第二一話 ヒーローとヴィランの境目
「で、この十七年前のヴィラン抗争と呼称される一連の事件により、本校設立のきっかけができたわけ」
今日の授業を教えるダイアモンドダスト先生……本名
空間ごと氷結させると言う特性上、割と融通が効かない能力で効果範囲が広いためヒーロー活動において、味方を巻き込む可能性があると言うことで早々に現場を離脱し、勇武の講師になったと言う異色の経歴の持ち主でもある。
まるで輝くような白いの髪と、男性生徒から注目される愛くるしい表情と、少し低めの背丈も相まってとても人気のある先生らしい……まあ木瓜くんから聞いたんだけど。
十七年前の事件、それは集団と化したヴィランによる未曾有の大規模テロ事件。
ヴィラン抗争という公式の名前がついているが、人によっては「恐怖の一夜」などの名前で呼ぶこともあるらしい……犠牲者となった一般人は数千人規模、そしてヒーローにも被害が続出し、引退を余儀なくされたヒーローも多く存在したということだ。
そこでヴィランの王、と呼ばれる彼らを指揮したヴィランと、ヒーローたちによる決戦によりヴィランの集団は壊滅し、ヴィランの王は死亡、これ以降ヴィランの活動は集団化することは無くなった。
「本校の臨時講師でもあるライトニングレディはこの決戦に参加した唯一の現役ヒーロー……当時は三級ヒーローとして活動してたけど、この後さらなる大ブレイクをするのよ」
千景さんはその時の話をすることをかなり嫌がっていた……お師匠様についてはある程度話をしてくれるのだが、前に話してくれた以上の情報はしたくないという顔をしていた。
だから僕もあえてそれ以上は聞くことはなかった、けど改めてその時何が起きていたのかを聞かなければいけない、という気もしている。
この抗争の後、ヒーローを育成する教育機関の必要性が官民から上がり……勇武が設立された、だが当初は希望者を募って教育をする方針だったそうだが、次第にエリートヒーローを教育する「量より質」を重視する方針へと転換、今のように試験により一定水準の人材のみを集めていく形になった。
「そういえば、どうしてヴィランの王はテロなんか起こしたんでしょうか?」
「いろいろな説があるわ、でも彼らは共通して一つの目的を口にしていた、と言われている」
僕の質問にダイヤモンドダスト先生はニコリと笑うと、抗争がなぜ起きたのか今の推察となっているものを話し始める。
単純にまとめて仕舞えば、
元々ヴィランとヒーローの区別というのは難しい、今の世界は
攻撃的な
「ヒーローとして活動した人が、ふとしたきっかけでヴィランとなってしまうこともあるわ、それとは逆にヴィランからヒーローへと改心する人も存在している、私たちの違いはほんの少しよ」
だからこそ……違いが少ないからこそ、教育によるモラルの徹底、自制心と道徳心の育成……それらを目的とした専門教育機関、勇武高等学園が設立されたのだ。
また、ヒーロー免許の安易な発行は全体の質を下げてしまう結果になる……確かに巷にはヒーロー免許を取得する目的の専門学校なども存在はしているが、合格率は非常に低く勇武を卒業しないでの免許取得というのは相当にハードルが高い行為らしい。
「そういえば本学校の設立以後、いわゆるヒーロー、および候補生における治安維持活動というのが許可されているわ、そのうちヒーローとコンビを組んで職場体験に出るかもしれないね」
勇武の学生証には本校の学生に特別に許されている特典のようなものが存在する。勇武所属生は準四級ヒーローという扱いになっており、一級以上のヒーローの監視下であれば合同で治安維持活動に参加することが可能だ。
まあ、僕はまだヒーロースーツが出来上がってきていないので勇武生としての仮スーツでしか参加できないのだけど……合格後に千景さんの紹介でデザイン事務所のデザイナーさんと面会したのだけど……かなり大変だった。
「今のところ、この学年で職場体験に参加できるのは転入生の二人以外ね……まあ、スーツのデザインはすでに行われているって話だから、早ければ来月にはそういう授業も増えると思うわ」
「秋楡、メシ行こうぜ、いつも空いてるけど早めに食い終わりたいしな」
「あ、うん……ぜひ」
木瓜くんが授業が終わるとすぐに、捩木くんと一緒に僕の席へと向かってきた、そっかもう昼食だもんな……僕は笑顔で頷くと、二人と一緒に食堂へ行こうと席を立つが、そこへ女性陣もみんなで歩いてくる。
なんだろう? と思って三人で身構えていると、鬼灯さんがニコニコと笑いながら僕らへと軽く頭を一度下げると、口元に手を当ててから話しかけてきた。
「同級生も少ないわけですし、どうせならみんなで食事をご一緒しませんか? 色々とお互いのことを話すのも悪くないと思います」
「む……男同士で話したいこともあるんだけどな……まあ仕方ねえな、秋楡もそれでいいか?」
「うん、僕もみんなとは仲良くしたいし」
鬼灯さんは実家が大変な資産家で、ふとした仕草や受け答えが妙に品の良さを感じる……正直いえば、多少苦手なキャラかもしれない。
どうも何を考えているのかわからない部分も多く、いつも笑顔を絶やさない……才女という言葉がバッチリ合いそうなイメージだ。
全国統一のテストなどでは上位に食い込むレベルだし、訓練中の動きも身体能力の高さを感じさせるものだからだ。僕の返答に、鬼灯さんはとても嬉しそうに笑顔を浮かべると、僕の手を優しくとって引っ張り出す。
「よかった! 私ぜひ秋楡さんとはお話ししたいと思ってたんですよ、行きましょう」
「え、えええ?!」
鬼灯さんに引かれるまま、僕は女性陣の方向へとぐいぐいと引っ張られていく……見た目よりも遥かに腕力あるな、この人……女性陣は僕らが来たのを見て笑顔……なのは伊吹さんだけで、なぜか海棠さんはめちゃくちゃ不機嫌そうな顔をしている。
鬼灯さんは二人に手を振ると、僕の手を握ったまま二人の前に僕をはい、とばかりに押し出す。
「連れてきましたよ、今後はみんなでご飯食べましょうね」
「お、さすが朱里……秋楡、気をつけろよ? お嬢様だけど腕力はそこらへんの男子じゃ敵わないからな」
「えー、そんな失礼な……私は
「へ? どう思いますか……って?」
鬼灯さんがまるで困ったように僕の手をそっと両手で包み込みながら、上目遣い……といっても彼女は一七〇センチメートルあるためほぼ目線は変わらないのだけど、それでも夜の闇のように輝く長い黒髪と、非常に整った容姿……モデルといってもおかしくないくらいだ。
さらに……本当に高校生か? と思うくらいスタイルが良く、ほんの少し目線を下げると恐ろしくたわわな実りが……と次の瞬間、僕の顔に水がパシャリ、とかかる……。
「うわっ……!」
不機嫌そうな顔の海棠さんが、
鬼灯さんはあらあら……といった顔で自分のハンカチを取り出して、僕の首筋を拭ってくれている……海棠さんは、なぜか不機嫌そうな顔で、さっさと歩き出す。
「デレっとしちゃって、バカじゃないの? 早くご飯食べに行きましょ……午後も訓練あるんだから、時間ないわよ」
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