第三九話 ヘヴィメタル
「ハッハーッ! グチャグチャにしてやるぜぇえっ!」
ヘヴィメタルが笑みを浮かべたまま手に持ったギターをかき鳴らす……辺りに劈くような爆音を響かせ彼女を中心に、七緒に向かってアスファルトをかち割りながら不可視の衝撃波が飛んでくる。
これを受ける訳には……七緒はヘヴィメタルの攻撃を前に、自らの
次の瞬間、まるでその場に超小型の竜巻が生まれたかのように爆風が生み出され、発生した爆風はヘヴィメタルの攻撃と衝突すると、辺りに轟音を響かせて双方が対消滅していく。
そよ風を送ることもできる上、最大まで出力を上げれば小型の台風に近い風量を生み出すことができ、普通自動車程度なら吹き飛ばすだけの風量を生み出すことができる。
また、あまり使っていないが風を使って空中に浮き上がることもでき、汎用性の高い
「ヴィランのくせになんて格好してるの!」
「あー? これがアタシの正装さね……セクシーだろ?」
一歩間違えたら痴女じゃねえか! と七緒は思うがヘヴィメタルのスタイルは恐ろしく良く、普通の服装をしていれば男性なら思わず見惚れてしまうようなそんなセクシーさを兼ね備えている。
これが大人の女性……ッ! 七緒は高校生にしてはスタイルが相当に良い方だが、同級生に鬼灯 朱里というモデル級のスタイルを持つ女性がいることで二番手に甘んじている。
「くそー! なんかずるいぞ!」
「……アンタのその
再びギターをかき鳴らし始めるヘヴィメタル……七緒は相手の
ギャイイイイイン! という爆音を奏でたヘヴィメタルから再び衝撃波による攻撃が始まる……その攻撃は再び直線的に七緒に向かって伸びるが、七緒はそのタイミングと同時に大きく前に向かってジャンプする。
「ハッ! こんなに距離があるんだぜ!? 自殺でもすんのかよ!」
「
ジャンプした次の瞬間、七緒は自らの足元に爆風を生み出し自らを前へと射出する……まるでそれは人間の形をした砲弾のように真っ直ぐ衝撃波を超えてヘヴィメタルへと迫る。
腕力は……私にはないからッ! 姿勢を制御して女ヴィランの首に自らの腕をラリアットのように叩きつける……七緒の体重ごと叩きつけた攻撃で、ヘヴィメタルは情けない声を上げて吹き飛んでいく。
「なんだとあぁ?! ……ひああああぎゃああああああっ!」
「しまった、思い切りやりすぎた……! まさか死んでないよね?!」
七緒はふわりと地面へと着地すると、ヘヴィメタルを吹き飛ばした方向を見るが、あの女ヴィランを吹き飛ばした先は瓦礫の山になっており、軽傷で済むとは思えない状況に思わず青くなる。
準四級ヒーロー扱いとはいえ勇武生がヴィランとの戦闘に突入することはあまり多くない、しかも相手をノシてしまうなどということはあまり起きることではない。
とはいえ、あの時は考えるよりも前に能力を発動しなければいけなかった、そうでなくては死んでしまうかもしれないから……とっさに動いたとはいえ、彼女の
「ええと……怪我してたら救助して……ああ、もう! ヴィランのくせに一撃って何よ!」
「これくらいで死ぬかよおおおおおっ!」
ギャアアアアアアアン! という轟音と共にギターをかき鳴らしたヘヴィメタルが瓦礫の山を吹き飛ばして飛び出してくる……だがあちこちに傷を作っており、こめかみからボタボタと血を流している。
無傷じゃない! 七緒はとっさに身構えるが、ソリッドなメロディを掻き鳴らすヘヴィメタルが怒りの表情で七緒をみた瞬間に、全身に凄まじい衝撃を受けて吹き飛ばされる。
「きゃああっ!」
「クソがああっ! この小娘ぶっ殺すッ!」
七緒は空中で
ヘヴィメタルがギターをかき鳴らしたまま自分を見た瞬間に衝撃波が全身に衝突した……つまりヘヴィメタルの攻撃発動条件が「相手に視線を向けた瞬間」だということだ。
追撃もせずに夢中でギターで音をかき鳴らしているのは発動条件を相手に悟らせないためだろう……。
「イイイイイイヤッハアアアッ! アタシの音、最高すぎて濡れるううウゥッ!」
い、いや……もしかしたら単にそういう性格かもしれないが。
気を取り直した七緒は一気に
ヘヴィメタルが牽制のためなのか、数回七緒に向かって攻撃を放つが、やはり視線を向けた瞬間に放たれているのが確認できる。
「やっぱり視線の先にさえ気をつけていれば……」
「ちょこまかと……ッ!」
七緒は一気に攻撃を掻い潜りながら空中を飛んで接近していく……確かにヘヴィメタルの攻撃はかなりの威力があり、炎や氷などのように見えている攻撃ではないため避けにくいのは確かだが、先ほどくらった威力、速度はある程度覚えている。
「これは囮……本命は接近戦ッ!」
一気に足に纏わせた風を加速させて直線的に突撃を繰り出す……もう一度攻撃をぶちかまして吹き飛ばし、完全に意識を飛ばして捕縛する。
七緒がこれまで訓練してきた動きを再現すれば……超高速飛行で一気に距離を詰めてきた七緒をみて、ヘヴィメタルは一瞬表情を曇らせる。
彼女との相性の悪さを実感したのだろう……だが、ヴィランとして生き延びているヘヴィメタルの表情がそれまでの笑顔から、ギラついたものへと一気に変化する。
「アタシのギターは我らネクサスのためにッ!」
「……うあああああっ!」
七緒が間合いに入った瞬間、ヘヴィメタルがギターを一度かき鳴らすと、片脚を上げ全身で地面を踏みつけるような動作を繰り出した。
その動きに合わせてヴィランの周りの地面が凹むくらいの衝撃波が周囲に撒き散らされる……その威力は行き場を失ってヘヴィメタルの周囲に展開し、空間を激しく振動させる。
爆音と全身を包み込む凄まじい衝撃に全速力で飛び込んだ七緒はなすすべなく大きく跳ね飛ばされ、
「か……かはっ……」
一瞬意識が飛びかけた七緒は強い痛みで目を覚ます。
なんだ今のは……それまで直線的な攻撃であったはずのヘヴィメタルの攻撃が変わった? 七緒が激しい痛みに耐えながらなんとか身を起こすが、そこへ不可視の衝撃波が叩きつけられる。
悲鳴を上げる間もなく殺さない程度、甚振るようにヘヴィメタルの衝撃波が七緒へと叩きつけられる。
「ハッハーッ! アタシに傷をつけたこの乳臭いガキは殺すッ!」
「うあああ……た、助けて……誰か……」
七緒の目から涙がこぼれ落ちる……悔しい、一撃で状況をひっくり返された上に、為す術なく地面に叩きつけられ、今は殺さない程度の攻撃で痛みだけを加えられている。
ヘヴィメタルの意識が完全に切り替わった瞬間判断を誤った……あそこで切り替えができなければいけなかった……イグニス所長もよく言っていたのに、勝負を焦るな、と。
だが次の瞬間、衝撃波がパアアアン! という音と共に弾け飛ぶ……そして七緒の体が不意に抱き上げられ、目を開けると彼女の目に同級生、秋楡 千裕の顔が見えた。
「危ないところだったな、少女……加勢してやろう」
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