第21話
『さぁさぁ本日も始まっちゃいましたよ! 皆さまお待ち兼ねの
司会NPCがぶりっ子満点の挨拶を終えると、大いに歓声が沸き上がった。
その熱狂ぶりは凄まじく、俺の待機する控室にまで響いていた。
「すごい歓声だな。見に来てるのは全部プレイヤーか?」
『いや、現地で観戦するヤツの大半はNPCだな。プレイヤーはネットで見るヤツが多い』
「……意外と血の気に飢えてんだな」
『そんな事は無いさ。奴らにとってプレイヤーは不老不死の存在だからな。安全性の担保された格闘技イベントみたいなもんさ』
「あぁ、なるほどな」
その辺も含めてソウルブレイドはよくできたゲームだ。
NPCにとっての現実世界に、ゲーム的コンテンツを上手く落とし込んでるんだから。
「それにしてもマッチング待ちの時間って暇だな」
『すぐ決まるさ。それより仕組みはちゃんと理解したのか?』
「あぁ、一通りは目を通したぞ」
まずマッチメイキングの原則はステータスレーティング制だ。
対戦相手には自分と同じくらいのステータスを持つプレイヤーが選ばれる。
ステータスによる格差が存在するゲームである以上は当然と言えば当然だろう。
だが、これだけでは上級者と初心者がマッチしてしまう恐れがある。
そうなれば、初心者が一方的にボコられるだけのクソ試合になることは間違いない。
いくらステータスが近くとも、技術力の差で圧倒できてしまうのがPVPなのだ。
そうした不公平なマッチを低減するための補助要素として、
スキルレーティング制とは、プレイヤーのスコアを数値化したものだ。
スコアは勝敗により増減するようになっていて、なるべくスコアが近い者同士がマッチする仕組みとなっていた。
次に肝心のランキングだが、これもスキルレートで決まっていた。
スキルレートが高ければ高いほど上位。シンプルでわかりやすい。
ちなみに世界ランク300位以内に入るとステータスレーティングが撤廃されるので、ステータス格差があってもマッチするようになっている。要するに『世界300位以内の実力なら、ステータス差なんざ技能で覆せるだろ?』という事だ。
『──対戦相手が見つかりました。試合会場へ転移します』
コンテンツの仕様を振り返っているうちにマッチが決まったようだ。
俺の身体が光に包まれ、視界が白く染まった。
『さて、次の試合は……な、なな、なんと! あのケイ選手なのです! ラクド山脈で悪竜を屠ったその実力は騎士団のお墨付き! これは期待できちゃいますね~!』
シエラが紹介を終えると、わあぁぁ、と歓声が湧き上がった。
この異様な盛り上がり具合は、俺が
アキラ曰く、
『勝利報酬はNPC側の興行収入や配信サイトの広告収益で決まる。そういう意味じゃ
「あぁ、称号システムなんて興味無かったが、金に繋がるなら悪くねぇな」
そんな会話をしているうちに、対戦相手が目の前に転移してきた。
『対戦相手は──豪腕のローガン選手! いきなり世界ランク762位の猛者との対戦なのですよぉー!』
両手にガントレットを装着した屈強な大男である。
見た目だけで言えば、めちゃくちゃ強そうなんだが……。
「……762位って微妙じゃね?」
『馬鹿か? ソウルブレイドの総プレイヤー人口は6億人もいるんだ。ヤツは上位0.0002%未満に属する
俺が小声で尋ねると、マモンは呆れ声で答えた。
いや、理屈はわかるんだが、なんか微妙なんだよなぁ……。
「ガハハハッ‼ 新参者が好き勝手言ってくれるじゃねぇかッ‼ 流石は七人目の
俺の声が聞こえていたのか、ローガンが豪快に笑った。
なんだ、意外とサッパリした性格なんだな。
俺が釣られて愛想笑いを返すと、彼は両手の拳をガンッと突き合わせた。
「……だがな、
低く唸るような声でそう吐露した後、猛獣のような瞳を俺に向けてきた。
『こりゃ、完全に怒らせちまったようだな』
んなこと、言われなくてもわかってるっての。
だけど、仕方ないじゃないか。微妙だなって思うのは紛れもない本心なんだから。
「あー、悪いな。気に触ったか? けどよ──」
怒気を放つローガンに俺は笑顔を向けた。
『それでは試合開始っ! なのですよっ!』
シエラが試合開始を告げた、その刹那に俺はマモンを振り抜く。
蒼雷を纏った刀身から放たれる黒い斬撃が、彼の首を的確に捉えた。
「ふん、遠距離スキル持ちかッ‼」
流石にPVP慣れしているだけあって、この程度の牽制では動じないようだ。
ローガンは眼前でガントレットを交差させて俺の放った斬撃を容易に防いだ。
「全勝予定の俺にとっちゃ700位台なんて、踏み台ですらねーんだ。【
ヤツが俺から視線を外した、その僅かな時間で。
俺は間合いを詰めてスキルを解き放った。
「おらおらおらおらおらおらおらおらおらァッッ‼」
「ふぬおおおおおおおぉぉぉッ⁉」
瞬光の耳飾りを両耳に装着した俺が放つ怒涛の剣閃。
攻撃時の追加オプション効果を含めた際のAGIの上昇量は40%。
数値にして900を超すステータスは、ネームドNPCであるフラヴィアにすら勝るのだ。こんな見るからに脳筋っぽい野郎に追いつけるわけがない。
「ぐぬうううッ……俺の
やっぱり持ってたか。この手のパワータイプは絶対持ってると思ってた。
アクションゲームとかで敵に攻撃されても怯むこと無く殴り返せるアレだ。
『わぁああああ! すごいのですっ! 開始から10秒も立たないうちにケイ選手が猛攻を仕掛けちゃってます! しかも、これは感電効果! 属性やられ状態を駆使してローガン選手のSAを完全に封じ込めちゃってますよぉぉぉ‼』
SAは対人において優秀な能力だ。
重量武器を扱う場合には必須と言っても過言ではない。
「親切な司会だな。ちゃんと敗因を解説してくれてんぞ。次までに雷属性の耐性アクセサリーを揃えとくんだな」
「クソがぁぁッ‼」
だが、逆に言えばそれは弱点でもある。
SAの無いパワーキャラなんて、訓練所のカカシと大差ねーんだから。
「【
俺は勝負を決めるべく、さらに追加でスキルを発動させた。
さらに放たれる怒涛の連撃にローガンは為す術もなく──
『──決まったぁぁぁ‼ 勝者はケイ選手! なのですっ!』
俺は無傷で初戦を制した。
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