第5話
「これがマモンの本来の姿……」
赤錆だらけだった刀身は黒銀の光沢を放ち、柄の装飾も黄金色に輝いている。
素人ながら博物館の硝子ケースに飾ってあってもおかしくないと思った。
大きく変貌を遂げたマモン。俺は恐る恐る手を伸ばす。
その柄を握った途端に、視界にいくつものメッセージが表示された。
『ソウルギアの等級が二段階上昇しました。
『全ステータスが大幅に向上しました』
『スキル【鑑定眼】を獲得しました』
『武装スキル【
『称号スキル【
表示されたのは、全て俺の成長を示すメッセージだった。
その凄まじい成長率に俺は思わず息を飲む。
ログを見る限り、通常のプレイでは起こり得ない成長であることは明白だ。
特に等級の部分。事前にアキラから聞いていた話だと、獲得時点でのソウルギアの等級は大半が
より上位である
『クク、どうだ? 対価に見合うだろう?』
手の中からマモンが誇らしそうに語りかけてきた。
俺はヤツのそんな言葉に頷き、そして笑みを返した。
「あぁ、十分過ぎるぜ。これなら……」
これなら上位陣に追いつくのも夢ではない。
そして稼ぎに稼ぎまくって、愛しき姫へ100本の赤い
俺は
恐ろしいほどに身体が軽い。これが現実とのギャップというやつだろう。
あのクリスタルが言っていた事を、今ここで初めて実感した。
「グゲゲゲッ‼ ゲギャッ‼」
「さっきはよくも俺の事をボコしてくれたな。しっかりお礼してやんねーとなぁッ!」
下品な笑みを浮かべるゴブリン。俺はその懐に素早く踏み込み、刀を振るった。
これまでと異なる確かな手応え。それを感じっ取った頃には、ヤツの胴体が真っ二つに裂かれ、電子的なエフェクトを残してすっかり消え去った。
「「ゲギィーッ‼」」
仲間が一刀両断されたのを見て、他のゴブリンたちが次々と飛びかかってきた。
「そんな攻撃が当たるかよ!」
迫りくる攻撃を俺は舞うように避けた。
そして、そのまま接近。すれ違いざまに黒銀の刃でヤツら首を撫で落とした。
『思ったより俺様の扱いに慣れてるじゃねぇか。お前、経験者か?』
「いや、刀は初めてだな。だけど感覚的にはサイリウムと変わらん。いつも通り撃つだけだ」
『はぁ……? お前の説明は何ひとつ理解できんな』
そんな会話を交わしているうちに、この階層のゴブリンを全て倒し終えた。
フロアの奥に上階へと繋がる転移門が出現する。
「さて、余計な時間を食っちまった分さっさとクリアしちまうか」
インターフェースに表示された時刻を表示を見ながら俺は転移門を潜り抜けていった。
◇
黎明の塔をクリアするのに10分も必要なかった。
これは俺の強さというより、最初からその程度の難易度だったっぽい。
そう考えるとマモンに課金する前の俺はクソほど弱かったんだな。はぁ。
「まぁ、ゲームはこれからだしな。ようやく街に来たんだ。気を取り直して稼ぎまくるぜ!」
現在、俺はアルレという中規模の都市にいる。
通称、はじまりの街。つまりはチュートリアルを終えた後に最初に飛ばされる街だな。
初心者向けとだけあって施設も多く揃っており、それなりに賑やかだ。
「とりあえず今日は適当なクエストをこなすか」
ウルちんの配信が始まるまでまだ余裕はある。
その間に少しでもゲームを進めとかないとな。
『あん? 一般クエストなんかじゃ稼げないだろ。せっかく俺様がいるんだ。どこかのダンジョンで宝探しといこうぜ』
「そう焦るなって。名声を稼ぐならクエストが一番効率いいんだ」
とりあえず最初の目標は<名声>を1500ポイント以上獲得することだ。
この<名声>ってのは単語そのままの意味で、クエストを達成したり悪名高いPKプレイヤーを討伐する事で獲得できる。
そして、その数値が高ければ街で様々な特典を利用できるようになるのだ。
「あるかもわからん宝探しをするより、確実に金を稼げる場所があるって聞いてな。ソウルギアのお前なら知ってるだろ?」
『あぁ、そうか……闘技場で暴れるんだな!』
言い当てることができたのが嬉しかったのか、マモンは鞘に収まったままカチャカチャと揺れた。
マモンの予想通り、俺が一番最初に利用したいのは〝闘技場〟だ。
名声1500ポイント以上から利用できるこの施設は、対人戦が得意なら最も効率良く稼げるらしい。
それだけでなく〝闘技場〟で名を残せば、データ上の<名声>だけでなく
「そうと決まったらNPC探しだ。このゲームはAIによる自動生成らしいが……こんだけ賑やかな街ならすぐ見つかるだろ」
そう考えた俺は、アルレの街を適当に散策することにした。
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