第43話
改めて俺は、マモンの姿を確認した。
特徴的な黒と銀のツートンカラーの髪色。生意気そうな目つきに、ギザギザの歯。
そして何より目を引くのは背中から生えたカラスのような黒い翼。
人の姿をしてはいるが、所々に人間っぽくない要素を含んだ見た目をしていた。
まぁ、端的に言うならVライバーにいそうな外見だ。
好みは分かれそうだが、美少女である事は間違いないしな。
ちなみに美少女と表現したのは、外見が中高生くらいに見えるからだ。
故に、美女でなく美少女。俺様口調の似合うクールビューティーとは程遠い。
これはあれか? Vライバーヲタクである俺の影響なのか?
ほら、Vライバーって色々と属性付けるし美少女が多いからさ。
あくまでマモンは俺の魂を反映したソウルギアだ。
人間の姿に変化できるとしたら、俺の趣味趣向の影響を受けていても不自然ではない。
『クク、さっきからどうした? 俺様に見惚れてるのか?』
マモンは蠱惑的なポーズを見せつけながら俺に訊ねた。
露出度の高いサキュバスみたいな衣装ではあるが、見た目のせいもあってセクシーというよりキュートという感想が先に浮かんだ。
『おい、なんで無言なんだ。はっ……⁉ まさかお前……俺様を妄想の中で……』
つか、さっきから台詞がいちいちウザいな。
美少女ボディに受肉?した事で色々と調子に乗っているようだ。
なので、俺はきっぱりと答えてやる事にした。
「いや、悪いが趣味じゃない。俺の好みはウルちんみたいな清楚系なんだ」
『俺様も冗談のつもりで言ったんだが、こうも真顔で言われると腹立たしいな……』
いや、知らんがな。
つか俺がウルちん一筋なのはお前が一番よく知ってるだろうに。
「つか、お前の性別って女だったんだな」
『失礼な野郎だな⁉ 声は最初から女だったろうが⁉』
いやまぁ、そうなんだけどさ。
でもほら、システムメッセージとかチュートリアルのクリスタルも女性の声じゃん。
マモンも似たようなシステム系のボイスだと思うのが普通だろう。
「まぁ、お前がその姿になったのは驚きだが、ある意味予想通りだ。自我を持ってる時点で普通のソウルギアじゃないってのはわかってたしな」
『なんだ、つまんないヤツだな』
「うるせぇ。それより能力だ。1000万も使ってお前の受肉だけとか、そういうオチじゃねぇよな?」
マモンの変化に気を取られて見逃したログを俺は再確認した。
『全ステータスが大幅に向上しました。合計ステータスが7000を超えました』
『スキル【
ステータスの大幅上昇はいつも通りだ。
それより重要なのはスキルの性能だな。
俺はシステム画面からスキルの詳細を開いた。
【
効果:自身のソウルギアを擬人化させ、自律戦闘が可能となる。ステータスは使用者に依存。ソウルギア単体で保有スキルを発動可能。
「肝心のスキルは……コイツを擬人化させるヤツか……」
マジでコイツを受肉させるだけで終わってんじゃねーか。
俺自身がド派手なスキルを使うような方向性での強化を期待していたので残念過ぎる。
『……なぜガッカリするんだ。言っておくが俺様は強いぞ? それに俺様のような美少女が動画にいた方がウケが良いだろう!』
「美少女とか自分で言うなよ」
なんか擬人化された事でちょっと人間味が増したな、コイツ。
こう言ってはなんだが、少し扱い辛くなったというのが率直な感想だ。
前は無機物だったから雑に扱えたが、人の姿をしてるとそれも難しい。
『何やら不満そうだな。だが安心しろ。俺様がこの姿になった事には大きな意味があるのさ。ほら、さっきのアレを差し出せ』
「アレ?」
『〝欲望の痕跡〟の事だ! さっき話してたばかりじゃねぇか!』
あぁ、そうだった。
話が動画映えの方向に進んでいたからすっかり忘れてた。
俺はインベントリから件の宝玉を取り出し、マモンに手渡した。
「それをどうするつもりだ?」
『どうするも何も、こうするのさ』
そう言ってマモンは俺から受け取った宝玉を──そのまま口の中に放り込んだ。
「……は? 何してんだお前……」
『うるひゃいヤツだな。黙って見ひぇな』
マモンは頬を膨らませながらそう答えた後、そのまま宝玉を飲み込んでしまった。
あーあ……腹下しても知らねぇぞ……。そう思った矢先に、俺の視界にログが流れた。
『マモンが初めて〝欲望の痕跡〟を吸収しました。関連クエストが発生します』
<
受注条件:マモンに一つ目の〝欲望の痕跡〟を吸収させる。
達成条件:各地に隠された〝欲望の痕跡〟を回収し、マモンに吸収させる。
報酬:???
