕の両親。
母さんと父さんは僕の顔を見て、何か変化を感じたのか一度お互いの顔を見てから頷くと、姿勢を正してライトニングレディに深々と頭を下げる。
「……なんの取り柄もない子ですが……よろしくお願いします」
「で、千裕君はちょー弱っちい……クソ雑魚なのでこれから試験当日まで……鍛えに鍛えまーす」
ライトニングレディが必死に腕立て伏せをする僕の背中に腰を下ろしたまま笑顔で明るく告げてくる……両親のOKをもらった翌日から僕は毎晩近所の公園で筋トレ含めてライトニングレディ……いや本人から普段は千景さんって呼べって言われたので、今後は千景さんと呼ぶが、彼女に計画的に鍛えられている。
千景さんと夜のトレーニングを開始して今日でちょうど……一ヶ月目、試験まではあと二ヶ月ほど時間があるが、毎日……トレーニングは続いており、僕はそのためにアルバイトも休むことになった。
「……死ぬ……死んじゃうよう……」
「死なねえよぉ〜、全然やれるって……まだまだ人間こんなもんじゃ死なない! さあ、千裕君あと二〇回できる、君ならできるぅ! 終わったらランニングに行くぞぅ!」
必死に腕立てを続ける僕に千景さんは獰猛な笑顔のまま、次々とメニューを提示していく……殺人級のメニューをこなさせるのには理由がある。
千景さんがいうところによると、勇武高等学園の転入は試験を伴うものであり、本当に一握りの人材しか転入が許されないのだという。
そこでは学業だけでなく肉体の強さ、
「ほーら、ちゃんとあと二〇回できたろ、君は自分の能力を過小評価しすぎなんだよ……じゃ走るぞー、ついてこーい」
「は、はい……っ!」
千景さんが率先して前を走り始めたのを見て、僕は慌てて荒い息を整えるまもなく、彼女について走り出す……一ヶ月もずっとこんな生活を続けていると、案外慣れてくるもので僕は初日から比べると全然彼女の殺人ペースについていけるようになっていた。
それはまるで今まで想像もしていなかったことだが、水を得た魚のように僕の体は動くようになってきているのだ。
走りながら肉体の変化に少し驚くも、僕は前を走る千景さんにどうしても聞きたいことがあったため、話しかける。
「ライト……あ、いや千景さん……僕はどんな
「違う、君の
「ろ、
僕の言葉に走りながら千景さんは少し黙り込む……だがすぐに彼女は前を走るペースを少し緩めると、僕の隣についてペースを合わせて走りながら、話す内容を考えるように黙り込む。
まるで話していいかどうかを悩んでいるかのような表情だったが、僕の目をじっと見てから意を決したように彼女は話し始めた。
「わかった、訓練は続けながら話してやるよ、アタシのお師匠様……
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