第一八話 勇武高等学園二年生
「えー、クラスにいた秋楡君ですが、勇武高等学園への転入が決まりました、本校へ通うのは今日が最後になります」
「嘘でしょ?」
「嘘だろ?!」
その言葉にクラス全体がどよめくような声に包まれる……先生の隣に立つ僕は、彼らクラスメイトからの好奇心及び敵対心丸出しの視線に晒されて正直落ち着かない気分でいる。
まあそりゃそうだろう……勇武高等学園といえば対ヴィラン専門の超エリート、将来はヒーロー事務所などに所属する人材だけが入学、転入を許される特別な学校だからだ。
「じゃあ秋楡君、挨拶して」
「は、はい……あの、僕は勇武に転入が決まりました。実はライトニングレディから推薦していただけまして……」
「はあぁ!? 超級ヒーローだろ!?」
「なんで秋楡君が!?」
「最近コマーシャルにも出てるんだろ!? どういうつながりだ!?」
「はーい静かに、まだ秋楡君喋ってるよー」
先生が黒板を軽く叩きながらクラスがざわつくのを押さえようとするが、クラスのみんなは複雑な表情を浮かべている……たった三ヶ月くらい前には僕はクラスの人からいじめを受けていて……危ないところを千景さんに救われ、そして僕の本当の
転入試験のための特訓……めちゃくちゃ辛かったけど、千景さんは笑顔で励ましながら僕を鍛えてくれた……初めてのヴィランとの邂逅……ファイアスターターと名乗る凶悪ヴィランを打ち倒すまでの恐怖もまだ強く覚えている。
そして転入試験における模擬戦闘、海棠さんという天才の存在……戦闘中に少しだけ使えた
だけど……僕はまっすぐ前を見て、笑顔を浮かべて三ヶ月の思いを言葉にすることにした、全て現実なのだから、僕は最後まで頑張るって決めた。
「僕、勇武でどこまでやれるか分からないんですが、チャンスをもらえたので頑張ってみようと思っています。これまでありがとうございました」
「
勇武高等学園の校舎、下駄箱入れの前で二人の女子高生が話している……ひとりは茶色く少しクセのある髪型をした少女……制服をラフな着こなしで着崩している。彼女はわざわざスカートの丈を限界まで短く折っており、健康的な太ももと白いソックスが目立つように見せている。
彼女が話しかけている朱里と呼ばれた少女は対照的に黒髪を腰まで長く垂らしたおとなしそうな少女だ……制服はきちんと着用しており、スカートも学校標準の長さになっており、細い脚は黒いタイツと黒いソックスで目立たないようにしているが、そのスタイルは高校生にしては見事なラインを描いており美少女と言っても過言ではない。
そして彼女は背中に長いものを収納しているような、大きな黒いバックを背負っており、手には学校指定の鞄を下げている。
「聞きました、
「へー、
「お前が知らないなら俺だってわかんねーよ、この学校のことはお前のほうが詳しいじゃん……なあ、
伊吹と呼ばれた茶色い髪の少女は横に立っていた、黒髪を短く刈り上げ、精悍な顔つきの木瓜と呼ばれた少年へと話しかける。
少年は伊吹からの言葉に少し考えてから、分からないと言ったふうに首を振って答えると、彼の隣に立っている少し大柄な一月と呼ばれた少年へと声をかける。
彼は黄色いシャツを制服の内側に着ており、制服ははち切れんばかりに膨らんでいるが、脂肪だけではなくしっかりとした筋肉が備わっていることがわかるくらい腕や足の筋肉が盛り上がっている。
「……んー……わかんないな……でも男女二人って聞いてるよ、ひとりはすごい可愛いらしい」
「へー……ねえ
「お前……なんで見てもない相手に対抗意識燃やしてんだよ……それとそういう格好するのやめなさい」
伊吹は木瓜へと少しだけスカートの端を釣り上げるような動作を見せて科を作るが、彼はすぐにそっぽを向いて彼女の方向を見ないようにしてから答える。
この時に偶然にでもスカートの中身でも見ようものなら、容赦無く蹴り飛ばされて有る事無い事を言いふらされるのが一年の付き合いでわかっているからだ。
