第12話
女騎士を追って俺たちは、騎士団の駐屯所付近までやってきた。
「確かこの辺りに来たよな……」
『早く探せ! もし領主邸にでも入られでもしたら、今のお前じゃ中には入れないぞ』
「だぁー! わかってるって!」
カチカチうるさいヤツだな。とはいえ、言ってることは正しい。
ソウルブレイドで領主や国王といった貴族系のNPCと接見するには、一定以上の名声が必要となってくる。PK野郎の一人や二人を倒した程度の名声では敷地に入ることも許されないのだ。
そうなる前にあの女騎士を見つけ出さないと……。
「──今すぐ討伐隊を編成すべきだ!」
心配していた直後、凛として、それでいて力強い声が響いた。
声がした方に向かうと、先ほど騎竜を駆っていた女騎士の姿があった。
改めて見ると、とても綺麗な女の子だ。
緩いクセの長い金髪と、ルビーのように澄んだ紅い瞳がとても印象的だった。
「で、ですが、まだアレと決まったわけではありませんし……まずは団長やアシュトン様の判断を仰ぐべきでは……? 二日もあればアルレに戻られますから、その時にでも……」
「そんな悠長なことを言っている場合か! 確認したのは、この私だ。間違いなどあるか!」
そんな彼女は下級騎士と何やら揉めていた。
なぜ相手が下級と判断したのかと言うと、身に纏う装備が明らかに異なるからだ。
女騎士の方はゲームの主要キャラが着てそうな豪華でデザイン性も高いドレスメイルで、下級騎士の方は以下にもモブって感じの鈍色の鎧だった。
念のために俺は【鑑定眼】を発動させつつ、女騎士へと近寄った。
ネーム:フラヴィア・エデルスタイン
クラス:上級騎士(NPC)
善悪値:+200
関係性:中立
フラヴィアか。騎士っぽい名前な気がしなくもない。
それより善悪値高くね? アオイですら40とかだったのに200って。
こりゃ相当、正義感が強いんだろなぁ……。
それとステータスもヤバイ。細かい部分は省略するとして、その合計は4000以上あった。
『下手を打つなよ。この女はネームドだ。お前より強いぞ』
「へいへい。今見てるからわかってるよ」
つっても、強気な女騎士の扱い方なんて知らねーけどな。俺の趣味じゃないし。
ちなみにネームドってのは重要なNPC全般を指す言葉だそうだ。
本作においては人間の著名人や権力者、実力者など、様々なNPCがネームド扱いとなっている。
フラヴィアが本作でどういう立ち位置なのかは不明だが、報酬は期待できそうだ。うへへ。
「えーあー、ごほん。どうやら何か困ってるようだな」
「……なんだ、貴様は」
──ピロン。
『対象との関係値が〝中立〟から〝警戒〟に変わりました』
へ? なんでだよ⁉ 話しかけただけじゃん⁉
まずいな。こりゃ慎重に会話しねーと……。
「あ、いや、俺は名乗るほどの者でも無いっていうか、ええと、その……」
「つまり、正体は明かせぬと……貴様、目的はなんだ」
──ピロン。
『対象との関係値が〝警戒〟から〝警戒・大〟に変わりました』
慎重さが裏目に出たのか、さらに関係値が悪化してしまった。
見ればフラヴィアは俺を叩き斬る気満々で剣の柄に手を添えている。
「だんまりか……まぁいい。取っ捕まえて、後でたっぷり尋問してやる」
「いや、待て待て! 争う気はないって! 純粋に困ってるなら手伝おうと思っただけだ!」
俺が慌てて答えると、彼女は見定めるような目をマモンに向けた。
「なるほど、
ミモザのクエストを受けた時もそうだったが、ソウルブレイドのNPCはプレイヤーの強さがある程度わかるようだ。
恐らくプレイヤーがクエストを円滑に受注できるよう、ゲーム的に配慮されているのだろう。
「よし、その申し出を受けよう。本来ならば騎士団だけで解決すべき問題だが……生憎、組織というのは色々と面倒なものでな」
フラヴィアは『融通の効かない奴め』とでも言いたげな目で下級騎士を睨みつけた。
「ひっ、仕方ないじゃないですか……後々責任を取らされるのは我々なんですからぁ……」
あー、なんか騎士くん大変そうだね。
気疲れした様子の下級騎士に同情していると、目の前にクエスト詳細が現れた。
<蒼き閃光>
受注条件:基礎ステータス合計値:2000以上、フラヴィアに認められる
達成条件:〝蒼き閃光〟ラギラトスの討伐
報酬:8000ゴールド(+4000)、名声ポイント1700
説明:長らく休眠していた竜が目覚めた。完全に力を取り戻せば、周辺に壊滅的な被害が及ぶだろう。〝正義乙女〟フラヴィアと協力して、ラギラトスを速やかに討伐せよ(レイド推奨クエスト)
『名前持ち……ネームドモンスターだな』
浮かんだ疑問を口に出すより早く、マモンが呟いた。
なるほど。魔獣もカテゴリ的にはNPCだから、ネームドが存在するのは当然か。
要するにボスクラスの魔獣ってわけだ。
それにしても、フラヴィアの協力込みでレイド推奨ときたか。
なら当然、その強さは計り知れないだろう。
「どうした? 怖気づいたか? 少しなら猶予はある。その間にパーティーを集めてもいいぞ?」
言葉を失う俺に向けて、フラヴィアがその覚悟を問う。
それに対して──俺が返したのは笑顔だ。
「まさか。こんな儲かるクエスト、一人占めする以外に選択肢はねーだろ」
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