第三話 とある路地裏にて
「はぁ……今日も酷い目にあった……」
放課後、僕は学校帰りに近所にある商店街を歩いている……僕に友達はいない、能力が発現した後から友達だったはずの人達は次々と離れていった。
幼馴染すら僕の能力を聞いた時に、呆れたような見下したような笑みを浮かべて……いや、思い出すのはやめよう、思い出すたびに僕の心がキュッと締め付けられたような気分になる。
「僕が悪いわけじゃないのに……僕だけが悪いわけじゃないのに……」
「そこの君……面白い
ハッとして僕は後ろを振り返るが……チャラそうな茶髪の男性が、女子高生をナンパしている処だった……ため息をついて再び歩き始める。
僕なんかが声をかけられるわけなんかないよな……龍使いって言葉を聞いた時に、普通の人はどう思うだろうか? 僕の好きなゲームではドラゴンを使役して戦うテイマークラスなんかが思い浮かぶだろうか。
本当にそうだったらよかったのに……毎日毎日陰口を叩かれ、辛い思いをしなくて済んだんじゃないだろうか? ライトノベルにあるように、異世界転生したら僕も生きる場所があるのだろうか?
「トラック飛び込んじまえよ、そしたら異世界行けるんじゃねえの?」
「異世界行ったらドラゴン使えんじゃねえの? 早く異世界いけよ、ほら」
「えー、可哀想だよ。そんなこと言っちゃったら本当に死んじゃうよ?」
背中がゾクっとする……心ない同級生の言葉を思い出し、僕は恐怖と不安で身を固くする……道路をトラックが結構な勢いで走っていく……風圧を感じるたびに心臓の鼓動が速くなる。
この世界には僕の居場所がない……周りの人の目がまるで僕を嘲笑しているかのように感じる……実際には僕なんか雑踏に紛れている一人の高校生でしかないはずなのに。
強い恐怖感を押し殺して僕はふと、街頭に流されているテレビの映像に目をやる……そこではテレビのキャスターと専門家による討論が行われている。
『
……一七年前、この国は未曾有の
人は強力な力を手に入れた時に力を行使する欲望に抗っている……だが、一度そのタガが外れてしまった人間がどう動くのかをまざまざと思い知らされる結果になった。
ヴィラン……恵まれた
『……あのテロにより民間だけでなく、公的機関における
テロで身内を失った人もいる、僕の親戚も一人亡くなっているらしい……僕が生まれる前の話だったので、亡くなっているという話くらいしか知らないのだけど。
僕らの世代では過去にあった出来事という少し現実味のない話でしかなく、大人がそう話しているのを聞いて知識として知っているだけだ。
でも……今現在も
『……テロの首謀者は事件で亡くなった、と聞いていますが、一七年が経過してもこの情報は未だ公開されていませんね……』
テレビに映るコメンテーターは続ける……今なお謎に包まれた
近年発生している
先ほどテレビでも話が出ていたが、専用の高等専門学校も存在しているが普通の
僕はテレビから視線を外すと深くため息を吐いてから帰路に着く……そんな強い
「そんな、夢見たいな学生もいるんだよね……僕と違って……バイト行かないと……」
「おう、千裕お疲れー、今日も忙しかったよなー、あはは」
「ですね……お疲れ様でしたー」
バイト仲間が親指を立てているのを見て、僕は苦笑いで答える。
日課のファーストフード店でのアルバイトが終わり、僕は制服を脱いでロッカーに入れる……我が家では『働かざる者食うべからず』という方針なので自分の小遣いは自分で稼ぐようにしている。
まあ、単純に僕の家はそこまで裕福ではないので、仕方ないんだよね。
アルバイトはいい……仕事に集中している時は学校でいじめられていることも、友人がいないことも考えずに済むし、バイト仲間はみんな
「店長、ゴミ出してから帰りますね」
「おう、いつもすまないね……重かったらそのままでいいからね」
店長がニコニコ笑いながら手を振って挨拶してくる……このバイト先は居心地が本当に良い。
わざわざ自宅から数駅離れた場所でアルバイトしてるのも、学校の同級生に会わずに済むように、という自分なりの考えによるものだ。
少し治安が悪い繁華街なのだけど、そんな場所でも今まで危なかったことは一回もないし、店頭に出ていれば何かあったかもしれないけど……僕は調理場を担当しているので表に出ることはほぼない。
ファーストフード店のアルバイトでも調理場を選択したのは、店頭に出なくて済むから間違っても同級生に会うことはないし……とても気楽でいい。
僕は着替え終わった後、まとまったゴミを持ってゴミ捨て場へと移動する。
このお店のゴミ捨て場は、裏手にある路地に当たる場所にあって、暗くて少し陰になる部分が多くて陰気な場所なんだよね……僕は普段より少し重いゴミ袋を持ちながら、よたよたと歩き始める。
扉を開けて路地に出た時、ふと今日に限ってすごく嫌な予感がした気がして立ち止まる……なんだ? 視線というか……何か違和感を感じる。
「気のせい……だよね」
ゴミ捨て場まで歩いて、ゴミ袋を下ろすとほっとため息をつく……ふう……なんか嫌な予感がしてたけど気のせいか。
まあ、そういう日もあるよね……路地から表通りに出るには細い道を通らなければいけない。
僕がその道へと歩き出そうとしたその瞬間……暗闇からニヤニヤと笑う数人の男性が姿を表す……え? この人たちは一体……。
「あ、あの……な、なん……」
「兄ちゃん、そこの店の店員だよな? ちょっと俺たち小遣い欲しくてさ……」
目の前に立つコワモテの男性は僕の頬に小型のナイフをピタピタと寄せてから、僕を壁へと押し付ける……治安が悪い街と言っても、直接的に強盗とかそういう事件が起きる、というのは珍しいはずなのだけど。
男性たちは、震えながら腰を抜かしてへたり込む僕を見てニヤリと笑う。
「……ちょっと手伝ってくれねえ? お小遣い稼ぎをさ……」
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