だが伊吹はニヤニヤ笑いながら見せつけるように木瓜へとにじり寄りながら、スカートをひらひらと動かす……限界ギリギリ、見えそうで見えない、いや絶対見えないように彼女はうまくスカートを揺り動かしている。
「えー、健全な男子なら女の子のココ……本当は見たいんじゃないの? 恥ずかしいけど……見てもいいんだよ? お金取るけど」
「お前の下着見たら金取るんかーい!」
木瓜は思わず条件反射で伊吹にツッコミを入れてしまうが、そのやりとりを見て一月と朱里はお互いに顔を見合わせて、クスッと笑う……。
両名ともに二人のやりとりを一年きちんと見続けており、よく飽きないなとは思っているのだけど、それでも同じ学校に通う数少ない同級生として彼らは非常に仲が良くまとまったクラスになっている。
彼らは勇武高等学園二年生……勇武はその特性上入学、転入には高いハードルが設けられている。
一つはヒーローの推薦が必要なこと……入学生はこの条項は免除されているが、転入希望者はまずここで篩にかけられる……ヒーローが自分の目で確かめ、認めた人材しか希望は出せない。
推薦したヒーローが希望者を鍛え上げることは入学前は許されている……入学後はカリキュラムに従っての教育、訓練があるため、特殊な事情……例えば臨時教員を務める千景や茅萱など以外は在学中の訓練を許されていない。
もう一つは千裕や伊万里が経験した模擬戦闘……勝つことが目的ではないとはいえ、能力の精査、審査は行われており学内で教育をする担当ヒーローが認めた転入生以外は許可を出すことはない。
千裕と伊万里の激闘はある意味センセーショナルな驚きを持って受け止められており、今回の試験では満場一致で認可が出ている。
だが、千裕は教えられていないので全く知らなかったが、過去の事例ではこの試験の通過率は二〇パーセントとされており、かなりハードルが高いのも事実だ。
これらのハードルを超えた上に、筆記試験などの内容や、家族へのインタビューなど転入希望者が知らない場所での調査などを複合的に判断した結果、転入が認められるのだ。
最初から入学した生徒もカリキュラムについていけないものも多く存在しており、仲良く話している二年生四人も入学当初は倍以上の数がいたものの、訓練や勉学についていけずに一般の学校へと転校するものもおり、今残っている四人はまさにエリート中のエリートと言っても良い。
「でもさー、転校生ついていけるかねー……」
教室へと向かう廊下で伊吹が心配そうに口を開く……その言葉に他の三人も頷く……毎日の訓練や勉学に折れてしまい泣きながら転校していった元同級生、大怪我をしてしまい治療のため転校を余儀なくされた者。
彼らの辛そうな表情が瞼に焼き付いている……それ故に無理して明るく振る舞う伊吹や、それに付き合う木瓜、そして他の二人も新しく入ってくる転入生が本当に大丈夫なのか、という心配は常に頭の片隅にあるのだ。
木瓜は少し表情を曇らせた伊吹の肩にそっと手を乗せると、優しく微笑む。
「……まあ、俺たちも転入生のために歓迎してやらないとな……せっかく六人になるんだ、頑張ろうぜ」
伊吹は優しく微笑む木瓜の顔を見て、クスッと笑う……一年生の時は自分がついていくので必死で、周りの同級生が苦しんでいてもなかなか助けることができなかった。
四人は学校を去ってしまった者たちの辛さを、転校が決まってから打ち明けられており、もっと早く伝えて欲しいとは思いつつも、それを事前に察知できなかった自分たちにも非があると感じている。
伊吹はふうっと軽くため息をつくと、木瓜へと凄まじくイタズラっぽい顔で微笑む。
「そうだねー、それとお触りしたから一〇〇円、払ってね」
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