説明:貪欲なる者よ。世界に秘匿された〝欲望の痕跡〟を回収せよ。その在処は彼女が示すだろう。
「何だこりゃ……マモン専用のクエストって事か……?」
こんなクエストが存在する事に俺は驚きを隠せなかった。
マモンは確かに特殊なソウルギアだ。その特殊性は唯一無二と言っても過言ではない。
だが、それにしたって専用クエストまで普通用意されてるか?
一般プレイヤーが保有する1ソウルギアでしかないのに。
『ケッ、あまり細かい事を考えても意味はねぇよ。システムが必要だと判断したから用意されている──ただそれだけだ。それに稼げるなら別にいいじゃねぇか』
「……確かにお前の言う通りだな。俺に必要なのは推し活するための資金だけだ。それさえ稼げりゃ何でもいいか」
『ハッ、そういうこった』
俺の答えを聞いたマモンはギザ歯を剥き出して愉快そうに笑った。
「ところでクエストに書かれてる彼女ってのはお前の事だろ? だったら次の痕跡の在り処はわかるのか?」
『あぁ、理屈は不明だがわかるぞ。後で教えてやろう』
「今すぐ出発しないのかよ? 俺としてはお前に注ぎ込んだ1000万をさっさと回収したいんだが……」
ウルちんのVRライブの配信日はもう近い。当日、彼女に100万本の
早く稼ぎに出たくてそわそわする俺に、マモンは蠱惑的な笑みを見せた。
『そう急かすなよ。少し試したい事があってな。折角、肉体を手に入れたんだ。ちょっとくらいはいいだろ?』
◇
「……試したい事って飯を食う事かよ」
マモンにお願いされてやってきたのは、アルレの街にある飲食店だった。
ファミレスみたいな店で、大人から子供まで多数の客で賑わう繁盛店だ。
『そんなこと言うなよ。人間と同等の意識があるのに身体がそれに適応してねぇってのは結構辛いんだぜ? 元から精神と肉体の整合性が取れてるヤツにはわかんねーかもしれねぇが』
そう言って、フォークに巻き付けた明太子パスタを頬張るマモン。
異世界風のゲーム内で明太子パスタってのも不思議なもんだが気にしてはいけない。料理に関しては、プレイヤーも体験できるコンテンツなので世界観設定がちょっと緩いのだ。
「小難しい事はよくわかんねーよ。つまり、どういう事だ?」
それはさておき、マモンの言い訳についてはよくわからないので俺は普通に聞き返した。
『面倒なヤツだな。例えば、明日お前が剣に転生したとしたらどうする?』
「唐突に某アニメみたいな例えを出してくるな……」
『ま、物は何でもいいけどよ。それでだ。剣に転生したお前はこれからも普通に過ごせると思うか?』
「想像した事もねーけど、別に普通に過ごせるんじゃないか? アニメでも何だかんだで楽しく無機物ライフを送ってたし……』
俺が答えると、マモンはフォークの先端を指差しの代わりに向けてきた。
『お前の大好きなウルちんに一生スパチャできないってのにか?』
「前言撤回だ。そんな状況になったら、俺は発狂して死んじまう」
マモンに問われた俺は即座に意見を変えた。
ウルちんに投げ銭する事は俺の存在意義だ。
それが出来ない世界線で生きるなんて……ウッ、想像しただけで吐き気が……。
『ケケッ、つまりはそういう事だ。やりたい事ができないってのは相当なストレスなんだよ。場合によっては自我が崩壊しちまうくらいにな。だから少しくらいは俺様の好きにさせてくれたって良いだろう?』
彼女はそう言うと、近くにいた店員NPCを呼びつけて追加の注文をし始めた。
次はどれを注文しようかと目を輝かせるマモンは、実に楽しそうだった。
「なるほどな。ま、そういう事なら大目に見てやるよ」
流石に今の話を聞いて文句を言う気にもなれず、俺は彼女が初めて体験する食事を一緒に楽しむ事にした。
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