【完結】僕の才能は龍使い 〜イジメられていた僕が、才能の意味を理解したら世界最強〜

自転車和尚

第一話 銀色の稲妻

 ——この世界は才能が全てだ。


 誰が言ったのか、もう覚えていないけど……確かに、この世界は才能が全てだと思う。

 この世界において、才能という壁は全てに優先する、人は必ず才能を持って生まれる……才能に沿った職業、役割、人生を送っている。


 仕事に向いた才能なら会社での出世が、他人を癒す才能なら病院で重宝され……戦闘向きの才能ならヒーローを志したり……僕の生きている世界は才能が全てなんだ。

 僕はこの世界においてなんの意味もない『龍使い』として生まれた……意味がない、なんの役にも立たない才能だと嘲笑されバカにされ続けた……ずっとその意味を考えていた、そして諦めていた、僕は特別なんかじゃないんだって。




「なあ兄ちゃん……ちょっと手伝ってくれねえ? お小遣い稼ぎしてーんだよなあ……」


「あ、あ……」

 へたり込む僕の顔に、ナイフをピタピタと当てた目の前に立つ男性……名前も知らないチンピラがニヤニヤと笑う……恐怖と不安から僕は体の震えが止まらない。

 アルバイト先のゴミ出しで、どうしてこんなことになっているんだ? 僕はなんとか逃げ出そうと、必死に店の方へと逃げようと走ろうとするが……強い衝撃と痛みと共に僕は地面へと叩きつけられる。

「うぐっ……ああっ!」


「おいおい、なんで逃げようとしてんだよ……お友達になろうぜ?」

 目の前にいたチンピラが片手を何か動かすような仕草をした瞬間に、僕はまるで何かに掴まれているかのように高速で投げ飛ばされ、壁に叩きつけられた。

 一瞬目の前が暗くなり、壁から地面へとへたり込む……咳と痛みで体が震える……確かにこの付近はあまり治安が良くないって聞いていたけど、襲われるなんて……しかもこのチンピラ……能力がかなり攻撃的なものを所持しているのか……?

 ゲラゲラ笑ってそのナイフをちらつかせたチンピラは、痛みで震える僕の前にしゃがみ込むと思い切り僕の髪の毛を掴んで無理やり持ち上げる。

「い、痛い……っ……!」


「あ? 逃げようとしてるからだろうが、このガキが……痛い目に遭いたくなきゃ俺たちのいうことを聞いていればいいんだよ」


「や、やめてください……警察を、警察を呼びますよ!」


「呼んでみろや……呼べるもんならよ」


「こいつ泣いてるぜ……弱えなら黙っていうこと聞けばいいのによぉ!」

 僕の腹を何度か蹴り飛ばすと、ナイフをちらつかせたチンピラがイライラした様子で僕の頬に刃を当てる……痛みとともにドロリとした感触が頬を伝う……どうして……ボロボロと涙が溢れるが、それをみた別のチンピラが笑い出す。

 僕に、僕に力があれば……恐怖よりも悔しさと情けなさで涙が止まらない。

「うう……うう……助けて……」


「こいつ涙だけじゃなくて鼻水まで垂らしてるぜ! ヒャハハハッ!」


「お漏らしすんじゃねえぞ、僕ちゃん〜」

 チンピラたちの嘲笑……僕の脳裏に同級生や幼馴染たちの蔑んだような笑いが思い起こされる……すでにトラウマレベルにまで達している僕自身の意味のない才能をバカにする人たちの目。

 何も何もできないのか……僕の才能じゃ......! 拳を握りしめるもその拳を足で踏みつけるとチンピラがクスクス笑う。

「弱いくせに何しようとしてるんだ? あ? 小遣い稼ぎの前にお前をバラしてもいいんだぜ?」


「ひいいっ! ゆ、許してください……!」

 涙と鼻水でグシャグシャになりながら必死に頭を下げる……だめだ、僕は戦う力なんか持ってない……ここで争おうとしても、僕は戦うことなんかできないんだ。

 諦めと恐怖と、悲しさと……そして心の奥底に秘めていた『悔しい』という気持ちが僕の中から溢れ出るように、涙を止められない。そうか……僕は悔しいってずっと思っていたのか……これが僕の本心だったのか。

「この辺りは治安があんまり良くないって聞いていたけど、こりゃ随分ひどいもんだね……」


「あ? なんだこのババア……」

 コツコツ、と路地裏に足音が聞こえたかと思ったら……少しドスの効いた女性の声が響き渡る。

 僕は涙でグシャグシャになった目で、声の方向を見る……そこには銀色の髪を靡かせた、体のラインに沿ってピッタリと作られたシルバーの稲妻のようなラインの入った青いスーツを纏った女性が立っている。

 スタイルは相当に良い……だがそれ以上に腕や足は筋肉質で、全体的にかなりゴツいシルエットに見える……こ、この人は……。

「あ? 誰がババアだって? アタシはまだ三七……全然まだ若いんだよ、このクソガキどもが……年上への礼儀を教えてやるよ」


 女性は手を軽く握り、骨をゴキッとならすと、まるで飢えた肉食獣にすら見える獰猛な笑みを浮かべる……その笑みに気圧されたのかチンピラが蹈鞴を踏み始める。

 そりゃそうだろう……このB……いや女性の醸し出す雰囲気は普通ではない……本当に野生の肉食獣が目の前に立っているかのような凄まじい圧力なのだ。

「ゲッ! こいつ……ヒーローだ……『ライトニングレディ』……」


「……アタシはヒーロー兼地方公務員、学校の先生だよ。ただし……先生の方が更生専門だけどな!」

 ライトニングレディの体に軽く稲妻のような光が走ったかと思うと、周りで笑っていたはずのチンピラ数人が、彼女の拳を叩き込まれていきなり宙を舞う……まさに名前の通りのように稲妻のような速さで、ライトニングレディが次々とチンピラたちを殴り飛ばしていくのをみて、僕もナイフを持って僕の隣に立つチンピラも……呆然としている。

 凄まじい速度、そしてあまりに美しい姿に、思わず見惚れてしまう……『銀色の稲妻』、それがライトニングレディにつけられた愛称だったはずだ。

「な、な……」


「……それなりの才能タレント持って、自制心もなく暴力に使う……お前らクズだね」

 隣にいたはずのナイフを持ったチンピラがいきなり吹き飛んでいく……僕の隣に立ったライトニングレディはふうっ、と軽く息を吐くと震えている僕を見て、にっこりと笑う。

 銀色の髪、青く澄んだ瞳、恐ろしく整った容姿に色気のある大人の魅力を讃えた女性……僕は思わずその女性を見つめてしまう。

 日本でも数少ない超級ヒーロー『ライトニングレディ』……電光石火の一撃で悪人を撃ち倒す女性ヒーローの一人……生きる伝説が目の前に立っている。

「大丈夫かい坊や……路地裏はあんまりお勧めしな……え?」


「は、は……い?」

 いきなり僕の顔をマジマジと見つめ、眉を顰めて顔を近づけてくるライトニングレディに戸惑い、僕は顔を真っ赤にして動揺する……こんな近くまで女性の顔が近づいてきたのはお母さんくらいなもんだから……。

 何度かじっと僕の目を見つめた後、僕の体を……不思議そうに見つめてから、銀髪の女性が少し驚いたような表情を浮かべ、何かを喋ろうとしたその瞬間……叫び声が聞こえ僕はその声の方向へと目をそらす……チンピラが懐から何かを取り出して構える……拳銃?! 街のチンピラが?!

「このカミナリババアが! ……死ねやコラァ……あっ?!」


「だ、れ、が、バ、バ、ア、だ、っ、て、? お姉さんっていえや、ゴルァ!!」

 拳銃のようなものを構えるチンピラの眼前に瞬きの瞬間に現れたライトニングレディが彼の腕を無造作に掴むと、そのまま捻り上げる……相当な痛みなのだろう、苦悶の表情を浮かべて拳銃を取り落としたチンピラの腹部に凄まじい打撃音と共に、彼女の拳がめり込む。

 文字通り、くの文字に折れ曲がるように宙に浮いたチンピラは白目を剥いてそのまま地面へと倒れ込む……うわ……あれ下手すると死んでないか……? だが地面へと倒れたチンピラは悶絶したように細かく震えていて、生きているのが確認できた。

「あ……あ……」


「……坊や、大丈夫かい? あーあ、可愛い顔が台無しじゃないか……ほら」

 恐怖と驚きで言葉の出ない僕の前に、ライトニングレディがしゃがみ込むと……懐からハンカチのようなものを取り出して、僕の顔を軽く拭うと、僕にそのハンカチを手渡す。

 軽く頭を下げると僕はハンカチで顔を拭い始める……だが、涙が止まらない……悔しいんだ、なんの力もない僕が……再び嗚咽を漏らす僕を見て、なぜかライトニングレディは悲しそうな表情を一瞬浮かべた後に、すぐ笑顔を浮かべると……僕に話しかけてきた。


「……君、面白い才能タレントを持っているね……アタシとお茶しない?」



------------------------------

読者の皆様


自転車和尚と申します。

私の作品を初めてご覧になる方は初めまして。

別の作品をお読みいただいている方は、改めてよろしくお願いいたします。


カクヨムでは後書きがないため本文に追記してこちら後書きを追加させていただきます。



「面白かった」


「続きが気になる」


「今後どうなるの?」


と思っていただけたなら

下にある☆☆☆から作品へのご評価をお願いいたします。


面白かったら星三つ、つまらなかったら星一つで、正直な感想で大丈夫です。

作品へのフォローもいただけると本当に嬉しいです。


何卒応援の程よろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る